第98話 土壌調整の材料を入手しよう
というわけで、無事レトルガ領の協力を得られることが確定したので。
次の日、俺はさっそく土地の土壌改良のための準備にとりかかることにした。
向かう先は、自決島。
麒麟芋を育てるには、土壌にとある特殊な栄養素が含まれることがその条件となるのだが……自決島に自生するとある魔物が、土壌の塩分をその栄養素に変えるのに役に立つので、それを採りに行くのである。
自決島は、レトルガからだと真南に位置する。
筋斗雲でひたすら南に移動していると、見慣れた島の形が見えてきたので……俺は、上空から目当ての魔物を探しだした。
「……あった」
その魔物は、すぐに見つかった。
移動中、千里眼である程度下調べを済ませていたので……あとは目星をつけていた場所に実際に近づくだけだったのだ。
地上に降り立つと、俺はてっぺんに白い綿が球状についているような形状の植物型魔物に近づいた。
これこそが目当ての魔物、ダンデライオンキングという自決島固有の魔物である。
「如是切。如是断。本末究竟等」
ダンデライオンキングに対し、俺は例の切断魔法を発動した。
この魔物はタンポポが魔物化したものであり……触れた人間や魔物の魔力を吸い取って、種を飛ばすためのエネルギーに変換するという性質があるのだ。
そのため、普通に剣で斬ろうとすると、逆に魔力を吸い取られてこちらが力尽きてしまう。
それを回避するには、このように切断用の魔法を使うのがセオリーなのだ。
切断魔法により茎から上が落ちてくると、俺はてっぺんの綿状の部分……すなわち種を、全てむしり取った。
今回、土壌の塩分を特殊栄養素に変えるにあたって必要となるのは、この種の部分だけだ。
この種にひと手間加えると、一定の確率で種が別の生物に進化し……その生物が、ミミズが肥料を排泄するかの如く、土壌の塩分を食べては特殊栄養素を排泄してくれるのである。
むしり取った種を収納魔法でしまうと、俺は更に種を集めるべく、別のダンデライオンキングを探すことにした。
だが……この調子で「千里眼で探しては、一本一本回収しに行く」などとしていると、時間がかかり過ぎる。
そこで俺は、効率的に発見&採取を進めるために、ひと工夫加えることに決めた。
今倒したばかりのダンデライオンキングから遺伝情報を抽出し、レーダーでそれを読み込んで生息場所を一気に割り出すのだ。
まずは死者蘇生の神通力操作を魔力で模した魔法で、ダンデライオンキングの遺伝情報を抽出する。
そしてそれを
それから探知魔法を発動し、レーダーの受信機構を起動すると……この島全体のダンデライオンキングの位置が、画面に出力された。
「お、なんだちょうどいい場所が」
出力結果を見て、俺は思わずそう口にした。
レーダーによると……この島のちょうど反対側あたりに、ダンデライオンキングの群生地の存在が示されていたのだ。
そこに行けば、一本一本ちまちま回収せずとも、必要な量の種を一気に集め終えることができる。
再び筋斗雲に乗り、俺はレーダーが群生地を示す方向へ一気に飛んでいくことにした。
◇
『なー、せっかくここ来たのに戦いはナシー?』
『すまないな。今回は来た用件がこれだかr――』
移動中、全く戦闘が起きないことにベルゼブブが不満げな発言をしたので、俺はそう返しかけた。
だが……ダンデライオンキングの群生地が肉眼でみえるくらいまで来たところで、俺は言葉を止めた。
とても種の採取に専念はできないほどに、群生地の周囲には様々な魔物が蠢いていたからだ。
レーダーは現在、ダンデライオンキングのみを表示するようになっているので……群生地周囲がこんな状況だとは、来てみるまで分からなかったのである。
『――いや、やっぱあの辺のやつら殲滅していいぞ。ただし、あそこの花には傷をつけないようにな』
代わりに俺は、ベルゼブブとコーカサスに出撃許可を与えた。
【大事なお知らせ】
ついに本作の書籍化が決定いたしました!
活動報告に詳細を記入しておりますので、ぜひご確認ください。
(下にスクロールして、ヴァリウスかコーカサスのキャラデザをタップすると活動報告に飛べます)