第1話 1億分の1以下の、超レアケースを引いた
聖騎士や英雄といった選ばれし天才がベテランとなって尚、半分も攻略できない難関ダンジョン。
その最下層に、テイマーである俺は、3体の従魔と共にやってきていた。
ここは、迷宮主がすむ部屋の目の前。
扉を開けたら、戦闘開始だ。
部屋の扉を開けると、そこにいたのは長めの棒を振りまわす、1匹の猿型の魔物。
このダンジョンのダンジョンボス──
「キイエエェェェェェッ!」
部屋に入るなり、孫悟空は俺や従魔たちめがけて
無数の残像を残す
聖騎士とかだったらなす術も無く木っ端微塵にされるであろう凶暴な連撃だが……俺はそれを簡単に見切った。
なんせテイマーは、従魔が戦闘経験を重ねて得た成長の一部を、自分の成長として取り込むことができる。
強力な従魔たちにたくさん戦闘をさせれば、それだけでテイマー本人も、聖騎士や英雄を軽く超える戦闘能力を身につけられるのだ。
とはいえ、やはり攻撃の主役は従魔たち。
まずは俺の従魔のうちの1匹、覚醒ウルトラスライムがわざと
損傷を受けた
これで、孫悟空の攻撃力は大幅に低下した。
「〓◆✖︎⌘§£¶……」
続いて、別の従魔・覚醒リッチが呪文を唱え始めた。
リッチ語なので何を言ってるのか分からないが、強力な呪文を唱えているのは確かだ。
「ギ、ギアアアアァァァァァァ!」
覚醒リッチが呪文を唱え始めてしばらくすると、孫悟空は頭を押さえて苦しみだした。
なるほどな。孫悟空の頭のリングに作用する呪文を唱えたか。
孫悟空が頭に嵌めているリングは孫悟空に強大な力を与える反面、特定の呪いを受けると孫悟空本人の頭を締め付けるという性質がある。
そこを突いたってわけだな。
孫悟空も反撃してこないわけではない。
孫悟空は自身の髪の毛を数十本毟り取ると、それに息を吹きかける。
すると、髪の毛一本一本が孫悟空の小さな分身となり、俺たちに襲いかかってきた。
だがその瞬間、俺のもう一体の従魔・覚醒ヨグ=ソトースが俺たちの前に躍り出た。
「ケッ、チョコマカした奴を出しやがって。全員、知識の海に沈めぇ!」
覚醒ヨグ=ソトースはそう言うなり、無数の輝く光の玉を放出し、孫悟空とその分身めがけて飛ばした。
その絨毯爆撃により、部屋中に轟音が鳴り響く。
数秒が経ち、光が収まってくると、分身たちは跡形も無く消え去り、孫悟空も息絶えているのが見てとれた。
──討伐、完了だ。
「これが、テイマーの強みなんだよなぁ……」
思わず、そんな言葉が口から零れる。
そう。あらゆる戦闘職の中で、テイマーは最強なのだ。
理由はたった1つ。
手に入れた凡庸な従魔を、全く別次元の、それこそ伝説級の強さにパワーアップさせてしまう魔法「覚醒進化」の唯一の使い手だからである。
本来、ウルトラスライムもリッチもヨグ=ソトースも、3匹集まったからって孫悟空に勝てるほど強力な魔物ではないのだが……俺のテイマーとしての魔法により覚醒進化を遂げた3匹は、難関ダンジョンボス程度ものともしないのだ。
この力の前では、熟練の勇者も聖騎士も賢者も……総じて吹けば飛ぶ紙切れのようなもの。
それは、この世界では常識中の常識だ。
……そうだな。
とりあえず、ご褒美をやろう。
そう思い、俺は収納魔法からビーストチップスを取り出した。
「お前ら、ビーストチップスの時間だぞ」
そう言って、袋を開けて床に置く。
すると3匹の従魔たちは、すかさず飛びついた。
どんな魔物が食べても美味しく感じる、万能お菓子というだけのことはある。
従魔たちがビーストチップスを美味しく頂いている間、俺は戦利品を回収することにした。
回収するのは
孫悟空の死体そのものに素材としての価値は無いし、頭のリングは非人道的なアイテムで好きではないので放置だ。
如意棒と筋斗雲を、収納魔法に収納する。
が──
「……しまった!」
収納魔法に手から吸い取られていくような感覚がして、俺は死を覚悟した。
1億回に1回も起こらないが、起これば術者は確実に死ぬと言われている、収納魔法事故。
まさか、こんなところでそれが我が身に起こってしまうとは……
◇
「どいてろ! テイマーとかいう役立たずが!」
そう喚く少年に突き飛ばされた時。
それが、俺が前世の記憶を取り戻したタイミングだった。
……「収納魔法事故で死んだ人間は、記憶と収納の中身を引き継いで転生する」ってのは、どこかで聞いた覚えがあった事だ。
どうせ眉唾物の情報だと思っていたが……この身に起こったのだし、事実だったようだな。
まず、状況を整理しようか。
転生後の俺の名はヴァリウス。
どこにでもいるような8歳児の村人で、生まれつきの職業適性は前世と変わらずテイマーだ。
そして俺を突き飛ばした少年は、確かこの地域の領主の息子だったな。
彼は15歳で、職業適性は聖騎士だ。
領民に対して傲慢に振る舞う貴族などほとんどいないが、まあこの少年は思春期真っ只中だからな、身分でマウントをとりたくもなるんだろう。
だから先ほどの言動も、大したことではない──と言いたいところだが、やっぱりちょっと聞き捨てならないな。
テイマーが……役立たず?
百歩譲って身分の差で見下してくるならまだしも、職業の方にいちゃもん付けてくるのか。
しかもテイマーという、この領主の息子の職業である聖騎士を含めた、あらゆる戦闘職を凌駕する最強の職業にだ。
それを理由に人を
……まあ、そのことについて考えるのは後だ。
なんせ、今俺たちは重大な問題に直面している。
俺たち──俺と領主の息子、そして他数人の領民の目の前に、1体の魔物が迫っているのだ。
「ヘッ、オークなんざ俺1人で狩ってやるよ!」
領主の息子は、そう言って威勢を張る。
確かに、15歳の聖騎士にとって単体のオークなど敵ではないだろう。
だが……あくまでそれは、相手が本当にオークならの話だ。
残念ながら、今目の前にいるのはオークではなく、
だがその強さの差は歴然。猪八戒は、幼体でも大人の勇者2人分に相当する強さを持つ。
この領主の息子では、一撃食らうと致命傷を負いかねない。
転生前であれば、覚醒ウルトラスライムの体当たり一撃で軽く倒せた相手だが……従魔のいない今の俺では勝ち目はない。
要するに、絶体絶命だ。
そう思いかけたが、俺は1つ、重大なことを思い出した。
「収納魔法事故で死んだ人間は、記憶と
つまり今の俺には、孫悟空討伐で得た如意棒があるのだ。
如意棒の伸縮の最高速度は、音速をも超える。
「伸びろ」と念じるだけで、圧倒的な運動エネルギーを持つ凶器へと早変わりするのだ。
伸び縮みの周期も異常な速さにできて、最高だと1秒間に数十回という突きの連撃も可能。
流石にこれを食らえば、