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9.使者をどこへ遣わす

 “痛くしやがって!痛くしやがって!”


  趙括が門を出ると、荻が必死に頭を桑の木にぶつけるのを見た、ぶつかるたびに桑の葉が舞い上がり、たくさんの葉が地面に溜まった。趙括は恐怖に襲われた。

 

 ええ?!なになに?!


 趙括は前に出ようとしたが、幸は彼を止めた。幸は彼に言った

 「子君、慌てないでください。彼はそのような人です。彼は昨日友達と一緒に飲んで、今日は耐えられない頭痛が来て、それで木を頭で叩いてるいるのです。」


 趙括は目ピクリと見開き、

 「彼の平日の行いはいつもこうなのか?」と尋ねた。


 幸はうなずいた、

 「それが彼の性格です。昔に鼻がかゆいと思って、自分の鼻を血が出るほど殴ったのです...子君は知らないと思いますが、彼が趙国にやってきた最初の頃、多くの人が彼を門客として受け入れることを頼んだそうです。」


 「しかし彼はあまりにも話が多く、果てしなく話しかけるので、それらの人々は彼に羊と馬の群れの放牧を任せたそうです。彼はこれらのことを得意にしていますが、それらの羊が彼の言うことを聞かないなら、または勝手に走り回ったら...」


 「彼はどうなるの?」と趙括は聞いた。


 「彼はそれらの羊を殴って蹴るのです。私は彼がロバと格闘し、ロバを地面に押さえつけて殴るのを見たことあります。馬や牛さえも殴ります。彼を怒らしたらいつもこうなるのです。戦うときは、たとえ拳から血が出ても気にしないのです。」


 「今では、羊、牛、馬のいずれであろうとも、彼を恐れています。吠える羊の群れでも、荻が歩いているのを見たときは黙り込んで、頭を下げ、草を食べるのです。」


 趙括の口は思わず開き、自分の門客たちの性格は....何と言ったらいいか...


 「後に、畜生だけでなく、人さえも彼を恐れ、彼を門客にしようとする人は出なかったのです。」


 なんて人だ...


 趙括は張遼の名前を聞くと泣く子も黙る話を聞いたことある。


 まさか自分の下にも牛馬を黙らせる猛者がいたとは、ただの狂人じゃないか...


 趙括は少し怖がり、荻の方を見なかった、これから戈ともう一人の門客を連れて、邯鄲の方に行く予定である。近頃はずっと馬服にいて、生活に困ることはないが、少し退屈してきた。


 門を出たところ、戈が馬の手綱を馬に縛っているのが見えた。趙括を見て、お辞儀をしてから言った、

 「子君はどうやら早起きする方法を見つけたようですね。なるほど、あなた様はいつも夜遅くまで読書をしていたから起きるのが遅かったのですね。今日は早起きするために、本すら読まなくなったようですね。こうして見ると、子君もお賢い方です。」


 趙括は頭が大きくなった。できれば戈を連れて行きたくなかったが、外出の時は馬車が必要、その仕事をほかの人に任せれば、戈は絶対に嫌がるのである。


 趙括は何か言おうとしたときに、額に手当をされた荻も出てきて、趙括の後ろに立って、怒った様子で趙括は戈を見た。


 「もし次にお前が子君のことを侮辱したら、絶対にその頭を切り落としてやる!」


 「外から来た野蛮人ごときが、私に指図しようとしているのか?」


 戈は荻と昔から仲が悪かった、だから荻の言葉を聞いたら、いつも言い返す。


 「お前だって平原君の門客になれなかった凡人じゃないか、平原君は馬服君のすべての門客を受け入れたが、お前だけを受け入れなかった、何の顔があって馬服子の馬車を乗ろうとしているのか。」


 「私は馬服君の恩徳に報いるために!平原君の門客にならなかったのだ!馬服子の世話をするために!」


 戈が荻の話を聞くと、怒りで跳び上がった、長いあごひげが震えた。日常において、荻はいつもこの話を持ち出して戈を苛立たせた。二人がケンカしそうになった時に幸が入って来て騒ぎを鎮めた。


 趙括は二人の闘争を無視して、横を見た。家の隣に住む人が出てきた、親切な老人だった。老人は杖を持った、非常に年を取った人で、いつも笑ってる。


 趙括は前に一歩歩き、小さくお辞儀をした、老人は微笑みながら、趙括の背中を桑の木で作った杖で打った。これは当然ながら攻撃行為ではない。趙人は桑の木は魔除けができると思っている。老人の行動は趙括を祝福し、魔除けすることを意味している。


 「平公はこれからどこへ行くつもりですか?」と趙括は尋ねた。


 「ワシは子供の手紙が来てないか尋ねるつもりじゃ、馬服子はどこへ行くのかね?」


 「私はこれから邯鄲へ行くつもりです」


 「ならば馬服子の安全を祈るとしよう」と老人は笑いながら、馬車を杖で軽くたたいて、その場を去った。


 馬車に乗り、戈は長い鞭を振って、馬車が発進した。荻と幸は馬車の後ろを追いかけるように走った。


 その様子を見た趙括は彼らのために馬でも買った方がよいと考えたが、荻が走りながら、絶え間なく幸に何かを言いかけていて、幸の絶望の顔を見たら、趙括はやはり今のままが良いと思った。


 うん!荻が後ろについてくるのは遠慮しよう!


 邯鄲の壁は非常に高く、趙括は壁を守っている兵士を見るために見上げる必要がある。


 馬車が城門へやってくると、辺りは人の気配が少なかった、若い人たちは皆戦争に行ったのである。老人が四五人いて、兵士たちの取り調べを受けていた。


 戈は直接馬車を門まで進行させ、すぐに兵士がそれを止めて、馬車の前に立った。


 「これは馬服子の馬車だ!」と戈は誇らしげに言った。


 「馬服子?!」兵士は大声だ叫び、その場は混乱状態になった、遠くを見回る兵士たちも走ってきて、城で取り調べを受けている老人もこちらを見てきた、趙括は熱烈で、崇拝で、ほとんど狂信的な視線を受けられて、少し不自由を感じた。


 「馬服子がここにいるぞ!!」


 ある人が叫び、寄ってくる人がますます多くなった、無数の人々が趙括の名前を呼んだ、道の横でひざまずいて趙括に頭を地面につける人もいた。


 城門を守っていた兵士は興奮しながら趙括の横まで歩いてきた。趙括は彼の顔を見た。


 この兵士は非常に若い、いや、幼い、あごひげすら生えてなく、目をキラキラさせて、用心深く尋ねた。


 「馬服子は上君に出陣の要請をしに来たのですか?」


 馬服子は沈黙しながら首を横に振った。


 幼い兵士は少しガッカリした様子で、また趙括を見た、

 「僕には二人の兄上が長平にいます。もし馬服子が将軍になってくれれば、私はあなた様と共に戦場へ行くつもりです。」


 趙括は言葉を失った。兵士は趙括が怒ったかと思い、慌てて道を譲った。馬車はゆっくりと城へ入った。


 邯鄲城は記憶にあるように繁栄していなかった。道路の上では人が少なく、料理店でも一人か二人の男しか肉を食べていなかった。


 邯鄲城は人が少なく、がらんとしていた。趙括の顔色は恍惚のように見え、邯鄲を離れるまで何も言わなかった。邯鄲城の状況すらはっきりと思い出せなくなった。


..........


 王宮内で、趙王は四人の大臣と面を向って座り、ここにいる人たちに田単(でんたん)藺 相如(りん しょうじょ)の姿が見当たらない。田単を呼ばなかった理由は彼が戦事に興味がないからで、藺相如を呼ばなかった理由は彼が病気で家に寝転んでいるからである。趙王はこれ以上この老人に負担をかけたくなかった。


 趙王は四人の大臣を見て、怒って尋ねた。

 「初戦敗退、都尉(とい)は戦死した。寡人は自ら戦場に赴き秦国と決戦したい、皆はどう思う?」


 大臣の楼昌(ろうしょう)は大きく(はい)して言った、

 「秦国へ趙国は総力持って決戦することは両国にとって、良いことではありません。二匹の虎が争っているのは、周囲の狼たちを喜ばせることではありませんか?私はこの際、秦国に使者を出して和議をすることを提案します。」


 趙王は何も言わずに、虞卿(ぐけい)の方を見た。


 虞卿は少し怒った様子で立ち上がり言った、

 「秦国はすでに全力を使っている!あやつらは趙国を滅ぼそうとしているのだ!こんな時に、和議をするか!」

 

 「ならば、そなたはどうしたらよいの思う?」


 「上君は魏国、楚国に使者を出して、助けを求めるべきです。そうなれば、秦国は必ず天下の国が連合して秦国を攻めると思い、慌てるはず。」


 「たとえ上君が秦国に使者を送ったとしても、先に魏、楚に使者を遣わすべきです。そうなれば和議にも役立つはずです」

 

 虞卿が真剣な顔で言っているのを見ると、趙王はうなずき、また平陽君(へいようくん)趙豹(ちょうひょう)を見た。


 趙豹は怒った様子を見せ、

 「過去に秦国が韓国を討伐する時、韓国の太守(たいしゅ)が秦国に抵抗して、趙に城を十七城を献上してきたとき、臣は上君に言ったはずです。天から降ってきた利益は最大の災いだと、このような行動は秦国を怒らせるのだと」


 「秦国に城を譲ったらどうですかと私が上君に言った時、あなた様は兵を使わずにこんなにも城が手に入るのは良いことと言った。それがこんな事態に至ったのです!!」


 趙王は怒って聞き返した、

 「ならば、寡人はこの上党郡をもらわなければ、秦国は攻めに来ないのか?秦国は虎のような国だ、土地を受け入れずに、より強くならずに、手に入れた肉を虎にあげて、人を襲うのを待つのか?それに、今更それを争ってどうする?」


 趙豹はしばらく言葉が出ず、また言った、

 「ならば、私は上君に鄭朱を使者として秦国に遣わす事を提案する、過去に秦が攻めて来た時も彼が秦国に使者として行った、なので最適だと思います。」


 趙豹の隣に座る、四番目の大臣、鄭朱(ていしゅ)は立ち上がって、趙王にお辞儀をしてから、

 「私は秦国に行って、和議をしようと思います」と言った。


 しばらく考えて、趙王は首を縦に振って言った、

 「趙の存亡に関わることだ、くれぐれも注意しなさい!」


 鄭朱はすぐに誓いを誓って、趙王の表情はほんの少し和らいだが、隣に座っていた虞卿は悲しそうな顔で立ち上がって、

 「趙は秦の奴隷になるぞ!」と叫んだ。

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