51.荀子の兵法
「兵法の要領を言ってください。」
臨武君は頭を上げて、自信満々に、
「まずは有利な気候条件で攻め、そして有利な地形を占拠するために、敵の動きをよく観察して、敵の後に行動するが、敵の先に到着する。これが兵法の要領です。」
荀子は首を横に振り、笑って、
「違います。私は本当の兵法とは、民衆と自分を一つにすると聞いたことがあります。もし弓と矢が協調しなければ、誰もそれを使うことができません。もし民衆が君主に好感を持たなければ、例え周の武王でも戦に勝つことができません。」
「民の心を理解できる者こそが、兵を使う達人です。ゆえに、兵法の要領はいかに民衆を自分に帰順させるかです。」
荀子はそう言って、趙王の方を見て、
「もし上君がこのような宴席を減らして、王宮にある食料を民たちに分け与えることができれば、あなた様の馬を兵士たちに分け与えることができれば、民を愛し将軍を信頼し、上下一体になることができれば、あなた様はきっと強敵にも打ち勝つことができるでしょう。」
趙王は何か分かったようにうなずいた。
臨武君は少し焦って、
「違う!兵法が重視するのは地形の利であって、施すのは抜け目のない策である!兵法をよく知る者は神出鬼没で、誰も彼らがどこから出てくるか分からない。孫武呉はこのような方法を使って無敵になった!どこに民を帰順させる方法に頼る必要がありますか?!」
荀子は臨武君を見ようともせずに、趙王を見て、
「違います。私が言っているのは仁徳ある人の軍隊です。仁徳ある人の軍隊では下の者が子供のように上の者に仕え、上の者も親のように下の者を愛する。同級の人は兄弟のように互いを尊敬し、助け合うのです。」
「それに、仁徳ある人は十里の国を治めれば、百里の状況を知ることができる。百里の国を治めれば、千里の状況を知ることができる。千里の国を治めれば、天下の状況を知ることができる。仁徳ある人人はただ王宮に座るだけでなく、民の状況を察して、功績ある兵士を労い、貧しい民を助けるのです。」
「ゆえに、仁徳ある人が政を執れば、国が繁栄し、諸侯は皆服従するのです!遅れて降参する者は危険になり、対立しようとする者はどんどん弱まり、裏切る者は滅亡するのです!」
趙括たちが去った後に、趙王はやはり荀子と臨武君と戦について議論させた。荀子は自分の意見を述べて、臨武君が時々反発していた。周りにいる大臣は耳を傾け、御史が必死に記録していた。
荀子の喋りはますます早くなり、言葉がますます厳しくなった。荀子は立ち上がり、諸国の軍隊を次々と評価した。斉国の軍隊は一文にも値しないと言われ、魏国の軍隊は国家を害する軍隊と言われた。秦国の軍隊を罵らなかったが、秦王をひどく罵った。
趙王は興味深く聞いていたが、臨武君は荀子の見解を認めなかった。彼は仁徳の軍隊をちっとも信じられなかった。戦争とは手段を選ばずに、殺しあうことである。仁徳にいられるか!?もし荀子が将軍になれば、きっと全滅するだろう..と思った。
趙王が荀子に質問した、
「先生、寡人は一度も神を祀ることを忘れたことがありません。祀る時も信仰心が強いのです。しかし、なぜ神はしばしば寡人に災いを見舞わせるのですか?」
「神には感情がありません。神はあなた様の尊敬、あるいは中傷に変化することはありません。神は自分の規則を持っていて、私たちには理解できなく、どうしようもないことです。」
趙王はぎょっとして、
「ならば寡人どのようにして災いを避ければよいのでしょうか?」
荀子は微笑んで、
「あなた様は神に祈ることで災いを避けることはできませんが、自分自身の力で災いを回避することができるのです。用水路を作れば、干ばつを回避することができますし、堤防を作れば、津波を回避することができます。百姓たちに優しく接して、勤勉に国を治めれば、他国は恐れて、あなた様は戦争を回避することができます。」
趙王はうなずいて、また質問した、
「寡人はあなたが誰でも聖人になれると言ったのを聞きました。本当ですか?」
「そうです。聖人と一般人、君子と小人は生まれたばかりの時は皆、本性が悪なのです。聖人が聖人であるのは、自分の努力を通じて、多くの知識を蓄積し、良いことをしただけです。どんな人でも、勉強を通じて聖人になることができます。」
荀子がこの話を口にしたら、皆は驚き、最も受け入れがたいのが臨武君だった。
聖人と一般人は違う!すごい人物であれば、生まれたときに何らかの兆しがあって、その父も大方偉い人ばかりである。なぜ一般人でも聖人になれると語るのだ??
楚国では階級が明確に区別されており、臨武君は生まれながらにして高貴な者であったため、この理論を認めることはできなかった。
臨武君は少し意地悪に、
「ならば荀子は聖人になれたのですか?」
荀子は首を横に振って、
「私は一生を通して、さまざまな道理を研究し、知識を身につけ、仁義を施すことを自ら促してきたが、今になっても、聖人のなすべきことをなすことができず、功徳もない。私が聖人になる道からまだまだ遠いです。」
「あなたのような人でさえ聖人になれないのであれば、誰が聖人になれるのですか?」
「家財を散財して貧しい人を助けることができ、百姓たちのために自分の頭を下げて食料を求めることができ、他人の批判に直面でき、恐れていても勇気を出せることができ、どんな人にでも優しくでき、道で出会った見知らぬ人を助けることができる人!そんな人であれば、きっと聖人になれます。」
「ハハハ~~~」
臨武君は大笑いして、首を横に振り、
「どこにそんな人がいるか!」
荀子も笑って、
「いる!」
宴席はまだ続いているが、藺相如らは次々と去った。趙王は荀子を取り残し、趙の官職をつかせようとした。
天気はますます寒くなり、藺相如が王宮を出たときには、馭者の顔がすでに真っ赤になっていた。荀子の言葉を吟味している藺相如は屋敷に戻り、門の前に馴染みの若者が見えた。
若者は門の前に立って、自分の服を脱いで、裸の子供に着せた。子供が恐れて頭を上げたのを見た若者は薄着を着て、風の中に立ち、微笑みながら手を伸ばして子供の頭を撫でた。
藺相如は目を明るくして、思わず手をたたき、
「いる!」