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5.我の首を切ってください

 男たちはいくらこの爺さんの長いヒゲがすごいからと言って、戈を相手にしなかった。戈がこの人たちを懲らしめようとしたときに、荻がニヤニヤとして出てきた、荻は戈に視線を置くことはなかった、衆を連れて馬車の隣に来た。


 荻を見たから戈も短剣を直して、鼻から息を出して、馬車に乗り、頭を別の方向に向けた。


 趙括の三大門客、荻が最も勇ましく、ただ口うるさく、話が多い。


 戈の性格が一番悪く、人と仲良くするのが苦手、だが三大門客の中で唯一字が読める人だ。小さい時の趙括の先生と言ってもいい程だ。


 幸は馬服で名声が悪く、趙括に忠誠を誓う前までは、邯鄲で最も悪名高い遊侠と言ってもいい、趙括の元に来ても、悪事は少なからずやっていた。


 ただ、幸は趙括の門客の中で最も仕事にできる人であった。趙括が何かあったら幸に頼み事することも多かった。長年において、幸は何度も頼み事をやらかした事がが、彼より勤勉な人はいなかった。趙括は彼の人柄は嫌いであったが、追い出すことはなかった。


 荻は趙括に一拝してから、

 「子君、私が聞くことによると、徳ある人は、暗闇の中のたいまつのように眩しく、下士たちに千里も遠くからやってきて、心からの忠誠を誓わせることができると.....この人たちは皆馬服の周辺の豪傑であり、子君に従い、死ぬことをも恐れない、故に子君に彼らを残して門客にしてほしい。」


 戈は鼻から息をを出して、何も言わなかった。趙括は少し頭が痛くなった。


 荻のやつ、また迷惑なことをして.....自分は別に大志を抱かえいないし、オタクになろうとしている人に、そんな多く門客を集めてどうする?


 趙括は豪傑たちを見て、その多くは青年であり、武器を持っている、燕趙に地に勇士が多い、これらが馬服一帯のほとんどの名のある勇士であった。彼らは熱い視線を趙括に向けて、目がキラキラしているように見える、これがさらに趙括を困らせた、荻は一体何を言って、彼らをここまで興奮させたのか。趙括はちょっと考えて、彼らを見た。


 「私は皆が馬服において名のある豪傑だと知っている、あなたたちが私に忠誠を誓いに来たのは、私にとってこの上なく光栄だ。ただ、括はまだヒゲすら生えていない若造だ、私は不安だ、皆が私についてきて、成果を上げることができないと....」


 趙括はそう言ったら、本来賑やかな場所がすぐにシーンとなった。


 豪傑たちは信じられない目で趙括を見た、荻までも目を大きく開いた、豪傑の中に、一人顔が長くヒゲが少ない男が怒った様子で趙括を見て聞いた、


 「もしや馬服子は私たちが名声が欲しく、功績のためにあなた様に忠誠を誓いに来たと思っているのですか!?」


 え?違うの??趙括は茫然と彼達を見た。


 その人は趙括が答えないのを見て、腰辺りから短剣を抜き、ほかの人もそれを見て短剣を抜き始めた。趙括は焦り始めた、え..なに?ここで私を殺すのか?荻、戈!趙括は自分の二人の門客を見た、荻は頭を下げ、顔が真っ赤だった、隣にいる戈は依然と頭を上げて、こちらを見ない。


 豪傑たちが自分の武器を自分自身に向けてから、趙括はぞっとした。やっとこの人たちが何をしようとしているのが分かった。


 彼らは趙括を殺そうとしているのではなく、自分自身を殺そうとしているのだ。自害だ!


 こんな方法で彼らが趙括に忠誠を誓うのは功績のためでなく、心に趙括に対する敬意があるから忠誠を誓いに来たと証明しようとしているのだ。今の豪傑は後世の豪傑と少し違い、燕趙の地では、豪傑の多くは経済能力がある家庭で生まれた、庶民ではなく、彼らは侮辱してはいけないのだ、彼らどころか、庶民出身の遊侠ですら侮辱してはいけないのだ。


 彼らが欲しいのは金でも名声でもなく、重視、ある種の信頼が欲しかったのだ。


 昔に鄭国と宋国が交戦していた時、宋国の将軍の華元は開戦の前に牛と羊を殺して三軍をもてなした、彼は皆をもてなし、ただ自分の馬車を操る馭者・羊斟だけに羊の肉を分けるのを忘れた。羊斟は怒り狂って、将軍に重視されていないと思い、侮辱されたと感じた。

 そして、開戦後、羊斟は華元が載っている馬車を操り、真っ直ぐに鄭国の陣営へと突っ込んだ、その結果、華元は捕虜となり、宋国は大敗した、だから、この時代において、人々が侮辱を受けてはならないのだ。


 「手を止めなさい!」趙括は慌てて叫んだ。


 皆はまた趙括の方を見た、趙括は慌てて馬車から降り、趙括はこんな多くの人が自分の言葉一つで殺されるのは嫌だった、本来の趙括はどうでもよく思っているかもしれないが、二千年後の世界から来た魂はそう命を軽視させることは許せなかった。


 趙括は眉をひそめて、真剣な顔で彼らを見て一礼して言った、

 「括は過ちをおかした、括はすでに自分の過ちを認識した、どうか皆に許してほしい。」


 趙括が一礼しているのを見た、死ぬことさえ恐れない人たちは驚き、慌てて一礼する方向を避けた。そして、趙括に一礼をした、


 「私たちはあなた様の傍にいたい、私たちは卑しい者ですので、あなた様の礼拝を受けることはできません。どうか私たちをあなた様の傍に残して、馬車を操り、雑用をさせてください。」


 「分かった、そうしよう。」


 「子君は誠に信義ある人だ!私は半生を無駄に生きてきたようだ!もっと早くあなたのところへ来たらよかった。」


 「私は自分の目を潰したい!私がついていきたい人は、ずっと傍にいたとは....」


............


 邯鄲城、最も有名なのは美人だ、趙国は美人が多い、これは天下共通の認識だ、諸侯は趙女を嫁にすることを誇らしく思える、趙の美女は邯鄲に多く集まっている。邯鄲城は趙国において最も膨大な都市である。


 ここでは斉国から来た商人、燕国から来た武士、さらに楚国から来る士が見られる、この人たちは真っ赤な楚服を着て、趙人がわからない言葉を話し、堂々と道の真ん中で歩いている。


 ここの料理店は秦のように国が運営しているのではないため、雰囲気も厳粛ではない。何人かの男が料理店内で話しているのが見える。


 「話に聞くと、馬服子こそが本当に才能があるものだと言う、馬服子は幼い頃から兵法を熟読し、彼に勝るものはいない。馬服君だって、生きていた時は馬服子と論争になっている時は勝てなかったと言う、趙国にこんな才能がある人いるというのに、なぜ上君は彼を将軍に任命し、秦の軍隊と戦わせないのですか?」


 「私は肉を食べる人は凡庸だと聞いたことがある、彼らはきっと馬服子の才能に嫉妬したに違いない、秦は我らの上党を攻め落とし、今となっては長平まで攻め落とそうとしている、私たちは守ることしかできない。もし...もし馬服子が趙国の戦車を率いることができれば、秦国など恐れるに足らん!」


 一人はそう言って、怒りの拳を机に叩きつけた。趙人は死ぬことを恐れない、服を変え、戦馬に乗ってから、趙国人は頭を下げることはなかった。


 今の秦国との戦争で、趙国が劣勢なのは間違いなく趙国人の神経を撫でた、ほとんどの趙人がこの事を話している。彼らは激しく怒っている、彼らは侮辱を受けた、趙人は侮辱されてはいけない。この状況下で、趙括の名声は一気に趙国内に広がった。邯鄲だけではない、趙人がいる場所に、趙括の名前が聞こえる。


 趙人は言っている、我らの馬服子が将軍となれば、秦人はとっくに秦国に返っている、尉官が秦国に捕虜されることもなかった。


 噂に聞くと、燕国では、趙人が趙括の事で人を殺したと言う。殺人の原因は、この趙人が趙括の話をする時に、ある燕人が彼に質問した、趙括とは誰ですかと。


 それでこの趙人は趙括...いや、自分...それも違う、それでこの趙人は趙国が侮辱を受けたと思って、その場でこの燕人を殺したという。


 邯鄲城の南のある屋敷に、二人の男が面を向って座っている。


 「私はあなたの意見を聞いて、趙括を尋ねに行った。」


 「しかし、彼は私の言葉で喜ぶことはなかった。彼はこう言った、私は彼の友達だから、私を傷つけるような真似をしないと。」


 嬴異人の話を聞いて、もう一人の年長者はぎょっとして、ヒゲを撫でながら、驚いたように聞き返した


 「もしやこちらの意図が見破られたのか、公子は彼が傲慢であり、感情的であると言っていたのではないか?なぜこちらの策略が見破られたのですか。」


 嬴異人はしばらく黙って、言った、

 「私と趙括は二年も知り合っている、彼にこの策は見破れない、おそらく本気で私を友と思っているのだろう...私を傷つけたくないのであろう」趙異人はそう言いながら、より気持ちが複雑となった、年長者は彼を見た、彼はすごく目の前の若者を見込んでいる、この寵愛を受けていない公子は心に大きな志向がある。


 彼は失意の時には堪え忍び得意の時に大いに腕前を振るうことができる、いくら趙人に罵られることがあっても、それを何事もなかったように無視することができるし、自分のこの策略を聞いて、なんと自ら実行して計画の成功の確率を上げようとしたのだ、このような気迫、年長者に好かれないはずがない、自分にとって彼が一番の宝物だ。ただ、趙異人には欠点もある、小さい時から寵愛を受けていないため、趙国に来て、侮辱を味わいつくした、それゆえにすごく敏感である。


 趙括が少し善意を示しただけで、もうこの関心されたことのない若者の気持ちを乱した。


 「彼は本気で私を友として接してくれてる、私も彼を傷つけるようなことはしたくありません、彼は恐らく趙国で唯一私に真心で接してくれてる人だ、廉頗の位置に代わる人を変えないか?」嬴異人はそう言った。


 年長者はこうなると思って長くため息を吐いた、人を変える?えらく簡単に言っている、私はこの趙括の名声を高めるために既に財産のほとんどを使った、数十年の財産というのに。今となっては南の燕国ですら趙括という名前を覚えている。それに趙括という若者は嬴異人が秦に勧めた者で、趙括を別の人を変えたら、公子にはもう実行させてもらえないだろう、それでどうやって秦の好感を得れるのか。


 ただ、年長者はそうとは言わなかった、彼は嬴異人の性格を知っている、こうでは説得できないと。

 

 彼は嬴異人に一拝して言った「一つ約束してほしい。」


 嬴異人はすぐに彼を支えて言った「あなたは私の先生です、そのような礼儀で私にしていけません、どうかおしゃってください。」


 「約束して欲しいのです、もしある日、私があなたの大業を成す道を阻むようなことがあれば、どうか私を殺してほしい、私はあなたが私情で自分の志向を無駄にするようなことがあってほしくない、約束してください」年長者は真剣に言った。


 嬴異人は拳を握りしめて、全身震えながら歯を食いしばった。


 「....分かった、約束しよう。」


 「ではこれから、どうやって趙王に趙括を将軍に任命させるのですか。」嬴異人は厳かで静かな顔で言った。

公子は貴族の子弟の意味ですよ。

あと年長者が誰だか分かる?


 誤字あったら言ってね。

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