45.最大の効果
秦の孝公十二年、秦の人が咸陽城を建ててから、この都市はそれが平凡に甘んじないことを運命と定めた。完成した翌年、秦は櫟陽から咸陽に移った。以来、ここは秦帝国の心臓となった。咸陽の規模は邯鄲城にも劣らず、ただ、咸陽は邯鄲に比べて物騒なところが少なく、静粛なところが多かった。
咸陽城内の建物は勝手に并んでいるのではなく、道路の両侧の建物は対称であり、規模や様式、漆までが同じである。加えて、秦人の青壮は普遍的にも軍事訓練に参加しているため、畑を耕す時でさえ一列に並んで畑に行くのである。
これは残りの六カ国から見て、非常に理解し難いことであり、非常に恐ろしいことでもある。
秦は黒である。黒色は生まれつきに一種の別の重い感じがあって、一種の厳粛な感じがある。趙は赤である。楚人のようなロマンチックな赤色ではなくて、血の色である。これはよく怒りやすい趙の人の性格を代表する。
「長平の間者によりますと、趙括は彼らを発見した後に軍を列に作り、自ら戦いに参加し、四十数人もの我々の武士を殺した。彼らの死後、趙括は彼らを太行山に埋葬した。彼はまた、太行に一つの墓地を建て..て...」
「続けろ。」范雎は冷たくそう言って、間者が彼の前に立って全身が震えている。
「彼はまたあなた様や白起将軍、大王様...全員をそこに埋葬すると言ってました。」
「ハハハ~~」范雎は忽然笑い出して、涙が出てきた。范雎は笑って出た涙を拭いて、
「碌な奴だと思っていたが、まさかこんな事になるとは....」
間者はまた范雎を見て、
「では、趙括を殺すように間者たちにまた命じますか?」
范雎は首を横に振り、
「こやつは四十人の秦国の武士を殺せる。ただ者ではない。白起将軍でさえできるとは限らないのに。そんな人間を、どうやって殺ることができようか。」
間者は范雎が怒ってないのを見て、ますます畏れの気持ちが消え、真剣な顔で、
「昔の公子慶忌は、力が強くて、勇猛で、虎や狼を殺せた。しかし、彼のような勇武さを以っても、また離に殺されたのではないですか。たとえ趙括だからと言って恐れることはありません!」
范雎は少し驚いたように彼を見て、しばらくして微笑んで、
「私はあなたが離のような勇気を持っている事が非常に嬉しいが、同時に離のような知恵も備えてほしい。趙括の事は私が何とかするので、白起将軍に、安心してくださいと伝えてください。」
忽然人るが入ってきて、范雎の家臣であった。その家臣は、
「当主様、趙人が訪れました。」
「趙人?説得役か?」と范雎は軽蔑しているように見える。彼は最も説得役が嫌いのである。彼だけではない、秦国のすべての人間もそうである。
追い払おうと命令しようとしたが、急に止まった。范雎は目を細めて、家臣を見つめた、
「いくら貰った?」
家臣は驚いて、慌てて、
「私は彼に金の要求をしたことはありません。」
「正直に話してくれたら、なかったことにするが、なお嘘をつくのであれば、私は決してあなたを許しません。」と范雎は静かに言った。
家臣はさらに慌てて、
「彼は確かに私に賄賂を贈ろうとしましたが、私は貰ってません。しかし彼は私に、
“もしあなたが報告して、范雎様が私に会わなかったら、あなたは罰を受けることはありません。しかし、もしあなたが報告しないせいで、何か重大な事が起こったら、あなたはきっと罰を受けるでしょう”
と言われたので、報告しに来ました。」
范雎はヒゲを撫でながらうなずいて、
「金で心を打たれないのは、すでに普通の人を超えている。説得役も趙国から秦国まで来きた上に、私の屋敷にたどり着くとは...彼を屋敷に入れなさい。」
説得役が屋敷に入ったら、范雎はやっと彼の姿が見えた。年を少し取っていて、鄭朱のように焦る様子はない。范雎は彼を観察している間に、その人は範雎に向かって一拝をし、
「呂不韋、応侯に拝見いたします。応侯、お元気ですか?」
范雎はぎょっとして、
「元気です。あなたが呂不韋ですか?どうぞ座ってください。」
范雎は顔を和らげた。彼はこの呂不韋を知っていた。公子異人の門客であり、趙括の名声を上げる策も彼が考えたのである。その上、彼のおかげで異人の名声ははせ、秦国でも聞こえるようになった。
「私はあなたが趙国の公子異人に仕えていると聞きました。どうしてここへ来たのですか?」
范雎は心の中で呂不韋が来た意図が分かっていても、不思議そうに尋ねた。
呂不韋は笑って、
「公子が私を咸陽に遣わしたのは、彼の代わりに先輩たちに挨拶をするためです。だから私はここへ来ました。」
范雎は恐縮した様子で首を振り、
「私は魏から逃げてきた罪人に過ぎません。ここでかろうじて生き延びているのだから、公子異人の先輩とは言えません。」
「あなたは秦国の宰相で、秦国で最も尊敬されている一人です。公子に頼まれ、贈り物を持ってきました。」
「これは、これは。親切にどうもありがとうございます。」
范雎は笑って、贈り物を貰って、黙って呂不韋を見つめ、何も話そうとしなかった。
呂不韋は仕方なく、また口を開き、
「実は...頼みごとがあるのです。」
范雎はやっと驚いたふりをして、
「私に頼みがあるから、これらの贈り物を送ってきたのですか?」
呂不韋はぎょっとして、
「応侯、安国君は今の太子です。あなたは秦国で最も聡明な人だから、わかると思いますが...彼の子孫の中に度胸があり、重大なことを任せる人はおりません。」
「しかし、私の公子異人は違います。彼は今の秦王のように度胸があり、あなたを家族のように扱い、信頼することができます。もし彼が王になれば、あなたは今までのように自分の才能を発揮することができます。」
呂不韋はまた、
「今回の件で秦国は多くの間者を失くしました。しかし、公子は多くの門客を召集しています。公子は彼らの代わりに邯鄲、または王宮内の消息をあなたに伝えることができます。」
「私は常に最大の効果を求めています。もし利点が二つだけしかないのであれば、あなたを助けることは出来ません。私の方からもう一個条件があります。」
范雎が笑いながらそう言っているのを見た呂不韋はため息をして、
「分かりました。」
范雎はやっとうなずいて、
「では、あなたの頼み事は何でしょうか。」
呂不韋は自分の意図を話した、
「華陽夫人を拝見したいです。手伝っていただけませんか?」
范雎はしばらく考えて、
「なるほど、そういう事ですか......そうですね。華陽夫人に会いたければ、まずは華陽夫人の弟の陽泉君を訪れてください。」
「彼は自分の姉を頼りにして、ここまできたのです。非常に気の弱い人です。あなたが彼を説得すれば、彼を連れて華陽夫人の姉を説得してください。そうすれば、あなたもきっと自分の目的を達成できるでしょう。」
呂不韋は頷いて立ち上がり、範雎に向かって一礼して、
「分かりました」
「では、応侯は私に何をさせたいのですか?」
「あなたはこの件が終わってから来てください。またその時にお伝えします。」
呂不韋が去ったのを見た范雎は座りながら、机の上に置いている趙括の情報を見て、ますます目つきが冷たくなり、歯を嚙みしめ、
「趙!括!」