40.初戦
趙括は最初からこの旅が簡単に終わらないと知っていた。なぜなら制度上の違いで諸国は秦国を一切知らないのに対して、秦国は諸国よりも諸国を知っているからだ。趙括が食料を借りたことは、もしかしたら秦国の方が趙王よりも早く知ったかもしれない。
平原君が貸してくれた二百人の騎士のおかげで趙括は安心していたが、まさか秦国が敵の国内で数百人の軍隊を組織できるとは思わなかった。ましてや強弩を持っている。もし秦軍が丹水防衛線を突破したら、趙国の外部と内部から同時に力を加えたら、邯鄲まで直行できるのではないか?
今更こんなのを考える時間はない。趙括は凄く怖いが、それを門客たちにバレないようにしているのである。もし彼でさえ畏れを見せたら、門客たちもきっと勇気を失くすに違いない。そうなれば、羊腸坂で勝てるわけがない。
故に趙括はわざと平気なふりをして、肉をガツガツ食べた。それを見た皆も口を大きく開けて食べた。趙括は時々彼らの食べっぷりを称賛した。
趙括は近頃ずっと彼らと一緒に過ごしてきたため、もうすでに全員と慣れたのである。だから目の前で食べたり、笑ったりする人たちを非常に心配している。自分の選択が彼らの生死を決めることになると思えば、慌てずにはいられなかった。
戈が趙括に羊の肉を渡した。趙括は彼から肉を受け取ったとき、手が震えていた。
「ハハハ、肉が少し熱いですね。」
戈は何も言わずに、ただ自分の短剣を真面目に拭いていた。
李魚が忽然寄ってきて、
「子君、彼らがすでに警戒を緩めているのであれば、なぜ彼らが寝てから襲わないのですか?」
「それはだめです。たとえ警戒を緩めてるとは言え、夜には必ず周囲を見張る人がいるはずだ。また、夜ではこちらも見えにくいため、仲間も傷付いてしまうかもしれない。」
李魚はうなずいた。彼は戦争を経験したことはなく、兵法も読んだことがない。
「李魚、あなたは私たちと共に戦いに行かなくてもいいです。後で馭者たちを連れて、戦場の両側に行ってくれないですか?」
「しかし、子君!人が多すぎると、相手に近づきにくいのではないですか?それに、馭者の中には年老いた人の方が多く、何の助けにもならないと思います。逆に逃げ始めたら、騎士たちにも迷惑がかかるかもしれません。」
趙括は微笑んで、
「分かっています。戦わせるためではありません。」
趙括は空を見て、立ち上がり、
「趙傅、あなたは彼らを連れてきて、準備をしてください。」
趙傅は騎士たちと若い馭者たちを召集して、幸の指導下で枝を体に巻き、泥や草を顔に塗った。
すでに日が暮れて、だんだんと暗くなり、趙括たちはすでに準備ができた、趙括は李魚の近くに来て、
「李魚、あなたは馭者たちを連れて、戦場の両側に分散してください。私たちが戦っている間に、あなたたちは叫びながら、木を叩いてください。」
「何を叫んだら良いのでしょうか?」
「秦軍を罵り、彼らが怖がるような事を言ってください。」
「分かりました。」
趙括と李魚の会話が終わると、趙括は腰にある宝剣を抜いた。この宝剣は昔に彼が趙王から授かった物で、かなり鋭い。ちなみに古代の成人式は現代より少し早いのである。
趙括は人を率いて羊腸坂の入り口からゆっくり登り、趙傅は人を連れて、小道から上に登った。
「何者だ?!敵襲!!」趙括が反応する前に、忽然前方から大声が聞えた。よく見てみると一人が木の上に立って、こちらの状況に気付いていた。
彼は強弩を持って、矢を撃った。戈が趙括を押し倒して、矢が趙括の耳横を通過した。趙括の全身が震えたが、それでも何とか立ち上がり、剣を高く挙げて、
「やれ!!!」
恐怖で声が震え、少し変な声が出て、その場を気まずい雰囲気にさせた。
その瞬間、幸が木から飛び降りてきた人の近くに来て、剣で彼の胸を刺した。その人は鎧を着ていないため、すぐに死んだ。門客たちも叫びながら、敵に向かった。
左側の坂では秦人が百人くらい寝ていたが、叫び声を聞いたら、すぐに立ち上がって武器を持った。リーダーの大男もこの中にいる。緑色の顔をした人たちが向かってきたのを見て驚いたが、すぐに叫んだ、
「殺せ!!」
右側の趙傅はもともとバレなかったが、左側の叫び声でこちら側の敵まで起こしたのである。趙傅はすぐに皆を連れて、右側も殺し合いが始まった。
休んでいた秦人は驚かされたが、すぐに気を取り戻して、反撃をした。
趙括は皆に挟まれて、頭が真っ白だった。剣を持って、ひたすらに前へ走ったが、前にたどり着くときに、すでに殺し合いが始まった。時々誰かが倒れて、趙括はただ剣を持って、茫然と周りを見た。
その時、彼は戈が一人を殺して、その後ろに敵が来て、彼を切ろうとしたとを見た。趙括すぐさまそっちまで走り、目をつぶりながら、敵を刺した。
プシューッ!剣が何かを切ったような感覚がして、体に何か熱い液体がついた。目を開けたら、その人がすでに地面に倒れて叫んでいて、左腕が別の場所に落ちていた。趙括はこの場合を見て、必死に吐き気を抑えた。
忽然密林から叫び声が聞えた。
「殺せ!!」
「秦の犬を殺せ!!」
「包囲しろ!一人も逃がすな!!」
李魚は馭者たちと共に必死に叫びながら、周囲の木を強く叩いた。李魚の周りに数百人もいて、戦場には行けないが、ここに立って叫ぶだけでも、秦軍に圧力をかけれた。秦人は顔を白くして、密林を見た。大男も後ろを見て、撤退する道を探し始めた。
この叫び声で趙括を一気に冷静にさせ、周囲に向かって叫んだ、
「援軍が来たぞ!!一人も逃がすな!!」
門客たちの士気が一気に高まり、再び奥へ突撃した。今度こそ秦軍は耐えることができず、圧倒された。リーダーの大男が指揮を取ろうとしたが、幸がすでに前まで来て、指示を出す時間をくれなかった。
四人の門客が大男を囲い、いくら大男が強くても、四人を同時に相手はできない。だから大男はただ幸だけを狙って走ってきた。
幸はすぐに彼の意図に気付いた。大男はすでに生き残る意思がなく、一人でも道連れにしようとしているのだ。幸はすぐに剣を捨てて、地面に落ちている強弩を拾って、至近距離で大男を撃った。
矢は大男の体を貫通して、
「貴...様...卑怯...だ」
幸は軽蔑してるように笑って、
「俺は武士ではなく、ただの山賊だ。」
大男の死を見た秦軍はすぐに崩壊した。