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35.糧を送る人たち

ID.1188909 ID.1519386   ID.1066257の誤字報告に感謝です!

「そこにいるのは馬服子ですか?」


李魚はまた一人を趙括の前に連れて来た。趙括は馬から降り、その人を見た。豪華な服を着た少し太った男である。


「私が馬服子です。何の用でしょうか。」


 その人は少し遠くにある四台の馬車を指して、

 「あなたが八十万石の食料が必要で、平原君から三十万石しか借りることができなかったと聞きました。私のところにも三万石の栗米があります。どうぞ持って行ってください!」


 趙括はニヤニヤしながらこの太った人を見て、ますます可愛く感じた、

 「ありがとうございます。平原君の友達も、やはり彼のような仁義ある人ばかりです!」


 「お名前は何ですか?」

 と趙括は丁重に尋ねた。


 その人は手を振って、

 「私は平原君の友達で、名前を聞くまでもない取るに足らない人です。」


 「おい!早く馬車を持って来い!」


 遠くにあった四台の馬車はすぐに彼のもとに来て、

 「いいか?これからは私を尊敬するように馬服子を尊敬するんだ。馬服子が戻っていい命令を出してから戻ってくるんだ!」


 馬車から降りてきた人たちは必死に叫んだ、

 「分かりました!董成子(とうせいし)!!」


 趙括はぎょっとして、すぐに微笑みながら、

 「董叔(とうしゅく)将軍の子でありましたか。」


 趙国には董叔という名前の将軍がいた。彼はかつて魏国の宋国討伐に協力して、魏国の成子城を褒美にもらったのである。


 趙括に自分の出身を言ったのを聞いた董成子は心の中では喜びながら、表では不機嫌な顔をして、

 「私の名前を言うなと言ったはずだろう?」


 「構いません、彼らを責めないでください。」


 董成子はニコニコしながら、

 「もしあなたがまた平原君を尋ねに来たら、是非とも私の家でも何日間泊まってください。きっと熱く招待します。」


 「そうさせてもらいます。」


 董成子と別れを告げてから、趙括は道を進んだ。


 董成子はすでに六人目だった。平原君はやはり名声を渇望する人だ。彼が趙括に食料を提供した事は短時間で広く知れ渡った。そして彼の友達たちが次から次へと食料を送ってきたのである。趙括も遠慮することなく、彼らの食料を受け取って、彼らの名前を覚えた。


 趙括は馬に乗りながら、後ろの馬車の列を見て微笑んだ。


 李魚は趙括のこんなにも喜ぶ姿を見たことがない。今までずっと眉をひそめて、心に何か隠し事をするようだった。しかし、今ではおもちゃを手に入れた子供のように笑っている。しかし、子君は笑っている方がより魅力的に見える。


趙括と平原君の噂が広がったおかげで、しばしば食料を送りに来る人たちがいた。また一つの場所を通るたびに、そこの官吏たちが護衛を送ってきたのである。


 しかし、地形が原因で馬車の進みが異常に遅く、食料が落ちてこないように後ろから支える必要もあった。趙括も支えようとしたが、李魚から馬車に乗るように頼まれたのである。


 李魚の言葉で言えば、こんな事さえ子君にさせるのであれば、彼ら門客たちは恥ずかしくて死ぬ。


 趙括が馬車を見て、閃いた。慌てて馬を操って最前列に走らせた。そこでは戈が馬車を推している顔を赤くしている若者たちを叱っていた、

 「今の若者は馬車さえ推し進めれないのか?その体で私の年齢まで生きれるのか?何なら私が馬車を推して、君たちが馬車を操ったらどうだ?」


 趙括は戈の隣に来て、

 「訪ねたいことがあります。」


 戈は頭を上げて、趙括を見た。


 「戈は車軸が一個の車を見たことがありますか?」


 「車軸が一個ですか??子君は三本足の馬を見たことがありますか?」


 「...」趙括は戈の皮肉が分かった。そしてすぐに興奮した。前世で工事現場で見た一輪車を思い出した。あれがあればきっと複雑な地形でも運びやすくなるだろう。しかし、職人たちはあれを作れるかが問題だ。


 趙国は秦国のように交通建設に力を入れていないため、道が歩きにくいのである。また、あるところでは道すらなく森を通らなければならない。ここでまた秦国より優れているのが分かる!ほら、我ら趙国はこれほども自由であるぞ!道を制限されていないのだ。


 邯鄲人は冗談が好きで、

 「秦国は絶対に趙国を亡ぼすことはできない。なぜなら趙国には道がないからだ。これがまた上君の賢いところで、他国の進軍を防ぐために最初から道を作っていないのだ。ハハハ~」


 ちなみに、邯鄲には貴族のために冗談を作って、貴族たちを笑わせる職業がある。その時にこの冗談を作った人は憤怒の趙王に殺されたと言う。


 趙括たちは一旦止まって休むことにした。趙括は馭者たちと一緒に座った。最初に趙括が来たのを見たら恐れ多いと思ったが、慣れてきたら次第にこの人に親しみがあって近づきやすい馬服子を好きになったのである。


 彼らは地面に座って、楽しく会話をした。


 遠くの山の上で、二人の農民のような人がこっそりと趙括の馬車を見ながら、会話をしていた。


 「東武城で暗殺をするのではなかったのか?なぜ今更食料を燃やすだけになった?」


 「平原君のところで暗殺ができるわけないだろう!」


 「だったらこれからどうする?付近の人を召集しても二百人しか集まらない。武器と戦馬もないし、どうやって食料を燃やす?」


 「ならば助けを探そう。趙国には亡命者がたくさんいる。クズでもこんな時は使えるだろう。」


・・・・・


 趙国の王宮。


 虞卿は怒った様子で王宮に入って、趙王の前に立った。非常に怒っている虞卿を見た趙王もさすがに困惑した、趙王は穏やかに笑いながら、

 「虞卿、何の用で寡人を尋ねに来たのですか?」


 虞卿は顔を赤くして、

 「殺して欲しい人がいます!」


 「ほお?誰ですか?」


 「趙括を殺して欲しい!」


 「はあ?!それはどうしてですか?」


 虞卿は趙括と平原君の話をして、しかしわざと話に尾ひれをつけた。趙括は趙勝を訪ねて、趙勝の名声で彼から強制的に食料を集めようとして、趙勝は仕方なく食料を渡したという話をした。趙王は真剣に耳を傾け、虞卿が言えば言うほど、趙王は笑顔になった。


 「私は彼が君子と思っていたが、まさか王族を脅迫するとは...どうか彼を殺してください!」


 「ハハハ、そのくらい許してやってください、殺すまでの罪ではないでしょう。」


 虞卿はまた何かを言おうとしたが、趙王がその前に口を開いた、

 「もうよい!もし平原君が寡人を尋ねに来たら、その時にまた話しましょう。もう帰ってください。」


 趙王が手を振ったのを見て、虞卿は悔しそうに王宮から出た。王宮から出たらすぐに趙王の笑い声が聞えた。


 虞卿も微笑んだ。


 趙勝よ、私にできるのはここまでだ。

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