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33.真の君子なり

ID.1519386の誤字報告に再び感謝です!

 趙勝(ちょうしょう)は宴会を開いて趙括を招待した。趙括に趙国公子とは何かを見せつけようとしているのか、あるいは単純に趙括が好きなのかが分からない。


 とにかくすごく豪華な宴会であった。各種の果物があり、デザートも多かった。


 主食は肉である。この時代の貴族は肉を食べることが大好きである。故に肉を食べる者は目先のことしか考えず判断力が確かでないと言われるようになった。さらに趙括を驚かせたのはこの中に牛肉があることだ。通常は祭祀以外に人たちは牛を殺したりしないのである。


 当然ながら、平原君のような大貴族が年老いた牛を殺しても、何も言われる事はない。例え耕作中の牛を殺しても、言われることはないのである。


 皆は全力で肉を食べ、美酒を飲んで、趙勝の武勇伝を語っていた。この時代で食欲の大きさは人が勇敢であるかどうかを示すため、多く食べる者は称賛され、少なく食べる者は軽蔑されるのである。


 宴会の中で唯一喜んでないのが趙括であった。


 趙勝はずっと趙括を見ていたため、彼が不機嫌であることに気づいた。


 「馬服子、なぜため息をする?もしや私の招待に不満な場所があるのか?」

 

 趙括は慌てて立ち上がり、

 「実は、私がこの度あなた様を拝見しに来たのはお願いがあるからです。私には才能がなく、名望もないです。しかし、私の父が死ぬ前に、平原君は親切で、士を愛し、助けを求める人を助けると言った事があります。」


 「もし私に何か解決できない事があれば、平原君を訪ねれば、きっと助けてくれると言ってました。」


 趙勝は一瞬嬉しそう顔をしたが、すぐに厳粛な顔になり、

 「馬服君の言う通りだ!そうだ、言ってくれ!どんな事でも、私は必ず助けてあげよう。」


 趙括も趙勝の性格が分かったので、国の旗を掲げることなく、

 「実は、私は趙国の尊い人たちに食料を借りに行ったのですが、私には名望がなく、皆貸してくれませんでした。それで私は他の国に借りに行ったのですが、友達がなく、やはり失敗しました。」


 趙勝はぎょっとしたが、すぐに笑って、

 「ハハハ、難しい事ではない。いくら欲しい?いくらでもやる!」


 「栗米を八十万石、家禽を一万羽、羊を六千匹、豚を千頭借りたいです。」


 “パリン~”


 趙勝が持っていた盃は地面に落ちた。彼は目を大きく見開き、趙括を見た、

 「い...いくら借りると言った?」


 一瞬で宴会は静まり返った。李魚と趙勝の門客たちも啞然とした。


 趙括はもう一回繰り返して、

 「栗米を八十万石、家禽を一万羽、羊を六千匹、豚を千頭借りたいです。」


 趙勝は茫然と彼を見つめて、

 「少し多くないか...そんなに多くの食料を借りてどうする?」


 趙括は興奮した顔で、

 「私は廉頗将軍に食料を届けると約束しました。廉頗将軍はこの世でこんな事ができる人はいないと言ったが....」


 「私はこの世でこんなにも多くの食料を集めれる者は一人しかいない、それが平原君!平原君が助けてくれたら、八十万石どころか、百八十万石も集めれると教えてやりました!これが私がお願いしたいことです!」


 趙勝はしばらく黙って、周りの門客を見た。


 趙括は忽然趙勝の前に来て、少し不快な顔で、

 「私は平原君が人助けが好きで、善良な人と聞いたから、助けを求めに来たのです。もし嫌ならば、私はすぐにここを離れて、別の人に助けを求めます。」


 趙括が言い終わると、すぐに平原君の門客が飛び出して、

 「貴様は平原君になんて無礼だ!平原君は常に人助けを好む、平原君を侮辱するな!」


 趙括は恐れおののいた顔で、

 「申し訳ございません、確かにあなたの言う通りです。私が間違えていました。平原君が助けてくれないわけがありません。」


 その門客は趙括の言葉を聞いて、嬉しそうにうなずいた。


 平原君はその門客をすぐにでも殺したい気持ちになった。


 八十万石??そんなのあるわけないだろう!?


 趙勝は少し気まずそうに、

 「貸してあげたいが、量が多過ぎる。私が家にある分を全てあげても、その数に到達するかは分からない。」


 趙括はすぐに平原君が食料を貸したくない事が分かった。家にある分?そんなのは彼の意思で決定するのだから。


 趙括は困惑の顔をして、

 「私は、あなた様の友達は天下に知れ渡るほどの賢才で、あなた様は彼らを愛し、彼らもあなた様を尊敬してくれていると聞きましたが、もしや彼達はあなた様に食料を貸してくれないのですか?」


 「そんな事はないが...」


 「あなた様が作った友達はなんて人たちですか?こんな時ですら助けてくれない人は、今後もきっと頼りになりません!普段はあなた様が与えた褒美を享受しながら、こんな時に黙り込むなんて....主君の問題を解決しない門客に何の用があるのでしょうか?」


 「貴様!!」何人かの門客は我慢できずに立ち上がり、

 「私は家の栗米を全て送ります!」


 「俺もだ!」


 「俺も!」


 門客たちの興奮する姿を見て、趙括は驚いた顔をして、

 「平原君の門客たちは皆利己的な悪人だと思いましたが、まさか...まさかこんなにも義士がいるとは思いませんでした。」


 「李魚!後で彼達の栗米を受け取った後に、この君子たちの中に悪人が混ざらないように、その名前と送ってきた量を記録してくれ!」


 「分かりました。」


 趙括はやっと趙勝を見て、一拝をした、

 「ご助力いただき、ありがとうございました。それではこれで失礼します。もしあなた様の本当の友達であればきっと私のところへ食料を送って来ます。」


 「もし偽の友達で助けてくれない人がいれば、どうか警戒して、心まで打ち明けないでください。」


 趙勝の顔はピクピクして、何も言わなかった。


 「そうだ!そういえばもう一つ助けてもらいたい事があります。今回は馬車を一台しか持ってきていないので、どうか私に食料を運べるほどの馬車を貸してくれませんか?」


 平原君の全身が震え始めた。

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