31.老いた廉頗、飯ができる
屋敷は大きくない。李牧は荻が廉頗将軍の前で何かおかしな事を言うのではないかと心配して、彼を門前で待たせた。中に入ると刀を持つ武士がいた。廉頗将軍の門客である。
彼は李牧が来た理由を聞くと、廉頗の部屋まで案内した。
部屋に入ったら、壁に貼っている地図をじっと見つめる廉頗が見えた。李牧はすでに五年くらい廉頗将軍に会ったことがない。彼はすでに大きくなったが、廉頗将軍はまったく年を取った感じはなかった。
藺相如よりも年が上で、楽毅に近い年だが、重たい鎧を着て、次の瞬間でも戦場に出れるほど元気だった。
「廉頗将軍、お元気ですか?」
李牧は廉頗に一拝をした。
廉頗は振り向いて、彼を見て、もっと近く来るように合図した。李牧が急いで廉頗に近づくと、廉頗は彼の肩を掴んで、自分の前まで引っ張った。廉頗は地図を指して、
「分かるか?」
李牧は真剣な顔で地図を見た、これは長平と光狼城の付近の防衛図である。李牧はうなずいて、
「分かります。将軍が自ら長平を守って、東北近くの丹水に食料があって、そこから趙国の食料を川道で運び、各駐屯地に分けています。」
「北の丹朱山、西南の湯王山は秦軍が両側から食料を奪うことを防げます。」
「長平の南の韓王山は視野が広く、守りやすい地形である。将軍は兵力を徳義、長平、韓王山、丹朱山、湯王山に分布しています。」
「......これは地形を利用して、山と城を一つの防衛線に連結している?もし秦軍が攻めてきたら、趙軍は地形を利用して、敵を痛撃できる。それに、将軍のこの布陣は直接供給路線が内部に含まれている。秦軍は供給を襲撃できないから、長平防衛線も突破できない!」
李牧はますます驚いた。戦争の難しさを実感した。昔辺郡で戦った時は、互いの場所を知っているため、お互いを攻めたらいい話だったが......この数十万の戦争では戦線が長すぎて、秦軍の布陣をよく把握できない。
廉頗も驚いた。まさか藺相如が連れて来たガキがすでにここまで成長とは思わなかった。これほど布陣図を精密に見る事は簡単な事ではない。
廉頗は大笑いして、李牧の肩をたたいた。李牧は倒れそうになった。
「まさか、すでにここまで成長したとは。俺に良い副将ができそうだ!ハハハ」
李牧は照れながら、
「李牧は将軍の称賛に値しません。私はもともと秦軍の供給路線を切断しようとしていました。今となって見ると、秦軍の布陣は山の付近が多く、長平の東よりも複雑な地形をしていて、それに道が三つしかなく、秦軍の供給路線に届きません。」
李牧はまた地図を見て、
「私はやっとなぜ廉頗将軍が長平に防衛線を築くかが分かりました。」
「ここは後ろに丹水があり、また山に囲まれています。それに韓王山と長平が犄角の勢を作って、片方が攻められたら、片方が敵の後ろを襲うことができる。やはり良い場所です!」
廉頗は首を横に振って、
「それは俺が長平に防衛線を作った理由ではない。」
李牧はぎょっとして、
「ならば将軍は供給路線を守るために、ここに駐留しているのですか?」
「それも違う。」
「ならばなぜですか?」
廉頗は真剣な顔をして、
「俺は自分からここに来たかったわけではない。秦軍にここまで追いやられたのだ。戦いながら撤退し続けた。端氏城から光狼城、光狼城から長平。ここに駐留している原因は後ろが丹水だからだ。これ以上撤退すると川に落ちる。」
「あ....」李牧は何を言っていいかわからず、驚いて廉頗を見た。
廉頗はまったく気にする様子がなく、
「負けは負けだ。何を驚いている?数十年前に、今より痛恨の敗戦をしたことがある。」
「それに俺はまだ若い、敗戦も経験になる!いつか俺はまた成長して、あいつらを倒す!」
この年齢でまだ成長するのですか??
李牧は好奇心を隠し切れずに、
「どのように失敗したのですか?」
「最初は端氏城の一帯に駐留して、秦軍と川を隔て睨みあっていた。ここが一番良い場所だったのだ。俺は秦軍が川を渡らないと予測して、まわり道することも考えた。しかし、まさか一部の部隊だけ残して主力に紛れて俺を騙し、主力は尹是城を攻め落とし、北から川を渡って、俺を包囲しようとしたのだ。」
「さすがに驚いた。数十万だぞ?それを包囲して殲滅しようとしたのだ。長子城にも兵を配置したおかげで何とか光狼城まで逃れた。長子城はそのあと攻め落とされたのは残念だ。」
「光狼城は山に囲まれ、絶好な防御地点だった、しかし秦軍の猛攻により、供給は長平を通るしかなかった。」
「しかし敵は長子城から長平を攻めようとした。私は兵を連れて増援しようとしたのだが、その隙にすでに光狼城が攻め落とされ、四人の都尉が囚われた。それで長平まで撤退したのだ。やれやれ、この王齕と言う名の秦将は強い相手だ。」
廉頗は自分の食料不足を言わずに、また兵士たちに戦意がない事を言わなかった。彼はあっさり自分の負けを認めたのだ。彼はいつでも、負けは負け、理由など必要ないと考えている。
しかしそれでも落ち込むことはなく、逆に闘志に満ちた。彼の言葉で言うと、強い敵こそ彼を成長させるのだ。
李牧はやっと来た理由を説明した、
「私が今回廉頗将軍を拝見したのは、馬服子の言いつけです。馬服子の情報によると、秦国はこれから白起を将軍にするかもしれないとのことです。」
「白起?」
廉頗は怒った顔で、
「道理だ!道理で包囲して殲滅しようとしたのだ!白起を将にするのではなく、最初から秦軍に白起が隠れていたのだ!彼ならいつもこういう戦略を取る。彼は楚国の都すら包囲したことがある!」
「秦軍と交戦し続けてきて、俺はまだ敵の大将すらわからない。勝てる道理がない。」
「趙括はまた何かを言ったか?」
「馬服子は、あなた様がここで安心して秦軍を防御できるように、食料問題を何とかすると言ってました。それ以外に一人を遣わして、秦国の軍功制度を宣伝して、兵士たちを励まそうとしているのです。」
それを聞いた廉頗は少し軽蔑して、
「趙括のやつ、何言ってるんだ?ここで秦軍と戦わないと、どこで戦う?それに食料問題をどう解決できる、彼の父が残した食料も少ないはずだ。それに兵士を励ますって、たかが一人にどれだけの効果があるか。」
廉頗は首を横に振って、ため息をした、
「もし彼の父がまだ生きていれば...」
彼は頭を上げ、やがて孤独の痕跡が顔に現れた。
忽然兵士が走ってきて、
「将軍!!秦軍が湯王山付近に兵士を大量に集結しています!!」
廉頗は急いで地図を見て、
「馮亭に準備させろ!もし敵が湯王山を攻めたら、韓王山から出兵して、大糧山を接近しろ!」
「兵士たちに準備させて、俺と西王山に出兵するように伝えろ!」
将軍は大声で叫び、全身に戦意が満ちていた。
明日は趙括に戻るが、ブクマとポイントを...