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30.少なくとも一石二鳥

ID、1519386の方。誤字報告ありがとうございます。

 「最近、趙国の全土に、あなた様が白起将軍の事を趙括に伝えた噂が流れています。趙人の多くはあなた様が慈悲だと称賛しています。」


 家臣は変な顔で言った。范雎は政務を処理していて、家臣からの報告を聞いていたら、突然頭を上げて目を細め、

 「私はそんな人だ。趙人は私を愛している。何か問題でもあるのか?」


 これを聞いた家臣は顔色を変えて、慌てて、

 「范雎様はもちろんそんな人です。」


 彼の隣に座る老いた門客は不機嫌な顔をして、

 「あなた様は秦国の宰相です。軍事情報を趙国に渡したこともなく、趙人があなた様を愛する理由は断然ありません。」


 范雎はそれ聞いて激怒し、眉をひそめて、

 「つまり、この范雎は慈悲ではなく、天下で悪名しかないと?そう言いたいのか?!」


 情報を伝えに来た若い方の門客は顔を真っ青にして、絶えず老いた門客に目をパチパチしたが、老いた門客はそれを無視して、

 「あなた様にとっての甘露、他の人にとっての毒薬です。」


 范雎は冷たく鼻を鳴らし、目を細めて、

 「私は趙括の名声を上げた。彼は私の恩徳に報いろうとしたのだ。」


 范雎はまた門客たちを見て、

 「白起もこの消息を知っているのか?」


 若い門客はうなずいて、

 「白起将軍もこれを知っていますが、きっと趙括の策を見破り、無視するでしょう。」


 「皆の者は本当に白起がこれを無視すると思っているのか?」


 若い門客はしばらく考えて、

 「白起はいつもあなた様を尊敬せず、謙遜に見えながら、実は傲慢である。彼はまたあなた様が大王様の寵愛を受けていることに嫉妬して、このことを利用してあなた様を非難すると思います。」


 范雎はうなずいて、老いた門客を見た、

 「あなたはどう思う?」


 老いた門客は厳粛な顔をして、

 「応侯は秦国の腕、武安君は秦国の剣、素手で敵を倒す道理はありません!」


 范雎は怒って、

 「私に白起がいなければ、何もできないと言いたいのか?!」


 若い門客は慌てて、

 「怒らないでください。彼はすでに年老いて、頭が混乱しているのです。白起はあなた様と比べ物になりません。」


 年老いた門客は依然と不機嫌な顔をして、

 「宰相と将軍は両方不可欠の道理。趙国の藺相如でさえ知っているのに、なぜあなた様は知らないのですか?私はあなた様の評判を聞いてあなた様に忠誠を誓ったのだが、まさかあなた様がこんなに無知の悪人だとは思いませんでした。」


 「私を殺してください、もうあなた様にはついていきません。」


 范雎はしばらく黙って、

 「護衛はどこにいる!」


 すぐに護衛が入ってきて、范雎は若い門客を指して、

 「彼を連れ出して殺せ!」


 若い門客は真っ青な顔で范雎に向かって、大声で叫んだ、

 「私に何の罪があるというのですか?」


 范雎はやっと冷たい口調で、

 「あなたは臣下として、ただ私に媚び、私の不足を指摘できない。あなたのような不正直な人に、用はない!」


 若い門客は言葉が出ずに、ただ泣きながら連れていかれた。范雎は立ち上がり、老いた門客に一拝をした、「私の行為をお許しください。あなたは忠義な人であり、私の信頼に値します。」


 老いた門客も立ち上がって返礼をした、

 「しかし、彼は不正直とは言え、まだ若いので、命だけは許してもらえないでしょうか。」


 范雎は真剣な顔で、

 「私は人を殺すのを好んでいません。ただ、私は落ちぶれた人が一旦富を得ると、だんだんとお世辞の言葉に耳を傾け、自分の志向を忘れてしまうと聞いたことがあります。私が彼を殺したのは、自分にそれを常に思い出させるためです。」


 それを聞いた老いた門客はもう何も言えなくなった。


 范雎はまた笑って、

 「私は常に最大の成果を求めています。もしこの件だけで彼を殺すのは少し勿体ない。」


 「どうか他の人たちに、この人は私の心腹であり、私の前で武安君を貶し、武安君を制圧するように言ったから、私が殺したと言ってください。」


............


 騎劫...いや、李牧が丹水を渡った時、目の前の光景の驚かされた。李牧は戦をしたことはあるが、数千人の軍隊しか見たことがない。こんな数十万の軍隊を見たことがない。荻でさえ一旦喋るのをやめた。しばらくして、「大きい。」とつぶやいた。


 李牧は兵法を読んだことあるため。廉頗の布陣に気づいた。秦軍の攻勢で、趙軍は上党郡を失い、長平まで撤退した。丹水を渡ると、すぐに四つの駐屯地が見えた。どれも山の上にあり,丹水を背後にして、長平に向いている。


 李牧と荻がここを通るときに、何度も検査を受けた。この四つの山の上は食料も置いてあり、山の周辺の樹木は伐採され、視野の最大化を図った。


 彼らの身分を知った一人の尉官が二人の兵士を遣わして、彼らを廉頗将軍の場所へ連れて行った。李牧は途中で何も話さなかったが、荻はすぐにその二人とまるで友のようになり、趙括の話をしていた。二人の兵士は燃え上がり、すぐにでも趙括の門下に入りたくなった。


 荻は声を低くして、

 「皆に一つ伝えるが、決してほかの人に教えるなよ。」


 「言ってください、決してほかの人に教えません。」


 李牧は荻がこんなにも早く趙括の言ったことを実施するとは思わなかったが、彼に構わず周辺の環境を観察していた。李牧はすでに八つの陣営が見え、いろんな場所にある。多い場所は数千人もいるが、少ない場所は数人しかいない。数人の場所はおそらく消息を伝達する場所である。


 遠方では兵士たちが訓練しているのが聞こえる。空いている場所は少なく、人だらけである。韓国人も見えた。趙王は虞卿の意見に従い、上党郡の韓国人を趙国に受け入れたのである。


 李牧と荻はやっと長平城(ちょうへいじょう)についた。長平城は趙軍の防衛線の中心点であり、秦軍の主力を直面している。二人の兵士は城門を守る将官に李牧達を紹介して、李牧達と別れを告げた。


 城に入るとすぐに若い都尉(とい)が迎えに来た。彼も若く、傲慢な態度で、

 「あなたが廉頗将軍を拝見したいって?」


 李牧は不快になったが、表に出さず、うなずいて、

 「私は馬服子の言いつけで廉頗将軍を拝見しに来ました。」


 若い都尉はぎょっとして、慌てて、

 「馬服子??彼が長平に来るのですか?」


 「いえ。ただ廉頗将軍に少し伝えたいことがあるだけです」


 「そう...」若者は少し落ち込んでいるように見え、道を案内した。三人はある屋敷の前に来て、


 「廉頗将軍はここにいます。もし何かがあれば、東の門に来てください。私は司馬尚(しばしょう)と申します。」


 そう言って、身を振り向いて帰った。


 李牧は彼を見つめ、冷たく鼻を鳴らした。


 その年齢で都尉になれるのは、きっとまた無知な貴族に違いない。

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