3.始皇帝の父
正午となり、最も暑い時間帯となっていた、しかし、趙括は休みには行かず、庭で歩き続けていた、顔は微笑みながら、前世の病室でずっと倒れていたことを思い出した、あの時の一番の願いがこのように歩くことであった、今の彼は歩くだけでなく,走ることもできる、跳ぶこともできる。趙括を非常に満足させた。自分から立ち止まりたくなく、庭の隅々まで歩いた。
趙括は歩きながら、将来のことを考えていた。前世は文系であったため、酒を造る技術も石けんを作る技術もわからない。金を作ることができない、何しろ椅子の作り方さえわからないのだから、こうなると分かっていれば理系を選択すべきだったな……とどうしようもないことを考えていた。
それに文系だからといっても名言や詩をいくつかは分かるが、今では時間が経つにつれて、ところどころ抜けている部分があり、世間を驚かす程ではない。
ならば、自分に何ができるのだろうか。
歴史についても大まかを知っている程度で、アニメやネット小説で獲得した知識がどれくらい役に立つのだろうか、やはりキングダムを何回も見た方がよかったな。
趙括は思考をめぐらせながら、やっと出口を見つけた.....やはり家に引きこもり、貴族の生活を楽しもう、別に生活に困っているわけでもないのだし、そもそも何かをする必要があるのだろうか。
趙括が戦国オタクになる準備ができたところで、庭の門が開けられた。
戈が入ってきた。戈は趙括の門客の中で一番の年老いである。厳密に言うと、戈は趙括の門客ではなく、父の趙奢の門客である。趙奢が生きているとき、その身の回りには門客が十数人もいた。
だが、趙奢は息子の趙括の将来が危ういと見込んでいたため、死ぬ前に門客をすべて解散させたのである。
趙奢の言葉でいうと“皆の者は私に数十年ついてきた、私はあなたたちが趙括と一緒に死なせたくはありません、平原君のところへ行きなさい、私が紹介状を書くとしよう。”らしい....
まだ若造である趙括に仕えるか、それとも天下に知られている平原君に仕えるか、多くの人にとって、難題ではなかった。
しかし、戈は残った、噂に聞くと、彼は趙奢が一番見込めない門客であった、能力もなく、故に平原君の府中に入ることができなかったという、だからここに残り、趙括の門客となった。
戈は身長が低くが、ヒゲを三つに編み分けて生やした。もし荻のような体があれば、そのヒゲはさらに立派に見えるのだろう、しかし、この低い身長ではあまりにもヒゲが長すぎる、極めて奇怪である、年齢も高いせいか、ヒゲも少し白いのである、戈は頭を上げて、少し無礼な態度で趙括を見て、冷たい口調で、
「子君、主母がお呼びです。」
趙括は意識的に眉をひそめた、過去の記憶を見てみると、戈とはいつも性格が合わなかった。戈は人に非常に厳しく、趙括だけでなく、幸と荻との仲も悪い、このじいさんは趙府の人には好かれていない。
趙括は何も言わずに、門の方に歩いた、戈は首を上げながら彼の背後を歩き、屋敷を出た、ここには趙括の屋敷と似たような屋敷がゴロゴロと並べている。
趙家は三つの家がある。一つ目は邯鄲にあり、もう二つは馬服にある。但し、一つは馬服山の近くにあり、もう一つは牛首水という場所の近くにある、趙括はここを住処にしている。
趙括の母は年老いたせいか、暑いのが苦手であるため、夏の時は馬服山の別居に引っ越したのである、そこは山があり、川もある、氷すら保存できる。屋敷の外をしばらく歩くと、馬車が視界に入ってきた。
棚がなく、後の三輪車に似ていた、趙括はすぐに我が家のものだとわかり、馬車に乗ろうとした途端、戈の冷たい声が聞こえた
「私が聞いたことによると、息子と母が長い間離れていた時、手ぶらで母に会う道理がないと、子君はそんなことさえわからないのですか。」
趙括は戈の皮肉に答えなかった。二千年後の多くの皮肉の言葉を享受したことがある少年には、このじいさんの皮肉はあまりにも優しすぎる。
しかし、趙括は足を止めた、前身の記憶を受け継ぐと同時にこの母への感情も同時に受け継いだのである、少し妙な気持ちだ、少し不安だ、確かに手ぶらで行く道理はない、趙括は言った「ならば、何をもっていけばよいのだ。」
「主母が私をあなたのところに使わせるたびに、私に桃を持って行けとおっしゃった、彼女は子君の好物を一度も忘れたことがございません。」
趙括は少し考えた、確か..母はナツメを好んでいたはず、彼は大きく手を振り、言った「戈、ナツメを買ってきてくれないか」戈は今度は何の皮肉も言わなかった、後ろ見ることなく屋敷に入って。
しばらくたってから、戈はナツメを少々持ち帰ってきて、趙括に渡し、そのまま馬車を操る席に乗った、趙括は少し気まずそうな顔をした。なんだ、家にあるのかよ、と同じく馬車に乗った、戈は馬を操り、馬車はすぐに前へ走った。
ちょうど趙括も二千年前の様子を見てみたかった、ここは小さな村とはいえ、城と同様に壁で囲んである。黄色い土でできた壁は村を囲み、村の中には道路が一本しかなかった、道路は狭いため、馬車が一つしか入りきらず、道路の両側には屋敷だらけであるが、趙括の屋敷はその中でも比較的に大きい方である。
道路上に行人が少なく、たまに何人か遊んでいる子供出てきても、馬車を見るとすぐさま道の側へと走った、こっそりと頭を出し、趙括のことを見た。それに対し、趙括はただ微笑んでいた。
馬車が走っているうちに前に羊の群れが出てきた、馬車を見ても、羊の飼い主は少しも驚かず、鞭をたたくだけで、羊は自然と二つの群れに分かれ、馬車に道路を譲った、趙括はこれを面白がりながら見ていた。
屋敷と村の門はそう遠くはなく、番人が趙括の馬車が見えたら、遠い距離から村の門をかけ、ペコペコと頭を下げながら趙括が村を出ていくのを見守った、取り調べさえなかった、普通の人であれば、そう簡単には行かなかった、村を出て、西へと馬車を走らせた。
「私が聞くことによると嬴異人が子君を暗殺しに来たとか」と突然戈が聞いてきた。
「ん?なぜそれを知っているのですか。」趙括は少し驚いて逆に質問した、しかし、戈は答えず、馬車に専念した。趙括は長いため息をし、本能的に頭に一つの名前が浮かんだ、荻。
いや、すごいよ、たった十数時間でこの事を十里も先の馬服山までも伝えられるとは、もはや一つの特技といってもいい程だ.....
ふと、趙括は違和感を感じた嬴異人?趙異人ではないのか?そう考えてみると、嬴異人に関する記憶が頭に浮かんだ、嬴異人は秦安国君の息子だ、氏は趙で姓が嬴、この時代において、軽蔑する場合でしか姓で人を呼ばない。
彼は寵愛を受けていないため、趙国へ人質として送り出された、趙と秦の仲が悪いため、趙国の民は彼に友好ではなかった。趙異人が生活に困り、外へ出る馬車すらなかった時もあった。その時であった趙括とこの趙異人が知り合ったのは、趙括はこの人が自分に感服していると思い、毎日彼と軍の道理について話した、たまに彼を財政上でも援助した。
だが何故か、だんだんと彼はまた裕福となり、太っ腹であったため多くの士を門下に引き寄せ、名声を高めた。
当時の趙括は何故かはわからなかった。しかし、今の趙括はその原因が分かる....奇貨居くべし..奇貨居くべし、趙括は少し興奮した、たとえ歴史にあまり詳しくなくても趙異人については知っているはずだ。嬴政の父!始皇帝の父!
なるほどね、趙括は一瞬でいろんなことが分かった、なぜ秦の人が自分という人物を知っているのか、なぜ自分の実力や才識を知っているのか、きっと趙異人が仲介役になっているに違いない、自分の友として自分の実力を知っている、それと同時に趙括の傲慢さも知っている、彼こそが趙括を秦軍に勧めた人であった!
始皇帝の父が自分を暗殺しに来た??
それらのことがわかると、また趙括の趙異人に対する気持ちが複雑となった、本音を言うと、このように利用されている感覚は嫌いだ、むしろ返り討ちにしたい。
ただ、彼のまだ生まれていない子供を考えてみると、二千年後から来る魂にとって、始皇帝は尊敬すべき人物であり、それは中華を統一し、中華の元を築き上げた千古一帝である。もしその父親と仲が悪ければ、将来に彼が天下を取るとき、自分も殺されるのではないか?
趙括が妄想している間に、馬車はすでに止まっていた。
戈は隣で縄を引きながら立って、鼻で趙括を睨んだ。
「子君、もしや私に抱っこさせられながら馬車から降りたいのですか。」