29.天下無敵
平原君が妾を殺す話は二話にあります。
「私はもちろん平原君が援軍を招いて欲しいが、例え援軍を招くことができなくても、貴族たちを発動して、上党郡の兵士たちの食料集めでも良いと思ってる。」
趙括は自分の考えを言った。戈が鼻で笑って、首を横に振って、
「子君は平原君を高く評価し過ぎている。」
李魚も、
「あなた様の門客になる前に、私も東武城に行ったことがあります。」
「では、なぜまた去ったのですか?」
「彼が子君と違うからです。子君が人を助けるのはあなた様が親切で善良だからです。しかし、彼が人を助け、士を愛するのは名声のためです。」
「何か違いはありますか?」
「平原君は利己的な人です。平原君が妾を殺す話は子君も聞いたことがあるかもしれません。私はその事で彼から離れました。彼が妾を殺した時に、その妾は彼の子供を宿していたのです。」
趙括はその不気味さに驚いた、李魚は続けて、
「彼は名声のためにどんなことでもします。彼は仁義を求めていません。彼は昔、馬車を操って平民にぶつかりましたが、それを心に留めませんでした。」
「その後に、ある門客が百姓を親切に扱えば、他人の尊重を得ることができると言いました。それで彼は慌ててそのケガをした百姓に謝りに行ったのです。」
「この事で、彼が趙国での名声はやはり大きくなりました。その後、彼は満面の笑みで百姓を対応し、無礼をすることはなくなったのです。」
「彼は自分の親族が農地を独占し、税を払わないことを容認しました。過去に馬服君が彼の親族を処罰した後に、彼はまた馬服君を殺そうとしました。」
「馬服君は趙国がより強くなれば、平原君の名声もより強くなり、より人に尊重されると言いました。それで彼は笑いながら馬服君を解放し、上君に薦めました。」
「彼にはかつて剣術を得意とする門客がいました。楽毅将軍の息子の楽間が彼を訪れた事があります。ちょうど楽間将軍にも剣術を得意とする門客がいたので、勝負することになりました。平原君の門客は残念ながら敗北し、両手を切り落とされました。」
「平原君は激怒しました。彼はその門客のせいで自分の面目を失ったと思って、彼を駆逐したため、治療もできずに、その人は最後に東武城で餓死しました。」
「彼は亡命者を多く引き取って、彼らの罪を隠蔽し、さらに、国の安全を思わずに反逆者まで引き取りました。これが私が彼から離れた原因です。」
「彼は士を愛すると見えるが、実は名声を愛しています。彼は慈悲に見えるが、実は人の命を軽く見ています。彼は国を心配していると見えるが、実は国が滅亡した後に、平原君の位置もなくなることを心配しています。」
「子君がもし趙国の危機を理由にして、百姓の苦痛を理由にして彼を説得したら、彼は絶対に助けてくれません。今の趙国はまだ滅ぶ寸前になっておらず、兵士の命は当然彼と関係ありません。邯鄲城が敵に包囲されるまで、彼に自身に被害を及ばすまで、助けてくれないでしょう。」
李魚の話は趙括の戦国公子である平原君を幻滅させた。趙括は少し信じられなかった。
「では、どうしたらいいと思いますか?」
「どうか平原君に会った後に、趙国の危機を言及しないでください。もし国の事で頼めば、きっと助けてくれません。しかし、もし個人で頼めば、彼はできるかできないかにもかかわらず、必ず手伝ってくれます。」
「今のあなた様は趙国での名声が高いです。もし謙遜な態度で趙勝に対応すれば、きっとあなた様を非難しないでしょう。」
「彼と私の父は親密な関係だったのに、非難してくるのですか?」
趙括は少しびっくりした。
「昔に、まだ私が平原君の傍にいたときに、彼の前であなた様の名声を言及する人がいました。その時の平原君は顔色を悪くして、何も言わなかったのです。」
趙括はまた李魚から重要な情報を得た、元々は父の顔を見て、ある程度自分の考えを聞いてくれると思っていたが...李魚を連れて来て正解だった。
華麗な服の裏にある醜い内在が見えた趙括は逆に心配しなくなった。
楽毅に会う時は非常に緊張していたが、それは彼が自分を恥ずかしくさせるくらいの存在だったからである。しかし、今はまったく緊張しなくなった。
趙括はうなずいて、
「分かりました。」
道では休憩ができる亭があり、馬服子と聞くと熱く招待された。亭で働く人でも、宿を過ごす人でも、慌てて趙括を拝見しに来た。会話の中で、彼達の多くが地方郷吏だとわかった。
彼達は邯鄲に行って、援助を求めに行くのである。耕作をする青年が少なくなったせいで、各地の食料の産量が大幅に下がった。それに対して、邯鄲はさらに食物を上納するように命じた。彼ら自分が食べる食料ですらないのに、どこに納める食料がある。
趙括は沈黙した。耕作する人が前線にいて、彼らは食料がいる、耕作には彼らが必要。これは悪循環だ。
「私たちが話に聞くと、秦軍はあなた様が趙国の将軍になる事を恐れている。ならばなぜ上君はあなた様を将軍にさせないのですか?」
とある郷吏が聞いた。
「ご安心ください。秦軍はもうすぐ敗れます。応侯范雎は撤退したいと思っている。彼も白起を恨んでいる。彼が我ら趙国を助けてくれたら、戦争はすぐに終わるでしょう。」
「誠ですか?それならば良かった。」
秦国の間者が趙国に分布していると分かって以来、趙括は范雎と趙国の親密関係を宣伝しようと思った。前世の記憶では、確かに范雎と白起が揉めて、白起が自害したのを覚えている。
結果が出るかは分からないが、何もしないよりはマシだ。
東武城はまだ遠いが、李魚と戈がいてくれるおかげで、退屈にはならなかった。彼らから面白い話を聞いて、また一つの場所に着く度に、ここはどの様に兵力を配置するかを考えた。
............
上党郡、光狼城。
この城のある屋敷に、一人の学者のような人が座って、手に持つ本を読んでいた。彼の右側に鎧があり、彼の左側にいろんな剣があった。
忽然部屋に誰か入って来て、彼に一拝をしてから、
「武安君、趙国からの密報です。」と懐にある手紙を白起の前に置いた。
白起は少々驚いた様子でその手紙を読んだ。読み終わると微笑みながら、
「趙括....面白い人だ。俺と范雎を仲間割れさせるつもりか?」
「しかし、范雎は趙国の使節と二人だけで同じ部屋にいた話を聞きます。また、范雎はもとよりあなた様を尊敬しておりません。私は彼がどんな小さな恨みでも必ず返す男だと聞きます。」
「もしかしたら、本当に趙人と組んで、あなた様を倒そうとするかもしれません。」
「安心ください。」
「この天下で......俺を倒せる人は誰一人としていません。」
白起は穏やかに微笑みながら、謙遜に言った。