24.狭路出会うと,勇者勝つ
趙括はもともと楽毅に趙人を守る方法を尋ねに来たのだが、この老人が寝台で倒れているのを見たら、流石にこんな事で煩わせてたくなかった。田単と違って、楽毅は趙人だ。もし趙国の危機を知ったら、きっと心配するだろう、この年で、こんな事に煩わせるべきではないと思った。
楽毅の屋敷を出たら、趙括の気持ちも重たくなった。道理で将軍達は戦場で死ぬことを願っている、なるほど、楽毅みたいな死に方が嫌だったんだろう。
趙括が馬車に乗ろうとすると、隣の李牧が頭を下げて、凄く落ち込んでいたから、趙括は慰めに行った、
「人は皆老いて死ぬ、楽毅将軍がこの歳まで生きるのは、悪いことではない、落ち込むことはない。」
李牧は頭を上げて、目には涙が浮かび、
「私は騎劫ではなく、李牧です。」
「ハハハ...」趙括は笑って、李牧の肩を叩いた、「話に聞くと、宰相と将軍たる者の心は天のように広く、なぜこんな小さな事を気にする?」
自分の憧れの人にこう言われたのは、流石に胸くそ悪かった。でも趙括の言葉を聞いて、うなずいて、これ以上考えなかった。
「そうだ、騎劫、もう一つ重要な事をお願いしたい。」
「騎劫ではありません!」
楽毅の屋敷へ行く途中は厳粛だったが、帰る道のりでは、笑い声が絶えなかった。これが若者だ、重たい荷物をいつまでも頭に置くことはない。
趙括はすぐに嬴異人の屋敷には行かなかった、もっと大切な事がある、馬車は馬服の方に向かった、行く途中に趙括はこれからする事を李牧に伝えた。
「田公の言う通りです、今一番大切な事は士気を上げることだ、兵士たちに秦の軍功制度を知ってもらい、やる気を出させなくてはならない。私は三度の失敗を経験した兵士だけ精鋭と呼べると聞く。」
「今ではすでに三度の失敗を経験し、四人の尉官が囚われ、戦線を二十キロ後退させている、それでもなお廉頗将軍と共に戦っている、精鋭と呼ぶには十分だ。」
趙括の李牧への頼み事は、廉頗のところへ行き、兵士たちを励ますことだった。
李牧はうなずき、
「しかし、私にはどうやって兵士たちに伝えれるか分かりません。」
趙括は笑って、
「私は何かを成す者は、必ずしも自分ですべてをするとは限らない、適している人を適した場所に置くのが一番と聞く。安心してくれ、私の配下に人材がある、彼を連れて行き、趙軍の中にしばらく滞在させてほしい。彼はきっとこの事を広げ、秦国の残虐さを皆に伝えることができる。」
趙括はそう言って、遠くにいる荻を見た。
李牧は趙括の視線を辿って、荻を見て、驚いた、
「彼にそんな才能があるのか?」
「どんな人でも、適した位置に置くと、きっと太陽のように輝く。」
「では、あなたはどんな位置に適しているのですか?」と李牧は聞いた。
「私か?私は軍事が分からない、農業も分からない、未熟だ。しかし、数学なら少しは分かる、郷の中の税務官なら、できそうかもしれない。」
「ご謙遜を、私はあなたが国内にいれば宰相になれる、国外なら将軍になれると思っています。」
............
日が暮れて、馬車が馬服郷にもうすぐ着く時に、目が良い趙括は道路の横で倒れている人が見えた、趙括は戈に馬車を止めさせ、この人が生きているかを確かめさせた。
戈は馬車から降り、しゃがんで地面の人の状況を確認した。唇が乾燥している、恐らく長時間水を飲んでいないから、ここに倒れたのだろう。
変だ、近くに村がたくさんあるのに、のどが渇いたら水をもらいに行ったらいいのに。旅の人に水をあげるのはよくあることだ。少し情熱な場所では、ご飯もくれる、どうしてこんな事に...
戈はすぐに水袋を取り出し、少しだけその人の唇に水滴を垂らして、また水で顔を拭いた。
ちょっとしたら、その人がゆっくりと目を開いた。
彼は何かを言ったが、戈にはそれが分からなかった。戈は趙括の方を見たが、趙括にもそれが分からない、困ったところに、幸が前に来て、その人と会話をし始めた、しばらくして趙括を見た、
「子君、彼は燕人です、邯鄲に親戚を探しに行くそうです。」
「道を教えて、食べ物を少しあげなさい。」
幸はうなずいて、またその人と会話し始めた、燕人の顔はだんだんと厳粛になり、趙括の前に来て、一拝をして、趙括の顔を注意深く見て、道を譲った。
幸が歩きながら、
「彼がどうしてもあなたの名前を知りたがるので、教えました、それでやっと道を譲ったのです。」
「それより、幸は燕人の言葉を話せるのですか?それに、趙語と燕語はこんなにも違うものなのでしょうか?」と趙括は聞いた。
幸が口を開く前に、先に荻が、
「子君は知らないと思いますが、幸は昔何かやらかして、趙国から逃げたのです。いろんな場所へ行き、何と言っても邯鄲で悪名高い...」
「ゴホッゴホッ...」幸は慌てて咳をした。
荻は笑って、何も言わなかった、ただ遠くへ去った燕国人を見て、
「多分と思いますが、あの人も幸と同じく、亡命者かもしれない。でも、幸よりは不幸だな。私は幸が人を殺したにも関わらず、危うく外国で官職を手に入れたと聞いたことあります。」
「ゴホッ!ゴホッ!」幸はまた咳をして、そして趙括を見て、
「燕語にも言語がたくさんあって、恐らく一番北から来たと思います。だからこんなにも言語の差があります。」
趙括はもう何も聞かなかった。
馬車が馬服郷に入っていくと、門客たちがすでに待っていた。皆は趙括にお辞儀をしてから、趙括を囲んで屋敷に入った。
趙括は先に母を拝見してから、李牧や荻を自分の部屋に呼んだ。三人は席に座って、趙括は厳粛な顔をしいた。
彼は荻を見て、
「頼み事があります。」
荻はそれを聞いて、同じく真面目な顔をして、
「お申し付けてください、死ぬ事も惜しくありません。」
「私はあなたに李牧と一緒に上党郡に行かせたい、李牧は廉頗将軍を拝見するが、その後のことは、あなたが必要です。秦国には軍功制度があって、だから戦争に飽きないのです。彼らは土地が欲しいのではなく、首が欲しいのです。」
「もし趙国の兵士が敗れたら、きっとすべての兵士が殺されます、首が欲しいから。さらに趙国に来て、一般人も殺されます。」
「上君はこのようなことを恐れて、だから戦後に兵士に褒美を与えるつもりです。土地や財産、秦軍さえ倒せば、それらが手に入ると趙国の兵士に伝えて欲しい。」
「私の父は昔、狭路出会うと、勇者勝つと言った事があります。勇敢に秦軍と戦うことだけが、自分を守り、家族を守り、国を守れます。」
「分かりました。」