22.腹の中にいる始皇帝
「次に何をしましょうか?」
李牧はまだ自分でも気づいていないが、彼はすでに趙括の言うことを聞くような姿勢を取っていた。趙括もそれに気づいていない。
この時々うかつになる若者と一緒になればなるほど、名将の感じが弱まってきた。まるで隣に住む弟のようだが、こっちもこっちでリアルで良い。
趙括は真剣に考え、
「田相は斉人だ。彼が戦争に興味がないことには軽蔑をするが、楽毅将軍は趙国生まれだ。黙っていられるわけがない。」
李牧もうなずき、
「では楽毅将軍の屋敷へ連れて行きましょう。」
「楽毅将軍も邯鄲城にいるのか?」
李牧は微笑んで、
「秋の収穫祭です、もちろん邯鄲にいます。」
「ならば連れて行ってください。」
実際に楽毅の屋敷は邯鄲城内ではなく、邯鄲城外の村にある、趙括は馬車に乗り、李牧はその後ろで愛馬に乗っている、そのさらに後ろを幸と荻が歩いている。
李牧は田単の策略が通用するかを考えた、
「趙国の兵士たちに敵を憎ませるのは容易なことではない。」
趙括は冷静に、
「藺公はかつて言った、一番の勇者は民のために戦う、その次は命、その次は名声。私は別に秦人の残虐さを過度に宣伝しなくてもよいと思う。ただ兵士たちに、秦人は首で軍功を欲しがっている、もし敗れたら、秦軍は趙国まで来ることを分からせばいい、最後に金で励まし、兵士たちの士気を上げる。」
李牧はうなずき、また何か言おうとしたら、忽然馬を止めた、前方には馬車が七台現れた、乗っているのはすべて若者だ。彼達は大声で自分狩猟の成果を語っている、後ろの馬車には獲物が多く乗っている。
趙括は彼らを一目見て、戈に言った、
「馬車をどかせて、彼らが通るのを待とう。」
しかし、戈はそれを聞いて怒った、
「何かを成す賢人が、凡庸な人に道を譲せるか!」
彼は馬車を道の横に寄せるどころか、逆に前方に向かって加速した、口では、
「馬服子がこの道を通る!道を譲れ!」
「馬服子??」戈の言葉を聞いた若者たちの中の趙人はすぐさま馬車から降り、道の横でお辞儀した、この姿勢は一緒にいた他の国の若者を驚かせた、これらの中に燕人もいるし、魏人もいる、彼らはとっくに趙括の名前を聞いたことがある、馬車に乗っている趙括をじっくり見た。
その中の一人の燕人が忽然笑った、
「なんだ、お前らが毎日口にしている馬服子は、まだひげを生やしていないガキじゃないか。」
周囲にいる趙人は怒った目で彼を見つめた、一番怒ったのはやはり馬車を操る戈だった。彼は馬車をさらに早く走らせ。向こうの燕人の馭者はこのような戦車みたいな馬車を操る方法を見たこともない。
急いで馬車を操って避けようとしたが、すでに戈が隣に来ていた、戈は宝剣を抜き、相手の馬の左足を削った、馬は痛みで倒れた。
戈は止まったが、やっと追いついてきた荻と幸がやってきて、荻が馭者を殴り、幸が燕人を殴って、燕人の歯が折れた。幸は剣を抜き、殺そうとした時に趙括がそれを止めた。
幸が止まったのを見て、趙括は、
「私は言葉のせいで人を殺したくない、許してやれ。」
趙括を聞いた幸は首を縦に振って、剣を収め、燕人を地面に押しつけて拳で殴った。それから燕人を地面に投げ捨て、趙括の後ろに立った。
この時に、遠方から馬車が現れ、すぐにここへやってきた。
「なんだ?盗賊がいるのか?」
その人は大声を出して、すぐにここまで走って来た、李牧と趙括を見ると、ぎょっとして、短剣を収めた、笑いながら、
「なんだ、古き友じゃないか。」
その人は嬴異人であった。すでに大物をたくさん見たせいで趙括は初対面ほど慌てることがなかった。それに、先ほどの戈の暴走のせいで、びっくりしてまだ言葉をうまく話せない。それだったら話さないと決めた。
李牧はこの人に少し好感を持っているため、馬車から降りて、二人は一礼をした。それが終わると、嬴異人は複雑な目で趙括を見た、この昔の友は自分を見て、馬車から降りるのも嫌がっている。すでに何かを気づいて、自分を責めているのか?
「馬服子、さしぶり、お元気ですか。」
彼が趙国に来て以来、誰も彼を友達として見てくれなかった..違う、秦国でもそうだった。しかし、趙括だけが、彼の身分を嘲笑うことなく、友達になってくれた。
当然、趙括は来る者をすべて拒まない。それでも嬴異人にとっては唯一の友達だ、呂不韋に金銭で助けてもらってから、嬴異人の友達は増えたが、これらの人に対して、嬴異人は本心を見せることはなかった。
特に趙括が彼に言った言葉は、さらに嬴異人の気分を悪くさせた。彼は私を友達と思っているが、私は彼を傷つけてしまった。
そんな気持ちで、嬴異人の言葉も慎重になった。
趙括はやっと我に返った、頭を高く上げている戈を一目睨んで、馬車から降りてきた、
「私は元気だ!あなたが前に私を訪れてから、もうしばらくの間私を訪れた事がない。もしや私が何か過ちを犯して、あなたに過去の友情を忘れさせてしまったのですか。」
嬴異人はすぐに返答した、
「そんなことはありません、しかし、最近が忙しすぎて、訪れる時間がなかったのです。」
二人はもう少し会話をしたが、趙括は自分が楽毅を尋ねに行くことを教えなかった、ただ、
「今回は李牧と共にある先輩を拝見しに行くのです。」
二人はまるで昔のような関係に戻り、嬴異人も堅苦しさがなくなり、嬉しそうにして、
「もう一ついい事がある。まだ教えていませんでしたね、私の妻が子を宿しました!私に子供ができそうです!」
趙括は一瞬だけ固まって、
「それは..おめでとう...」
「用事が済めば、必ず私を訪れてください!昔は貧乏な生活を送っていましたが、今度こそ畜生を殺してあなたを招待しますよ!」
嬴異人は再三繰り返して、やっと趙括に道を譲った。
馬車に乗っている趙括は恍惚とした。
始皇帝が生まれる...宿命の縄も、ますます自分の首に近づいて来た。