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20.趙相の斉人田単

 藺相如の言葉を聞いた趙括は依然平気な顔をした。もし五歳若ければ、もしかしたら有頂天になって、礼を言った後にすぐに廉頗と代わり、白起と決戦をしに行ったかもしれない。でも今の彼はある道理を知った、道理は脆い、そんな強敵を倒せる心で、白起を倒せるのか?


 こんな心で、兵士たちに飯を食わせれるのか?煮ても、一人の兵士の腹ごしらえにもならん。そうして見れば、この勇士の心より、豚の心の方がよさそうだ。少なくても、豚の心は二三人の趙国の兵士をお腹いっぱいにできる。


 故に、趙括は落ち着いた様子で、ただ大きくお辞儀して、

 「藺公、私に趙人を救える方法を教えてください。」


 藺相如はぎょっとして、苦笑しながら、

 「もし私にそんな方法があれば、今頃は長平にいる。昔の私は尋常な人よりも少し度胸がある庸人にしか過ぎない。今となっても、私の勇気は少しも減っていないが、立つことすらできなくなった。尋常な人よりも劣る、ただの勇気ある廃人だ。そんな私に、あなたを助けることはできない。」


 藺相如は本当に年老いた、一時間も会話していないのに、すでにへとへとで、額には汗が流れて、血が出るほど咳をした。彼が会話を終わらす意図を示さなくとも、趙括は離れた。


 藺相如の屋敷を出たら、李牧が彼を後ろについていて、仕方ない口調で、

 「馬服子はどうしてそんなに急ぐ?藺公が私を遣わしてあなたを迎えに来させたのはきっと何らかの用事があったはずです、最後まで話を聞かずに、出ていくのは何の道理でしょうか。」


 趙括は李牧を見て、

 「あなたと私は若い男だ!こんな趙国に一生を尽くした老人にこれ以上迷惑をかけてはいけない、もしこのまま藺公の家に泊まって、彼に一生懸命この策を考えだしてもらうなら、私は恥ずかしくて死ぬ。」


 「あなたの言う通りです。勉強になりました!」と李牧は言った。


 趙括はうなずいて、李牧に尋ねた、

 「田公の家はどこにあるか知っていますか?」


 「もちろん知っています、訪れたことがあります。しかし、なぜですか。」


 「それはもちろん彼に問題を解決してもらうためですよ。」


 「...でも...先ほど..若い男...」


 「若いからこそ、人生の先輩の経験を聞かなくてはならない、連れて行ってください。」


 趙括は田単の屋敷へ行く途中田単の人生を思い出した。


 昔に一回五か国連軍が斉を攻める時期があった。斉国は大敗し、斉国の軍事力削減の目的が果たされたら、各国は相次いで撤退したが、燕国だけが斉国に復讐する為に楽毅を大将として、斉国を攻め続けた。


 それから楚国も斉国の土地が欲しいから、斉国を援助する名目で斉国を攻めた。斉王は殺され、斉国も一度滅んだ。


 その時に田単が現れた、各地の残兵を一か所に集め、即墨城を拠点とした。燕軍と五年も交戦し、攻め落とされることはなかった。田単はこの五年を利用して、城を固め、兵士たちを整頓した。

 

 その後楽毅を解決するために、燕国で噂を広めた、

 

 “斉が恐れる者は、ただ燕国の将軍騎劫なり。”


 燕王も焦ったか、騎劫を楽毅の代わりに大将をやらせた。楽毅は怒ったが、帰ったら燕王に殺されるのが怖くて、趙国に行った。


 その後は簡単だ、騎劫が相手になると、田単は火牛の陣で斉国の土地を取り戻し、斉国を救った。しかし、彼も思わなかっただろうか、名声が高いあまり、斉王に趙国へ売り飛ばされた。


 そこで気まずいことが起きた、迎えに来た人は楽毅であった。


 楽毅は手を振りながら、微笑んで、

 「あんたも来たん?」


 趙括が気になるのは楽毅と田単の因縁ではなく、もっと気になったのが...廉頗、李牧、楽毅、田単がすべて趙国にいることだ!逆にどうやって負ける?


 白起がいくら強いからと言って、今の名将が一人、過去の名将が二人、未来の名将が一人、こんな陣営に勝てる人はいるのか?


 今の趙王も人材に何らかの執着があるそうだ、彼は非常に人材を重視している、田単が趙国に入って、すぐに都平君に任命された。廉頗ですらこんな奨励を貰えなかった。それも趙国の将軍を不満を引き起こした。


 趙括が田単の屋敷に到着したら、李牧が門を叩いて、すぐに家臣が門を開けた。この家臣は斉の服を着ていて、斉国の方言が混ざった趙語だった。


 趙括は長くため息をして、この家臣の服装を見た途端、すでに趙王が田単に将軍をさせない理由が分かった。田単の意思表明は明確だ、身は趙国だが心は斉国にあり。


 庭に入ると、趙括は田単を見た。この斉国の救世主は趙括の想像と違って、将軍というより、学者に似ていた、年も相当高いが藺相如ほど弱ってはいなかった。


 「柏仁の李牧です。田公に拝見いたします。お元気ですか。」


 田単はやっと手に持つ本を閉じて、目の前の李牧を見て、笑いながら、

 「ひさしぶりだ、もうこんな大きくなった。」


 二人はしばらく会話して、田単は隣の趙括を見た、目を明るくして、微笑んで聞いた、

 「この少年は、友達かい?」


 李牧が気まずそうに、

 「彼は私の友達で、名前は趙括、馬服...」


 「ふん!!」李牧がまだ言い終わってないのに、田単は顔色を変えて、持っている本を地面に捨てた。怒った模様で趙括を見ながら、冷たい口調で、

 「今日は体調が悪いので、もう帰ってください。」


 趙括は茫然と田単を見た..確かに田単と父は仲が悪いと聞いたが、ここまで悪いとは思わなかった。

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