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19.勇士の心

 秦国がまた攻めて来た。


 荻がその消息を知らせに来た時、趙括は驚かなかった。戈と分析してから、すでにこの事を予測したのだ。


 趙人の笑顔は、来るのも早く、去るのも早かった、半ヶ月以内に、あれらの笑顔はすでに無くなった。前線の食料の需要が一気に増えた、趙括のような裕福な家はまだしも、家の青少年が戦場に赴いた貧しい家にとっては天から降ってくる災いだ。


 馬服はすでに人が餓死した。


 餓死したのは年老いた職人だった、靴を作る職人だ、趙括も彼のところで靴を作った事がある、言葉が少ない、誠実なじいさんだ。趙括はこの消息を聞いた時、頭がしばらく真っ白になった、隣の番人を見て、言った、

 「私は家に食料がない人は私のもとに来て、私は彼らを救済できると言ったのに!なぜ餓死する人が出てくる?!」


 趙去死はしばらく黙って、やっと口を開いた、

 「恐らくあなた様からは借りたくなかったのでしょう。」


 「たとえ餓死しても借りに来ないのか?」


 「あなた様は唯一秦国に恐れられる趙人です。もしみんなが食料がないからと言って、あなた様から借りたら、あなた様はどうなりますか?」


 「私たちの命は取るに足りません、あなた様に腹いっぱい食べさせてあげたいのです。私たちの家族は戦場にいて、あなた様しか彼ら助けることができません。もう二度と救済の話を口にしないでください!この事は私が邯鄲に伝えて、彼らに助けてもらいます。」

 趙去死はそう言って、立ち去ろうとしたが、二歩歩いて、また立ち止まった。


 「私の唯一の弟が三日前に丹河で死にました。彼の仲間も彼の遺体を見つけられなかった。あなた様が秦人を倒した後に、どうか人を派遣して彼の遺体を探してくれませんか?」

 趙去死の目に涙が浮かび、期待を込めて尋ねた。


 「....約束しましょう。」


............


 李牧は再び馬服郷にやってきたが、今度は門の前に家族を待つ人たちが見えなかった。前に見たあの番人は相変わらずいたが、番人が無理をして笑顔を作っているのが分かる、目が真っ赤になっている。


 李牧の気持ちも重くなってきた、李牧が来たのを聞いて、趙括はまた門を出て迎えに来た。


 李牧は彼を見て、大きく一拝をした。趙括は驚き、慌てて彼を起こした、

 「早く起きてください、そんな礼を受け取れません。」


 「私の昨日の無礼をお許しください、私は戦争の過酷さを知らないにもかかわらず、口だけは達者で....今となりやっと自分の挙動の可笑しさが分かりました。」

 李牧は真剣な様子で言った、


 趙括は首を横に振って、

 「あなたに失礼な行動はありませんし、あなたを責めてません、起きてください。」


 李牧は顔を上げると、趙括はたった一日で李牧が大きく変化したのを感じた。


 昨日までは負けず嫌いの傲慢な少年であったが、今日は少し傲慢さが減った。まるで鞘を抜かれた剣がまた鞘に入ったようだ。次に抜くときはきっと、より鋭くなっているはずだ。


 李牧は言った、

 「昨日に秦国の策略を聞いて、また上党郡の地形を知りました。私の策略では通じません。」


 趙括はうなずき、

 「秦軍を倒すのは簡単な事ではありません....」


 趙括はしばらく考えて、また言った、

 「秦国は趙国を滅ぼす気持ちで来ている、簡単にはあきらめませんもし秦軍の将軍がいつまでも趙国の防衛戦を突破出来なかった、恐らく白起のような名将が代わりに来るかもしれません、趙国の中に廉頗将軍を除いて、誰が白起に抵抗できるでしょう。


 「もしかしたら....宰相ならいけるかもしれない、ただ、彼はそれを嫌がっている。」


 「宰相?」

 趙括はすぐに思い出した、歴史書では上君は田単を相とした....田単?趙括は勢い良く立ち上がった。

 

 火牛の陣を作った人ではないか?彼も名将だ、そうだ!彼ならもしかしたら廉頗の代わりになれるかもしれない。だがなぜ彼を出陣させないんだ?宰相をやらせるには勿体ない。


 趙括は目を光らして、

 「田単将軍に廉頗将軍を助けさせたら、どうなる?」


 李牧は怪しい顔で言った、

 「廉頗将軍は馬服君と仲が良い。」


 うん?それがどうかしたの?


 趙括はは注意深く思い出し、その要点を思い出しました。父親と田単の関係は非常に悪かった。当初、趙王は田単を使って燕国を攻めようとした、父はそれに全力で反対した


 “田単は斉国の人です、上君が城を使って交換したとしても、彼は斉国のことしか思っていません、趙国が燕国を撃破する事は斉国にとって何の利点もありません。それに、田単は間違いなく全力を尽くしません、どうして彼を使うのですか。”


 残念ながら趙王は馬服君の言うことを聞かなかった。その後、馬服君はまた田単と戦争のことを討論して、大喧嘩した、仲が非常に悪い。


 廉頗は趙奢と仲がいいから、田単と自然に仲が悪くたった。もし田単に廉頗を助けさせに行かせたら、恐らく二人はまた喧嘩して、より悪い状況になるでしょう。


 二人はしばらく語って、李牧が言った、

 「実は今回、ある人の頼みであなたを邯鄲に招待するよう頼まれた。」


 「誰でしょうか。」


 「前宰相の藺相如です、馬服子はご存知ですか?」


 知らないわけがない、後世では君より名声が高く、古典の教科書にも「完璧」や「刎頸の交わり」の話が載っている。趙括はそれを暗記したこともある!彼は驚いて聞いた、

 「藺相如も趙括の名前を聞いたことがあるのですか?」


 「馬服子の賢名は、趙国人なら誰でも知っています。」李牧はそう言って、また聞いた、

 「馬服子は私とともに藺公に会いに行きませんか?」


 断る道理がなく、趙括はすぐに戈に馬車を用意するように命令して、趙母に一言伝えた。そして李牧と一緒に馬服を離れた。邯鄲に近づくにつれて、趙括の気持ちは重くなった。道端では常に助けを求める哀れな人がいる。


 途中、趙括はこの人たちを助けるために、今持っている財ををすべて使って、李牧からも少々借りた。


 邯鄲に到着したら、ますます人気がなくなっていた。城門を守る番人もあの時の少年ではなく、髪の毛が白くなった老人だ、老人はしゃがんで、何を考えているかわからない様子だった。


 趙括は不審に思い、

 「前に私が邯鄲に来た時にある少年を見た、今はどこにいますか?」


 年老いた兵士は顔を上げることもなく、

 「死んだ。」


 邯鄲のすべての料理店は閉まっている、城にはほとんど誰も見えない。趙括たちはやっとある屋敷の前に到着して、使用人が一人出てきた、趙括をある部屋まで連れて行った。


 趙括はやっとあの歴史に名を残す勇士を見た。


 彼が来る前は聡明で誇り高ぶっている豪傑だと思っていたが、そうではない。藺相如はすでに年を取っていて、廉頗の年には及ばないが、すでに立っていられなかった。跪坐するときでさえ、隣に家臣が支えている。髪は白く、体は細い、顔にしわがある、ただの老人だ。


 「括、あなたは将軍になって、秦国を倒したいですか?」


 「廉頗将軍はすでに十分出来ている、趙国で彼より優れる人はおりません、なぜあなたまで私が彼に代わることを望んでいるのですか?」


 「私は望んでいません。」藺相如は首を横に振って、また質問した、

 「どうやら嫌なようですね、なぜですか?」


 「怖いです。」


 「何を?」


 「死ぬのが怖い。」


 「ただの臆病者だったのか。」


 「はい、私は死を恐れているだけでなく、失敗をさらに恐れています。私には数百人を指揮する経験もないのに、私に数十万人を指揮させて、彼らの命に責任を負うこともできませんし、私は私が彼らを葬ってしまうことが怖い。」


 「その時が来れば、いったい何人の人が兄弟、子供、夫、父親を失うか、私には想像すらできません。」


 「私を信じて、私に趙国を保護できると思っている趙人たちが私の敗戦を聞いて、どれほど絶望するでしょうか。」


 「趙国の人たちは私が趙国を救える人と信じている。私が趙国の救世主だと思って、非常に信頼してくれている。しかし彼達は間違っている....括はただ兵法を少し習った事がある普通の人だ。括は趙国を救える人ではない。」と趙括は寂しそうに言った。


 藺相如は忽然笑い始めた、彼は非常に嬉しかった。老人の顔に少年のような陽気な笑顔が現れた、


 「昔は、私もあなたはそうでないと思っていた。しかし今なら、私はあなたこそ趙国を救える人だと、趙国の希望だと思っている。」


 「自分の名声の為に戦う人は決して、自分の命を守るために戦う人の相手ではない。」


 「自分の命を守るために戦う人も決して、民を守るために戦う人の相手ではない。」


 「あなたは兵士を武器として扱わずに、彼達を家族のように扱っている。あなたにはすでに強敵を倒すことができる心がある!」

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