前へ次へ
18/53

18.廉頗の若い時

諌める・・(多くは目上の人に対して)あやまちや欠点を改めるように忠告する。 諌言かんげんする

 趙括の質問を聞いた途端、李牧は眉をひそめて言った、

 「私は戦に勝てる将軍は用心深く観察し、臨機応変に策を施し、敵の変化と共に調整を行うも当然なことです。こんな簡単な道理ですらわからないのですか?」


 趙括はもう反論することなく、ただ微笑んで、

 「私には才能が足りません、それを思いつきませんでした。あなたの言う通りです。」


 李牧は討論する準備ができていたが、趙括がこうもあっさり負けを認めてくれると思わなかった。少し呆然としてから、微笑んで、また趙括に自分の策略を語った。それを聞いた趙括も体を傾けて、真剣な顔で聞いた。それも李牧を喜ばせて、さらに策略の詳細を語った。


 李牧が去る時に、趙括は彼を郷の門まで送って、彼が馬に乗って帰ったのを見た。そういえば、趙括は初めて他人が馬車ではなく、馬に乗るのを見た。


 趙括は屋敷に戻り、少し失望した。彼は李牧に言い返さなかったのは、彼がこれが意味ないことだと分かっていた。もし自分が本気で李牧と討論すれば、李牧は自分を言い負かすことはできなかった。たとえあの趙奢でさえ、戦争の討論について自分の相手ではなかった。


 しかし、趙括はそのような行為を諦めた。彼は前身の強がる性格を持っていなかった、李牧に討論で勝ったと言っても誇らしげに思うことはない。李牧を見た時の期待と比例して、李牧を送り返した時の失望が趙括にあった。


 趙括は元々李牧が白起に抵抗できると思っていた。もし誰か若者に廉頗の代わりにさせるなら、李牧が一番の選択だと思っていた。


 しかし、今の趙括はやっと分かった。今の李牧はまだ若すぎる、まだ甘すぎる。白起どころか、許歴のような歴史にほとんど名を残さなかった人でさえ李牧を簡単に倒せる。


 彼は騎兵を使って糧道を襲撃すると言った。また軽視させる策で、輜重を落として、秦軍を混乱させると言った。


 趙括はずっと前線に目を置いていた、門客たちの話によると、上党郡には川が多く、山が多い、輜重を山の上で運送するのは非常に人手を使うことだ。秦人もそれを知って、川を使って運送している。


 陸にある騎兵はどうやって、川の上にいる秦人を襲えるでしょうか。秦国もバカではない、すでに対応する策を打っている。それに輜重を落とすという方法は....趙括は首を横に振った。彼でさえ、秦国は首の数で軍功を数え、勝手に輜重を奪うことは、号令を聞かないとみる、即打ち首だ。


 李牧は相手の糧道を絶つのはいい考えだが、経験がないから、策が甘すぎる。彼は戦争を簡単に見ている、趙括は首を横に振りながら、忽然苦笑した。


 違う..それは父が自分にくれた評価じゃないか。


.......


 李牧は再び藺相如の屋敷に戻ったが、すでに日が暮れ、藺相如も寝ていた。藺相如に会えないから、藺相如の屋敷の前に座って、夜を過ごした。


 藺相如の前に跪坐して、李牧の顔は落ち着いていた。


 藺相如は笑って、聞いた、

 「趙括はどうでしたか?」


 「彼は君子だが、ただ才能が足りません。」と李牧は真剣な顔で言った。


 藺相如はぎょっとした。


 違う!彼の予想では、趙括は李牧と戦事を討論したら、趙括は李牧が言葉を出ないほど語って、李牧に負けを認めさせ、それから李牧が趙括の軍事的才能を藺相如の前で褒める。


 そこで自分が彼に趙括の本質を伝え、"彼に万の本を読むより自ら二百を統帥する方が良い”という道理を教える予定だったが、どうなっている?二人は戦争の話をしなかったのか?


 藺相如は疑惑を隠せない顔で、

 「もしかして二人は戦争について何も言わなかったのですか?私は趙括が兵書を熟読し、その父の馬服君でさえ、彼の相手ではなかったと聞く。どうして才能がないのですか?」


 李牧は頭を上げて、自慢するように、

 「趙括の才能は大げさに伝えられている。私が彼に拝見した後、二人で座って、秦国の対策を討論したが、彼から策略が一切出なかった。私の策略をただ同意するしかできなかった。」


 「しかし、彼は封君でありながら、民に気を使い、私に言い負かされても何の憎しみがなかった。友達にできる君子だ。私は彼を敬服している!」


 と李牧はまた趙括と討論したすべての内容を藺相如に詳しく教えた。


 藺相如は驚いたように見えた、それからしばらく黙って何かを考えていた。


 「はぁ~....まさか、私は本当に年老いたとは。」と藺相如は首を横に振りながら、また李牧に言った、


 「昔、秦国が韓国を攻める時、軍隊を閼与(あつよ)に駐屯した。馬服君は自ら救援に向かい、邯鄲を四十キロ出たら、それから前に進まなかった。上君は使者を送って彼に聞いた、何か秦国が破る策があるかと尋ねた。

 彼は、自分は何も策がなく、前方の道は狭く、ネズミが二匹が穴の中で争うように、勇気あるものが勝つと言った。」


 「その時の馬服君は将軍たちが諌めることをまだ許していなかった。秦人が油断した隙を見て、彼は軍隊を連れて閼与に入った。その時にとある兵士が死の危険も恐れずに諌言しに来た。」

 

 「兵士は“秦人は絶対に将軍がこんなにも早く閼与に入って来たときっと思っていないはずだ!将軍に北面の山に行ってもらいたい、先に行く軍は勝って、後から軍は必ず負けます!”と言った。」


 「馬服君は彼を殺さなかった。逆に彼の諌言を聞いて、すぐに北面の山を攻め落とした。それから上に立ち、下から襲来する秦軍を痛撃した。城内の韓国兵士も同時に攻撃を仕掛けて、秦軍は大敗した。」


 「ある者は彼の策略のおかげで閼与は助かったと言って、その兵士を褒めた。しかし、田単、廉頗、楽毅のような者はこう言った:馬服君は注意深く進軍し、焦らず誇らず、また下の人の諌言も耳に入れる事ができる、それこそが真の帥才だと。」


 「後に上君はその兵士を将軍にしたが、彼はその後、軍事上において、何の成果も出せなかった。」


 「その兵士は誰の事ですか?」


 「許歴。」


 李牧はしばらく黙った、藺相如はまた言った、

 「私はもともと趙括は兵書を読むことしかできなく、戦ができないと思っていた。まさかすでに馬服君の面影が見えるとは思わなかった。あなたと彼は戦争を討論するとき、自分の策略しか言わず、戦争をこうも簡単に思っている。しかし彼は極めて謹慎であって、同意する部分はあっても、うかつには採用しない。これが将才と帥才の違いだ。」


 「私が彼に劣ると言うのですか?」と李牧は悔しげに言った。


 藺相如は彼を見て、落ち着いた口調で、

 「将来はどうなるかわからないが、もし今上君があなたを廉頗の代わりに将軍をやらせば、あなたは秦国の将軍を軽視して、またこのような危険な策略を施すのは、おそらく全滅するでしょう。しかし彼が将軍になったら、敵わない事があっても、兵士たちを無駄死にさせるような真似はしないでしょう。」


 李牧は羞恥で頭を下げた。


 藺相如はまた言った、

 「私はあなたに一つ秘密を言いますが、他の人に教えないでください。」


 藺相如は思い出すように、

 「廉頗将軍がまだ二十二歳の時、まだ一つの県の県尉だった。ある時武平に盗賊が現れ、廉頗将軍は何人か兵士を連れて盗賊を仕留めようとしたが、まんまと沼地に騙されて、もし他の人の救助がなければ、恐らくそこで死んでいたでしょう。それゆえ、彼は趙人に時々嘲笑われた。」


 「しかし、彼はそれで趙国から逃げることはなかった。彼はそれからずっと兵法を習い、敵を軽視する事なく、慎重に物事を行った。盗賊や辺郡の胡人を何度も何度も倒し、その後彼は趙国の戦車と騎兵を連れて、陽晋を攻め落とし、天下を驚かせた。それから誰も趙国を軽視する事がなくなった、誰も廉頗を嘲笑う人はいなかった。」


 「戦争は国の存亡に関わる大事で、謹慎にならなくてはならない、私はあなたのような才能がある若者を見たことがない、あなたはきっと趙国の長城となる。ただ私はあなたにその才能を無駄にしてほしくない、戦争の時はもっと慎重に、趙括のように、趙国にあなたや趙括のような若者がいると、私はたとえ今日に死んでも、もう心配することはない。」


 李牧は忽然立ち上がって、

 「もう一度馬服子を訪ねてきます。」


 藺相如も長いひげを撫でながら、目を明るくした、

 「私のもとに連れてきてください、彼に話があります。」


 

前へ次へ目次