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17.趙李論戦

 李牧は藺相如の屋敷に長らく泊まらなかった。藺相如が自分を呼んで来た理由を聞くと、急いで邯鄲城から離れた。李牧が屋敷を出た後、年老いた家臣は藺相如の前に来て、未だ理解していない顔で、

 「李牧はあんな遠い場所で官吏を務めている。なぜこのような小さな事で彼を呼んで来たのですか?」


 「私がこうしたのは、二つの原因がある。」


 「教えていただけないでしょうか。」


 藺相如はまたしばらく咳をしてから言った、

 「趙括の才能がどうであれ、許歴や彼の門客たちを対応する態度から見て、彼が本当の君子だとわかる。これが一番重要だ!私たちの死後、李牧は必ず趙国の将軍職を務める。しかし彼は表向きには謙遜だが、中身は誇り高ぶっている、誰にも屈しない。そのような性格では、上君の隣に彼の仲間がいなければ、きっと悪人から迫害を受ける。」


 「私は彼をあんな遠い場所から呼んできたのは、彼に趙括と友になってほしかったのだ。私には趙括の才能が見えないが、彼には良い道徳と卓越した家族があり、廉頗の代わりにはなれないが、私の代わりにはなれる。昔には私と廉頗がいて、将来は李牧と趙括がいる、将と相、私に憂いなし。」


 年老いた家臣はやっと理解したようにうなずき、また質問した、

 「しかし、もし李牧が行って、趙括とケンカしたらどうなりますか。」


 「そうであれば、趙括は君子ではないこと、私が期待している相ではないことを証明する。」

 藺相如は首を横に振りながら言った。


 「分かりました、では二つ目の理由は何でしょうか?」

 

 「特にないが..ただ、最後に彼と会いたかっただけだ。」

 藺相如は笑いながらそう言ったが、それを聞いた年老いた家臣はどうしても笑えなかった。ますます悲しい様子を見せた。


............


 馬服郷。

 

 趙括はすでに何回も狩猟の誘いを断った、嬴異人ですら彼と一緒に狩りをしたいと誘ったが、趙括は行かなかった。


 この時代に来てから、彼は不幸な趙人をたくさん見た、これらの趙人の唯一の希望は自分であった。それは趙括に重く感じさせた。


 趙国には特に感情はないが、趙人には一種の責任と一種の恥ずかしさを持った。


 自分は趙国のために白起を倒せないが、こんな時に遊ぶべくではない。趙括はそう思いながら、これらの日に門客たちを連れて、馬服の人たちの収穫を手伝いした。栗米は趙国の主流の食べ物である、植える範囲も広い。趙括は自ら畑に行って、二日間栗米を収穫したが、三日間病を犯して倒れた。彼は耕作ができる人ではなかった。


 あまり表現は良くなかったが、彼の挙動は馬服の民の心に触れた、門客たちも真剣になり、幸も遊侠を多く集めて、各地で手伝いをした。

 

 官吏たちは驚いた。彼らはどんな方法を使っても、これらの遊侠を動かせなかった。それを幸は趙括の旗を振るだけで、数百人の遊侠を動かして、農業を手伝わした、信じられがたい。


 李牧が馬服に着くと、こんな光景を見た。


 遊侠たちが老人のために籠を背負い、道を歩いている。門番をする官吏でさえ、郷民の手伝いをしている。


 李牧にはこんな光景を見たことがない、その郷吏の前に立ち、行く道をふさいだ。


 李牧に止められても、郷吏は怒らずに、背負っている籠を卸して、

 「何の用でしょうか。」


 「私は柏人の李牧と申します。馬服子に拝見しに来ました。それで聞きたいのですが、なぜここの遊侠、官吏は、農業をしているのでしょうか。」


 番人の趙去死が頭を上げて、正義を感じさせるように、

 「今の趙国の青年たちは皆戦場に赴き、年老いと子供を残した、こんな時に、私たちは農民を助けるのはおかしな事でしょうか、馬服子のような尊い人でさえ、自ら耕作をしに来た、私のような小さな官吏が耕作するのはおかしな事でしょうか。」


 李牧は驚き、慌てて一拝をしてから道を譲った、番人が去った後に、李牧はやっと郷に入った、来る前に趙括に少し敵意を持っていたが、今となっては消えた。

 

 何を言おうと、この趙括という者は君子だ、友達になれる人だ、李牧はそう思いながら、人に道を尋ねながら、趙括の屋敷の前に来た。


 李牧は門を叩いて、大きな男が出てきた、その男は李牧を少し見てから、一礼をしてから聞いた、

 「何の用でしょうか。」


 李牧も失礼なく、

 「柏仁の李牧と申します。馬服子に拝見したい。」


 李牧の前に立つ人は荻であった。荻は李牧が来る前にすでに趙括を拝見しに来たと分かっていた。ただ、趙括もいつも拝見しにくる客人を拒否しないので、荻は門を閉めなかった。客人を門の外に残して門を閉める行為は極めて失礼だ。李牧を少々待たせてから、趙括を通達しに行った。


 「柏仁から来たお客さんが、子君を拝見したいと言ってました」

 と荻はにやにやしながら言った。


 読書を中断された趙括は心の中で不満を言い、立ち上がって本を脇に置き、挨拶に出かけた。この人を見た途端、趙括はただ者ではないと感じた。この若者からまるで鞘を抜かれた宝剣のように感じさせた。

 

 「李牧は馬服子に拝見いたします。」

 と李牧は一礼をして言った。


 趙括は混乱状態に陥った。え?だれ?李牧??

 

 趙括は戦国の歴史をあまりわからないが、李牧を知っている。趙国の有名な将軍だ!しかし、もうすでにこんなにも大きいのか、白起と同じ時代だっけ.......


 趙括は恍惚として、李牧を見る目を熱くした。李牧だ!歴史の名人だ!


 李牧は趙括から返礼が来ないことを怒って、立ち去ろうとしたが、趙括が情熱に手を伸ばして、がっしりと李牧の手を掴んだ、

 「私は趙国の柏仁に賢才がいると聞いたことがある、彼の軍事的才能は廉頗に匹敵すると言われている。私はまだ拝見しに行っていないのに、そちらから来るとは、私の過ちです。」


 異常に情熱である趙括に、李牧は混乱した。まだ返答していないのに、すでに趙括に部屋まで連れていかれた。門客たちも驚いた、彼達は李牧など聞いたこともない..でも、馬服子がおっしゃっているのだから、きっとただ者ではないだろう。


 李牧は座り、趙括はその対面に座って、目をキラキラして彼を見た。趙括はとても嬉しかった。目の前の人が李牧だと分かってから、まるで希望が見えた。自分は前世でも、今でも誰も指揮したことがない、ましてや全国の兵、しかしこの人は違う、歴史に名を残す名将だ!


 今はまだ若いとはいえ、おそらくあまり戦争の経験はないだろうけど、自分よりは数倍強い....かな?


 「私は趙人が廉頗を代わって、馬服子を将にしたいと聞いたことがある。どう思いますか。」

 李牧は忽然口を開けて質問した。


 趙括も落ち着き、真剣な顔で、

 「これは秦国の策略です、私は廉頗将軍に及ばない、ましてや彼に代わって将軍になれません。」


 李牧は少し驚いたようにうなずいた、

 「ならば、今の戦局、趙国はどうやって勝利できると思いますか。」


 趙括は頭を横に振りながら、

 「わかりません。あなたはどう勝利できると思いますか。」


 李牧は頭を上げて、

 「秦人は遠くから来た、戦車が多く、騎兵が少ない。私なら、騎兵をたくさん出して、秦国の糧道を襲撃し続けます。秦国は数十万の兵士を上党郡に集めているのだから、食料の輸入を減少できれば、あるいは糧道を絶てば、秦人に戦わずして勝てます。」


 おおう!さすが名将だ、趙括はさらに目をキラキラさせた。


 李牧は言い終わると、また言った、

 「これが私の策略です、あなたのはどうですか。」


 「私には自分の策略はありません。あなたの策略に賛同します、ほかに策略はありませんか。」


 「もちろんある!私が将軍になれば、秦人は必ず私の年で私を軽視する、そうすれば、私は敵に弱さを示し、食べ物が入っている荷物をたくさん用意し、秦人が攻撃を仕掛けてきたら、私は撤退するふりを見せ、秦人がそれらの荷物を回収している時に、不意打ちをします。」

 李牧の言葉を聞いて、趙括はかすかに妥当でないと感じた。もし敵が白起であれば、逆に包囲されて、殲滅させられるのではないか?


 李牧はまた聞いた、

 「私の策略はこんなものです、あなたにほかの策略はありませんか。」


 趙括は首を横に振り、

 「私には策略はないが、あなたの策略は危険だと思います。もし敵はわざと荷物を回収するような動きをして、伏兵を仕込んだら、あなたは敵の罠に自ら入り込むことになりませんか?」

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