16.柏仁の李牧
趙国の邯鄲城。
時間が経つにつれ、本来繁栄していたこの城も人気が少なくなってきた。たまに年老いが栗米を担いでいるのが見える、それもただ寂しさ増した。道路には忽然人たちが湧いてきて、馬車を乗りながらこの城に活力をつけた。
老人たちは彼たちを見て驚いたが、先頭に立つ者が赤い楚服を着ているのが見えたら、老人たちは軽蔑するように首を横に振りながら、構うことはなかった。この人はまさしく嬴異人であった。
呂不韋が去った後に、嬴異人は言われた通り華麗な楚服を着て、高い楚の冠を着けた。呂不韋の残した財産を使って、趙国で友達を作って、人脈を広げた。
趙異人が友達を作る時は相手の身分を構うことはなかった、趙国の公子であろうと、游俠であろうと、あるいは学者であろうと拒むことはなかった。そこそこ名が広がった。
流浪する人たちも時々受け入れ、善意を持って友達に対応できる。爽やかな趙人からしてみれば、もはや賢者であった。
今回、彼は友達たちと狩りをしに行くつもりだ。秋と冬には狩りをする貴族の習慣がある。当然、後世と違い、この時の貴族はまだ馬に乗って狩りをしに行くのではなく、馬車に乗るのだ。狩りを上手くするには良い馬車だけでなく、腕の立つ馭者も必要である。この時代の馭者は誰でもなれるわけではない。
嬴異人は高い金を払って馭者を招いた。故に楽な気分でみんなと狩りをしようとした。秦国にいた時は馭者どころか、馬車すらなかった。趙国に最初やって来た時も、秋と冬になるたびに、外にいる公子たちが狩りをしているのを見て、羨ましく思った。
馬車が城門前にやってくると、貴族たちが声を出して馬車を走らせた。嬴異人だけが馬車を止まらせた、馭者は変だと思ったが馬車を止めた。嬴異人は慌てて馬車から降り、一人の若者の前に来た、若者には車がなく、ただ馬に乗って兵士たちの取り調べに答えていた。
若者はおそらくまだ二十歳にも満たさない、模様は若いが、英気に満ちている。先に馬車を走らせた貴族たちを見ても動じず、平気な眼差しで見ていた。
嬴異人はちょうどその様子が見えたから、喜びを生まれ、この人と仲良くしようと決めた、嬴異人は若者の前に来て一拝した。若者はやっと驚いた顔をして、一拝を返した、嬴異人はさらに喜んで言った、
「私は咸陽の嬴異人と申します、あなたの英気に惹かれて、友達になろうと思いました。私の無礼をお許しください。」
若者は、
「私は柏仁の李牧と申します、才能もなく、あなたと友達になるに値しませせん。」
「李牧?」
嬴異人はその名前を暗記して、また何か言おうとしたら、隣の馭者の声が聞こえた、
「公子、早くいかないと、あなたの友達に追いつきませんよ。」
嬴異人は眉をひそめて、不快な顔で、
「私はせっかく心を交わえる人に出会ったのに、少しくらい狩猟のことを怠ってもいいではないか。」
馭者はすぐに言い返した、
「私は信義を守れない人は、友達に捨てられ、国の人に軽蔑されると聞いたことがある。もしあなたは今日に友達を作ることを理由にして、ほかの友達との約束を破れば、だれがあなたと友達になってくれるでしょうか。」
それを聞いた嬴異人は体を震わせ、李牧に言った、
「私の屋敷は邯鄲の南城にある、いつでも訪れてください!今日は大切な用事があるのでお許しください。」
言い終わるとすぐに馬車に乗り、城を出て、友達たちを追いかけに行った。李牧は城の前に目を細めながらしばらく立って、城に入った。
邯鄲の西城には趙国の大臣と貴族が多く住んでいて、趙括でさえここに一つ屋敷がある、当然ながら、西城は邯鄲内で最も治安が良い場所となった。
李牧は少し目立たない屋敷の前へ来た、この屋敷は西城にある数々の豪邸の前に違和感を感じさせる、しかし屋敷の価値はいつでもその飾りにあらず、住んでいる人にある。李牧は馬を引っ張って、門をたたいた、すぐに家臣が出てきて、李牧を見て笑顔を見せ、雑談後に馬を引き取って、李牧を屋敷内に連れて行った。
ここは藺 相如の屋敷だ、趙国では藺相如は一番の勇士という公認がある、趙人は藺相如の勇気を敬服している、たとえ秦王に直面しても、まったく恐れる様子を見せない、このような勇気こそ趙人が憧れるものだった。ただ、今となっては、趙人の勇士も老いた、李牧が屋敷に入るとたん、ほとんど中断することのない激しい咳を聞こえた。
「大丈夫ですか!」
李牧は慌てて一拝をした、藺相如は桑木の下に座っていた、桑木の葉も黄色くなり、地面にたくさん溜まっている。藺相如は桑の葉に座っている。肩の上にも何枚か落ちているが、咳するたびに何枚か落ちてくる。
藺相如は人と人とは比べられないことを時々思うのだ、廉頗は今年六十五にもなるが、未だ戦場で強敵と戦っている。
自分は五十四歳にもかかわらず、馬車にすら乗れなくなった、よりにもこんなときに...
と思いながら、また咳をし始めた、彼はゆっくりと頭を上げて、目の前の若者を見た、李牧は亡き友人の息子だ、小さい頃から藺相如に教われている、だが、政治よりも軍事に興味あるらしい、藺相如もそれを見越して、兵書をたくさんあげた。
今となっては太原の県尉を務めている、彼が務めてから、治安は良くなり、戦争が起き、太守が各県の兵士を召集するたびに、李牧は褒美をもらえる、なぜなら彼が率いる兵士は最も勇敢であるからだ、毎度軍功をもらえて、藺相如はかつて彼を廉頗に推薦したが、廉頗はそれを断った。
別に李牧を嫌いではないが、廉頗の話によると、
“おれは真の将軍には試練を必要と聞く、あなたは彼に数百人を統帥する機会を諦めさせて、おれの元に来て、おれから数万人の人を統帥する能力を学ばせるのは、もう一人の廉頗を育てる方法であって、李牧を育てる方法ではないぞ。”
藺相如もそれを分かったか。それ以来、地方の官吏が自分のせいで李牧の世話をしないように、まるでこの若者を知らないかのように、李牧から敢えて距離を取った。李牧もそれを理解した。
「藺公が私を遠くから呼んだのは何の用でしょうか。」
李牧は敬服を表して尋ねた。
「あなたは辺郡で、趙国に若い賢人が出たと聞いたことありますか。」
藺相如は微笑みながら尋ねた。
李牧は一瞬固まってから答えた、
「秦国にすら非常に尊敬されている馬服子の事でしょうか。それなら聞いたことがあります。」
李牧が少し不快にしているのが藺相如は分かった、若者は自尊心が高いのはよくあることだ。
藺相如はうなずき、
「その秦国に尊敬されている馬服子だ。元々私も彼を気にしなかった、彼は父が残した兵書しか読まない、才能ある人ではないと思っていた。しかし、許歴が上君にこの人を推薦して、また趙括を訪ねた、趙括は何と言ったと思う?」
「彼なら...王齕なら恐れるに足らん、彼を将軍にすれば、一瞬で倒せる...ですか?」
「違う。彼は自分には才能が足らず、将軍になってはいけない。またこれが秦国の策略だと言って、許歴に曾母投杼の話をして、許歴に噂を上君に流れて廉頗将軍を代えさせないように言った。」
李牧はぎょっとして、頭を下げて、何も言わなかった。
「それから私はまた別の話を聞いたことがある。趙括には常に彼の前で彼を批判する、彼を尊敬しない門客がいたと、それを趙括は斉威王の話をして自分で自分を励まし、その門客に褒美を与えたという。」
「私にはこれがあの尊大な趙括ができる真似だと、とても信じられない。私はあなたに彼を試してほしい、彼がどんな人か、私はもう年老いた、適度な才能を持つ人は誰でも私を騙せる。しかしあなたはまだ若い、簡単に騙されない。」
と藺相如は真剣な顔をして言った。