14.家に慈母
拝する・・・頭を深くたれて敬礼するのこと。
趙括の方に戻る。
彼は使者鄭朱を送ったばかりの頃、すぐに秦国が攻撃を止めた知らせを聞いた。
荻もその話を聞いた。荻は友達が多いから、いつも多くの話を聞くことができる。
彼は笑いながら屋敷に入り、前にいる門客たちを押しのけて、趙括の前に来た、
「子君!鄭君が使命を果たしました!うわさに聞くと、秦国は趙国への侵略を停止し、戦線を三キロ後退させたという、戦争が終わりそうです!」
荻はそれを言って、意気揚々とその場にいる人たちを見て、質問されるのを待っていた。
しかし、みんなは彼に戦争について尋ねることなく、軽蔑に鼻を鳴らし、自分の仕事に専念した。趙括も冷静に彼を見つめて、
「この話は朝に聞いた、皆もそれを知っている。」
荻はそれを聞いて、激怒した、
「誰だ?!戦争に関する機密情報を流したのは!!」
趙括は彼を構うことなく、部屋へ戻った。荻は依然として怒っていた。幸は我慢できず、荻を部屋の隅に連れて言った、
「隣に住む平公の子供がまた手紙を送ったんだ。平公は子君に手紙を読ませて、子君は手紙から停戦の消息を知ったんだよ。お前な、いつも人一倍しゃべるくせに、他人を責めるのか?」
荻は相変わらず不機嫌な顔をして、頭をそむけた。
趙括は室内に座り、眉をひそめた。少し自分の前世の記憶を疑い始めたのだ。
紙上談兵、長平の戦、これ知っている、しかし秦国と趙国が和議したことは覚えていないぞ?まさか四十万の趙の兵士を生きたまま土で埋めたのは実在しなかった話なのか?
今朝、平公が慌てて自分を訪ねてきて、また子供から手紙が来たと言った。趙括は手紙を見てみると、秦国と趙国の停戦を知ったのである。平公の息子はとても喜んでて、もうすぐ家に帰れるかもしれないと書いてある。
それを聞いた平公はさらに喜んでいた、息子に会うのは一年ぶりだ!嬉しさのあまりか、桑の木で作った杖を持って踊り始めた、庭の隅々をたたいて、趙括の庭の魔除けをして、祝福したのである。
平公は馬服郷では有名な魔除け師である。もし誰かの家の子供か老人に変な挙動をした時、平公に魔除けをさせるのだ、最初は趙括もこの胡散臭いじいさんを嫌っていたが、平公が魔除けするのを見た以来、平公を尊敬し始めたのである。
平公の魔除けは金をもらわないのだ、患者に変な水も飲まさせたりはしない。ただ、杖をもって軽く患者を叩いて、“もう大丈夫ですよ、鬼は去りましたよ、安全ですよ”と言うだけだ。
趙括からしてみれば平公は心理療法士に見えた、子供を思念する老人を見れば、平公は座り、話を聞いてくれる、一日中、彼が失明した妻を連れて、魔除けをしているのが見える。
趙括はこの夫婦が好きだ。彼らの幸せそうな笑顔でたくさんの人を癒した。
停戦の消息が広がったにつれて、趙国内はだんだんと笑顔が増えた。
老人や子供たちは門の前に座り、趙国の歌を歌いながら、家族が帰ってくるのを待った、それを見た趙括の気持ちもだんだんと良くなった。記憶が合ったにせよ間違ったにせよ、戦争がなくなることはだれにとっても良いことだ。
そうして三日経って、趙母は馬服山から帰ってきた。
この知らせを知った趙括は喜びとともに悲しみを感じた、喜ぶ原因は母が戻ってきたことだ。悲しむ原因は戈のやつが一緒に戻ってきたである。趙母は笑いながら馬車を降りた。
趙括が趙国での名声がどんどん高まり、趙母は自分の子供にそれほど才能がない事を知っているが、他人に褒められるのはやはりうれしいことだ。
趙母は馬車を降りたら、すぐに十数人の門客が寄ってきて、趙母に大きくお辞儀しながら、
「趙母に拝見します。」
趙母は驚いた顔をして、すぐに笑いながら、
「皆の者!私の子供がこれほどにも生死を共に過ごす門客がいるのは、彼は幸運な人だ、私は彼に代わって皆に感謝させてください。」
門客たちは恐縮になり、すぐに誰かが、
「この世に主母が門客に感謝する道理はない!ましてや、子君についていくことは私たちにとっての最大な幸運です。私たちはあなたを母のように尊敬します。だから私たちをあなたの子供と思って、何か道理に合わないことがあれば指摘してください!私たちはそれに従います!」
趙母は微笑んで、隣の戈を見て、
「持って来なさい。」と言った。
戈は後ろに立つ三人の家臣を見た。三人は共に袋を抱かえていた、袋を趙母の前に置くと、趙母はまた自らそれを開いた。袋の中はすべて短剣であった。
「これらはすべて馬服君が使った短剣だ。ずっと家に置いていたが、使い道がなくて、これをあなたたちに差し上げましょう。」
「主母!」門客たちは皆驚いて、次々と跪いた、この時代において、自分の主君、あるいは君主に向って、お辞儀するだけいい、お辞儀する角度が大きいだけだ。しかし跪礼は親などにしか使用しない、門客たちがこのような礼儀をするということは本気で趙母を母のように慕っているということだ。
宝剣を一人づづ配って、ちょうど皆に一つずつ分けれるような数だった。
趙母は、
「来る前は足りないと思っていたが、これも天意かな。」と言った。
趙括はそれを見て、少し驚きながら趙母を部屋に連れて行った。門客たちは庭で剣を振るっているから、室内に母子しかいなくなった。
「厳君、お元気ですか。」
「元気ですよ。私がここに来る途中、すべての人が私を尊敬していた、私があなたの母だからだと。」
「このような状況は、あなたの父親が秦国に勝った時にしか起こったことがない。私はあなたが名声で傲慢になると心配していたが、まさか依然と謙虚な姿勢を保ち、他人に行儀よくできるとは、私はもう心配することはありません。」と趙母は嬉しそうに言った。
趙括は少し照れながら笑って、何も言わなかった。
趙母はまた言った、
「私は秦国と趙国の戦争が終わったと聞きました。馬服に入るとき、門にはすでに多くの人が立って、帰ってくる家族を待っていた。彼らは同じ郷に住む人で、家族が趙国のために戦う人たちだ、門客たちに椅子を送らせて、座れるようにしたらいいと思う。」
「わかりました、厳君。」
二人はしばらく会話して、趙括が先ほどの話をした、
「母が先ほど宝剣を持ち出したとき、数が足らなくて、私は誰かが心に恨みを持つかと思いました。それがちょうどの数とは、本当に天意ですか?」
趙母は笑ってしまい、周囲を見渡して、小声で、
「家には三十の宝剣があるが、来る前に門客の人数を調べたから、もちろん足りるわよ。」
趙括もぎょっとして、笑って、
「なるほどね。」
「忘れるところだった。」
趙母は袖から新鮮な桃を二つ取り出し、趙括に渡した。
「先にこれを食べて、栗ご飯を作ってくる。」 と外に出ようとした。
趙括は慌ててそれを止めた、
「厳君!家にはご飯を作る人がおりますので、あなたを煩わすようなことではありません、ゆっくり休んでください。」
趙母は少し怒った様子で、
「あなたの父がまだ何でもない時から私がご飯を作ってきた。彼が馬服君になってからも、私の作ったご飯を嫌がらなかった。あなたは今、父のような軍功がないにもかかわらず、私が作るご飯を嫌がるつもりですか?!」
「厳君の体を心配しているのです....」趙括は諦めて言った。
父は底辺から封君になった。若い時は裕福ではなく、趙母と共にたくさん苦い思いをした、馬服君になってからも簡素な生活をしていた。
趙括は門を出ると、お馴染みの叫び声が聞こえた。
荻と戈がまた喧嘩をしたのだ。