10.応候范雎
叔はおじのこと…范叔
「虞卿!」
趙王は本気で怒り、
「寡人は秦国では戦う前に軍の心を乱す者は死刑に処すると聞いたことがある!」
虞卿は首を横に振りながら、
「もし上君が早く秦国を倣い、秦国のような法律を設立すれば、今日みたいな局面はなかっただろう。」
そう言いながら他の人の驚いた顔に気にせず、身を振り向いて王宮を出た。
このような無礼な行動に対して、趙王は顔を赤らめ、
「王宮の武士はどこにいる!」と叫んだ。
ところが、王宮を護衛する武士が趙王に前に来た時、趙王は命令を出せずに、顔色が変わり、長くため息をして、
「虞卿があのように言ったのも、趙国のためである。」
趙王は横にいる趙豹を見て、
「虞卿が言ったことにも道理がある、寡人は秦国だけでなく、周辺のいくつもの国にも使者を遣わす。」
趙豹は身をひれ伏せ、
「臣下の門客にも、弁舌が上手い人がいます、臣は直ちに彼らを使者として遣わして、各国に助けを求めて参ります。」
..........
邯鄲城へ行って以来、なぜだがわからないか、門客たちは子君に変化があると感じた。
子君がまた本を読みだしたのだ!
暗殺事件以来、趙括は本に触れることはなかったので、皆は非常に驚いた。
馬服子の最大の趣味は読書だった。彼はどんな本でも読むが、やはり一番のを気に入りは兵法である。兵法の本の多くは趙奢が残したものである。
本を抱えて室内でひざまずいて、趙括は兵法を注意深く読んでいた。これらの多くは前身が何度も読み返した本である。趙括はすべて暗記している。
「兵十万、二十万をもって、天下を服従させる。」
次まで読まなくとも、すでに脳裏に浮かんでいる。趙括は持っている本を棚に直した。
あの邯鄲城の幼い兵士を忘れることができなかった。知らず知らずのうちに、すでに秦国によって趙括は趙国の希望になっていた。
人々の崇拝と賞賛のまなざしは趙括にとって非常に眩しかった。
趙括は自分が斉国の田単のような救世主ではないことを知っている。逆に彼を信用している数十万人の人を害してしまう。
こんな尊重と信頼はあまりにも重たい。
「すまない、括は何の能力もない普通の人だ」
趙括は部屋から出て、門の前に立ち、静かに遠くを眺めた。
いつの間にか、荻が来ていて、趙括を見て、
「子君、隣の家に住む平公が訪れに来ました。」
趙括はぎょっとして、
「なぜ彼を止める、通報なしに入れても大丈夫だよ。」
この時代は、隣人同士の仲はすごく良い、隣の平公は父の趙奢とは仲の良い友達であった。
平公の妻も平公の隣に立っている、趙括からしてみれば、すごく似ている。同じく微笑んで、目を細め、親切そうに見える。
趙括は二人に挨拶をした。趙括の声を聞こえて、平公の妻は嬉しかった、彼女は数年前に失明して、物が見えなくなった。
「厳君が馬腹山に行ってから、平公と平母は来ることはなかった。もしかして僕が年少だから、客をもてなす道理が分からないと思ってましたか。」
趙括は笑いながらそう言った。
「あんたの読書の邪魔をしたくなかったのだ。」
趙括は二人を座らせた。この時代において、客人の訪れにあまり礼儀がない。
「厳君はいつ帰ってくるの?」と平母は聞いてきた。
「あと七日もしくは八日くらいで戻ってきます。」
「そうか...もし戻ってきたら、私に伝えてください。」平母はそう言って、趙括は同意した。
趙括が同意した後、平公は訪れた理由を話した、
「ワシは年を取って、目が見えにくいのじゃ。だからこの手紙を読んでくれないかな。」
と平公は筒の中に入っている手紙を出して、趙括に渡した。こんな小さなことを趙括は拒否する理由もなく、手紙を読んだ。
特に変わった事もなく、手紙では二人の老人に健康を管理するように伝え、また二人を懐かしむ思いを伝えただけだった。
二人の老人が注意深く耳を傾け、平公は嬉しそうに微笑んで、平母は涙を拭き続けた。
趙括が読み終えると、平公はゆっくりと竹の筒に手紙を直して、再三感謝して、立ち去った。
平公は手を伸ばし、失明の妻を引っ張って、笑いながら自分の家に戻った。
趙括は二人を見守って、なぜか少しうらやましく思った。荻でさえ笑顔が浮かび、
「子君、私も結婚したくなりました。」
それは.....少し難しいかなぁ.....
............
「寡人は趙人が鄭朱を使いとして秦国に来て、和議をしに来たと聞いた、范叔はどう思う?」
秦王は今いるすべての王より年を取っている。すでに七十に近いが、体格は丈夫である。年を取って痩せてからも力強く、ひげが長くて堂々としている。
応侯の范雎はその目の前に座っている。范雎はおそらく秦王が最も信頼している大臣で、最も仲が良い。
秦王の質問を聞いて、范雎は笑いながら、
「臣はそれが良いことだと思います。」
「范叔は寡人に遠くの国と連絡を取り、近隣の国を攻めると教えてくれた、今こそ趙国を打ち負かす、土地をたくさん占領できる良い機会であるのに、どうして趙国と和議できますか?」
秦王は不可解な顔をして聞いた。
范雎は首を横に振って、
「大王が言っているのは間違いです、今は趙国を打ち負かす時ではなく、滅ぼす時です!だから、臣は大王様に王 齕将軍に手紙を出し、趙への侵略を止めるようにしたい。」
「また、人を派遣して鄭朱を大王様の元へ護衛するのです。大王様に賢才に対応する態度で鄭朱に対応してほしい。彼を侮辱するような事や傷つけるような事を一切禁止する命令を出して、秦国の人に彼を尊敬させてください。」
秦王は驚いた顔をして、
「寡人は鄭朱に会ったことがある。范叔の言うほど才能を持っていなかったぞ!これほどの歓迎に値しないのではないか?」
范雎はヒゲを撫でながら、笑って、
「大王様、そう言わずに。趙国を倒すには、鄭朱に対する重視、戦争を終わらせたい気持ちを表現せねばならん。」
「趙国は大きな国、高い城があって、万人を超える城がたくさんある。だから、趙国を倒すことは容易ではない、趙国を倒すには鄭朱が必要です。」
范雎はそう言いながら、また立ち上がり、
「大王様、私の策略のままに、王齕の趙国への戦争を一旦止めてください。人を派遣させて鄭朱を丁重に迎えるようにしてください。」
秦王は諦めて、
「分かった、范叔の策略に同意しよう。ただ寡人にも要求がある。」
「寡人は趙国の侵略を停止するように、鄭朱を丁重に迎えるようにするが、この事は他の人に見せたくない。兵士たちの決心を揺らがすかもしれん。」
范雎は首を横に振って、
「ダメです!これは他の人に知らせなくてはならない!大王様、どうか私の策略に従ってください。」
「もし成功しなかったら、私を処罰してください。」
秦王はもうためらうことなく、断固とした口調で、
「范叔の策で行こう。」