1.趙国を破るの趙括なり
「聞くところによると、趙国には宝があり、国が破られることはない。」
「それは聞いたことがございませんね、私が聞くことによると、趙国には和氏の壁という宝があり、その精巧さは世界のどの宝をも超えると言う、しかし、こんな宝でさえ大王が遊び道具としか思っていないのに、趙国には何の宝があって恐ろしい敵軍に立ち向かえるのでしょうか。」
「若様よ、趙国には三つの宝がある。一つ目は藺 相如と呼ぶ者、彼は趙国の名高い勇者であり、謀略も優れている。」
「二つ目は廉頗と呼ぶ者、彼は兵士を愛して、兵士たちは彼のために死んでも構わない。」
「三つ目は趙勝と呼ぶ者、趙勝は家族みたいに士人を扱い、士人たちは千里も遠くから彼の門下につく。この三つの宝があれば、趙国が破られることは決してございません。」
「秦の旗は密林のように掲げている。戦車が列に並べるとその果てが見えません。兵士たちは手柄を渇望し、また王騎みたいな将軍に統括されている。まさか趙国に勝てないとは言わないだろうな?」
「勝てません。趙国の将軍を倒せるのは、世の中に一人しかございません。」
「あなたが言っているのは、もしや白起将軍のことか?」
「廉頗は地形の利を持っている、十分な体力を持って、遠い場所からやって来る敵を迎え撃つことができる。例え白起将軍からと言っても倒せることはございません。」
「...ならば、趙国を倒せるのは誰なのか、私に教えてほしい。」
「趙国を倒せるのは、趙国の趙括しかございません。」
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土壁で囲まれた庭にほとんど何の飾りもなく、黄土しか目に入らない。まるで八十年代の映画に出てくるような古いシーン。
細長いナイフが地面に落ち、体の大きい勇士が二人、頭にタオルのようなものを巻き、赤い上着とズボンを着て、短剣を手にし、一人を地面に擦り付けた。地面に擦り付けられている者は容貌が若く、二人の勇士と違い、胡服を着ていない。
彼は黒い衣装を着ていて、二人に地面に擦り付けられている。そのうちの一人が彼の背に膝を置き、まだ生えたてのひげが黄土と摩擦し、歯を食いしばって、まるで獣のような目で、少し遠くの青年を睨んだ。
今の趙括は頭が真っ白であった。席にひざまずいて座り、頭が痛く目にめまいがする。わけもわからん瞬間にこの同名同姓のやつに転生し、まだ何が起きているか把握していないのに、前に跪いている人が急にナイフを抜き自分を殺そうとした。
その瞬間、趙括は本当に漏らしかけた、足と体がプルプルと震え、門客が二人いてくれたのが何よりだった、この二人はすぐに異変に気付き、走ってきて刺客を仕留めた。
前世の二十年間の記憶が絶え間なく彼の脳裏を刺激した、前世のことを思い出した、父親が中国人で母親が日本人であることを。額に青い筋が立ち、趙括は深呼吸した。
二つの手を目の前の机に置き、しばらくたってから目を開けたら、やはりこの世界だ、映画に出てくるほど華麗ではなく非常に簡易であった、遠くにある低い壁、身の後ろにある土でできた家、どれも時代の色がする簡易な世界を表現している。
「趙括.....」と趙括は呟いた。やっと誰の身に転生したかが分かった。前身は尋常な人ではなく、趙括とは戦国の名将.....趙奢の子である。紙の上でしか兵略を議論できない、紙上談兵という起源はまさに彼のことであった。彼は本来趙国の軍隊を指揮している廉頗に代わり、秦国の将軍白起と対峙し、大敗した。四十万もの趙人を葬ったのである。
白起の名前を思い出すだけで、趙括は思わず体が震え、恐怖が心に充満し、背中に寒気が走った。
趙括が思考し、言葉が出せないときに、二人の門客が気持ちを収まることはなかった。そのうちの一人のひげを生やした勇士が膝の力を強め、刺客が痛さのあまり叫んだ、門客はそれで怒った声で質問した、
「あなたは子君の友であり、子君はあなたを家族のように扱い、私たちのような門客でさえあなたを敵と思ったことがない!何故そのような信義に背くことができるのですか。」
その刺客は地面に押さえつけられて、短剣がすぐ首の横にある、しかしその顔は少しも恐怖がなかった。彼は頭を上げて、目の前にいる趙括を見て言った、
「趙君は私の友達だ、しかし私は国の大義の前に、友情は捨てられると聞いたことがある、私がしたことは国のためである、信義に背くようなことではありません。今となって暗殺は失敗した、もし趙君が私を殺すようであれば、どうか死後に私の遺体を私の国に返してほしい。」
趙括は何が起きているか把握していないので、ただ目の前の刺客を見た、趙括はわからない、下手に話したくない、そもそもこの人は誰だっけ?そう考えているうちに、また頭が痛くなった。
趙括が返答しないのを見て、隣にいる門客がまた質問した
「あなたが子君を暗殺することは、国と何の関係があるというのか?」
刺客は悲しそうな顔で
「今秦国と趙国が交戦し、秦国は都尉城、故谷城、趙軍の西にある陣営を攻め落とし、趙国の尉官を六人を捕らえることができた。こうしてみたら、廉頗はたかが腐った木でしかなく、秦国の相手ではない。」
「秦が本当に恐れているのはやはり趙括将軍、あなたです。もし趙王があなたを趙国の大将軍と任命し、廉頗を引き下げたら、秦は間違いなく敗戦するでしょう、私は秦国が将来こんな惨敗に合わせたくないからこのようなことをしたのです。」
「EXCUSE ME?!」
その瞬間、趙括は怒りで大声を出した。
しかし、その言葉は趙語でないため、刺客どころか、門客でさえ茫然とした。子君は何を言っているのだ??趙括は立ち上がり、先ほどは気持ちが高まり、思わず前世の英語を出してしまった。
しかし、目の前にいる三人を見てみると、どうやら自分が何を言っているのかがわからない模様。趙括は刺客をじっと見て、心では相手がしたいことが分かった。
秦国と趙国が交戦し、廉頗将軍は英気を養い、城から出ることを拒み、出撃しないため、秦国はどうしようもなく、それで自分が廉頗に代わるよう仕組んだのである。
この刺客はもっぱら暗殺しに来たのではない、噂を作りに来たのであり、趙括の名声を高めに来た。あるいは、殺しに来た。ただ、白起が殺されるようにしたのである。
これらのことを思いながら、趙括も気持ちが落ち着いて、再び座った。しかし、今回は跪坐ではない、相当無礼である、趙括は冷笑しながら、
「ご安心ください、私は決して長平には行きません。廉頗将軍は趙国の最も勇敢な将軍であり、私が彼より優れたことはけっしてございません。例え大王に長平に行けと命令されても、私は行きません!」
趙括の言葉を聞いて、刺客は驚き、またすぐに我に返り。慌てて質問した「子君が言っているのは誠ですか。」
これはいつもの趙括がするようなことではないぞ。平日の趙括は誇り高く、廉頗ですら目に入らない程であった、刺客だけではない、門客でさえ驚いて、茫然と子君を見つめた、趙括は先ほどの口にした言葉を思い出し、前身のキャラはこんなことを言わないのか、少し妥当ではないと意識した。
趙括は目を細めて、立ち上がり、刺客の前に立った、刺客が驚いているような目の中に、趙括は二人の門客に手放せと命じ、自ら刺客を立ち上がらせた。趙括は感動した様子で、刺客の茫然とした顔を見て、誠実で悲しそうな様子で、
「あなたと私は長年の友であり、あなたは国家の大義で私を暗殺しようとしたが、私は国家のことであなたを傷つけるようなことはできません。」
「私は例えここで世の罵倒を受けたとしても、自分が廉頗将軍に劣ると認めたとしても、決してあなたを傷つけるような真似をしません!」
「私はあなたを家族と見た、知己と見た!」
「この趙括はここで誓う、たとえ死んでも長平に行き、あなたの同胞を傷つけるような真似をしない!この趙括は決して、そのような信義に背き、友を傷つけるようなことをしません!!」
趙括は刺客の手を握り、情深くに言った。
門客たちは目が潤んだ、彼らは何と信義がある主についたことか、皆は趙国の平原君が最も情義があると言っているようだが、今に見ると、私たちの子君こそが、本当の信義ある者ではないか!
刺客は呆然と目の前の趙括を見た。