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33 さあ反撃だ

本日6話目です


やって参りました、交流会当日です!


本日は学生たち全員と、その保護者たちが参加です。

エスコートは基本、婚約者が行うことになります。

婚約者のいない方々は、保護者エスコートでの参加です。


なので本日の私は、ライル殿下エスコートです。

保護者としてお父様も一緒です。


ちなみにナナリーちゃんはロイド様エスコートです。

ロイド様、意外と積極的だった。


そしてもうお一人、メリルちゃんのエスコートが、ゼネス様でした。いつの間に!

あのとき知性派同士でかなり気が合っている様子だとは思っていた。

気のせいではなかったらしい。

長期休暇の間に、とんとん拍子に話が進んだとのこと。




フリーディアちゃんは、本来なら第二王子がエスコートをするものですが。

奴は予想通り、ミンティア嬢にエスコートの申し込みをしていた。


彼女は私たちの味方なので、事前に情報が筒抜けです。

なのでフリーディアちゃんが待ちぼうけになることはない。

フレスリオさんエスコートでの参加です。

ミリアナちゃんは、お父様のタイグ伯爵がエスコートです。


惜しい、全カップル化とはいかなかった。




有名舞台で状況が知れ渡っている今、第二王子のミンティア嬢エスコートに、白い目が刺さっている。

しかし奴は当然のごとく、気づかない。


なんなら格好つけて髪をかき上げ、向けられる目に優越感じみた顔をしている。


おい、ナナリーちゃんのエスコートをしながら、プルプルと肩を揺らすのはやめてやれよロイド様。

ナナリーちゃんまで、プルプルし始めているから。

プルプルはうつるんだよ!




学園長からの挨拶、学生会長の挨拶のあと。

陛下が学生へのお言葉を壇上から話されるのを、粛々と拝聴する。


ちなみに学生会長は、この交流会までで終了だ。

新学生会長はもう決まっていて、我がSクラスの王弟子息ルードルフ様が選ばれた。

第二王子も立候補したが、当然無理だった。

学生会は、基本的にSクラスから選出されるので。


この交流会は、旧学生会長の終了挨拶と、新学生会長のお披露目でもある。

なので陛下のお言葉のあと、開会宣言は新学生会長のルードルフ様から行われる。


そして壇上にルードルフ様が上がり、開会宣言をした。

その直後だった。


「では私から皆に、話したいことがある!」

いきなり壇上に乱入した第二王子が、拡声の魔道具を使って会場に宣言した。

「私はエルランデ公爵家のフリーディア嬢に、婚約破棄を宣言する!」




イヤッフー!

とうとう婚約破棄宣言をしやがりました!

奴は続けて、婚約破棄の理由として、ミンティア嬢を虐めたという話を、堂々と続けている。


フリーディアちゃんは、口に両手を添えて、感極まったようになっている。


いや、喜びに打ち震えている場合じゃないぞ、フリーディアちゃん。

私は自宅から空間収納で突っ込んできた拡声魔道具を、フリーディアちゃんの口元に差し出した。

そっと促すと、彼女ははっと気がついて、息を吸い込む。


「はいっ、婚約の解消、喜んで承りますわあ!」


フリーディアちゃんの喜びに浮かれた声が会場中に響き渡った。


奴が壇上で、変な顔になった。


そして上がる歓声。


「おめでとう、フリーディア嬢! それでは私からの申し入れを」

早い早い早い! レオルド様、ちょい待って!

しかも第二王子の拡声魔道具を奪う勢いで言わないで!

さりげなく第二王子の隣でミンティア嬢が阻止してくれている。ありがとう。


「フリーディア、よかったな、フリーディアあああ!」

フレスリオさんも、むせび泣かないで!

「よかった、あの最低最悪の婚約から解放されて、本当によかった! よかった、フリーディア、よかっ…ぐす」

「ああ、これで人並みの幸せが望めますわ。解消されて、本当によかった、フリーディア! フリーディア…ひぅ」

ああっ、公爵家のご当主夫妻が号泣し出した。

エルランデ公爵一家の喜びの声が、フリーディアちゃんが持つ拡声魔道具で、会場中に響き渡っている。


待って待って待って、これから冤罪の証明をするのでしょうが!

ちょっとみんな、喜ぶのはわかるけど、落ち着いてー!




「ランドルフ、お前が先ほど口にした、フリーディア嬢への婚約破棄理由について、今一度はっきりと会場中に伝えなさい」

おお、仕切り直しが出来るように、陛下が第二王子に指示を出してくれた。

そうそう、それで冤罪を証明する流れに持って行かないと、いけないのですよ。

陛下、フォロー誠にありがとう存じます。


そこからは、第二王子が怒りの顔を取り戻し、ミンティア嬢を虐めたという話を大々的にした。

なぜか彼の頭からは、エルランデ公爵一家の喜びの声は、なかったことになっている様子だ。


横からミンティア嬢が助け船のように口添えをして、話す順序を誘導する。

まず池に突き飛ばして、ミンティア嬢をずぶ濡れにしたこと。

ノートを焼いたり、破ったり、靴を泥だらけにしたり、階段から突き落としたり。

私が持つ証拠に沿って、誘導してくれる。心強い。


「このようにフリーディアは、何度も何度もミンティアを虐め続けた。彼女は私に執着しているが、王子である私の妻に、ふさわしくありません!」

ちょい待てやコラ。

フリーディアちゃんが執着してるって、何の妄言だよ、ああん?




「面白いことを仰せですわね」

ここは私が出ようかと、フリーディアちゃんから拡声魔道具を受け取り、奴の言葉を受けて立った。

何より公爵一家が現在ポンコツになっていらっしゃるので。


「フリーディア様が、第二王子殿下に執着など、されていらっしゃるわけがございませんわ」

「何だと! だが彼女は嫉妬のあまり、このように」

「嫉妬などは、欠片もございません。エルランデ公爵家は何度も、婚約を解消して下さるよう、王家に申し入れをしておりました。そうですわね、陛下」

「そのとおりだ」


あっさりと認めた父親に、第二王子が愕然とする。

本当にね、なんで君は頑なに、フリーディアちゃんに好かれていると、思い込んでいるのだね。

んなわけねーだろ!


「まずはここで皆様に、特に一学年生の方々に、プレ夜会のことを思い出して頂きたいのですが」

私の発言に、涙を拭いたフレスリオ様がささっと、公爵家保管の記録水晶を差し出してくれた。


持ち直して下さって、ありがとうございます。

段取りを忘れずにいて下さって、ありがとうございます。

あとはゆっくり泣いて下さって結構です。

こちらで話を進めておきます。


「ここは実際に記録された映像を、映写させて頂きますわね」

私はプレ夜会の記録水晶を、用意されていたスクリーンに映写した。


そうなんですよ。

会場中に見て頂けるように、スクリーンをご用意しております。

学生会の方々に、ご協力頂きました。

会場の上部に、大きな白布を事前に設置して頂いておりました。


では、スタート!




私たちのキャッキャウフフ映像から始まるのが恥ずかしいが、映写された映像が、あのときを再現する。

歓談席から立ち上がった私たちに、第二王子がいきなり声をかけ、護衛や側近たちと囲む様子。

ドリンクを断って、強引な行動でメリルちゃんにかかり。

控え室への移動を阻む、側近や護衛たちの行動と、第二王子の媚薬発言。

解毒薬を出した私の空間魔法について絡み、続く熱湯鍋リアクション。

そして正規の近衛が来て、私の空間魔法許可があるはずと言うところ。

近衛とのやりとりで、ドリンクを断った正当性、熱湯鍋の正当性も再現される。


「さて陛下、このあと、この記録をもとに公爵家から、婚約解消の申し入れがございましたでしょう。なぜ解消に至らなかったのか、ご存じでしょうか」

「もちろん知っておる。私は解消に同意したが、王妃からの強い拒絶を受けてな。そもそも婚約自体も、王妃から強引にエルランデ公爵家になされたものだ」


陛下はさくさくっと、こちらの要望に沿って話して下さる。


「第二王子の後ろ盾に、バストールだけではなくエルランデ公爵家もと、願ってのことだ。それを解消するわけにはいかない、バストールとして解消はありえないと主張してな」

「まあ、ここまでのことをなさっておきながら、エルランデ公爵家に飲み込めと仰せでしたのね」

「エルランデ公爵家には、この件では様々に苦労をさせた。エルランデが強引に拒絶すれば、内乱にもなりかねんからと、飲み込んでくれた」

「それはまさか、ご令嬢を犠牲になさるようなことを、公爵家に強いられましたの?」

「もちろん対策は考えた。ランドルフの態度を改めさせるよう、王妃には伝えた。再びこのようなことが起きれば、絶対に婚約は解消させると、固く約束をさせた」


陛下、ノリノリで語ってくれる。

たぶん陛下もまた、こうやってバストールの理不尽を公開できる場を求めていらっしゃった。

王妃は手元に拡声の魔道具を持たず、陛下に近づこうとしているが、近衛に止められている。


「では陛下は、第二王子殿下が仰ったことが事実無根だと、ご存じでいらっしゃるのですね。フリーディア様が執着とか、嫉妬だとか、ありえないねつ造を仰っていることを」

「知っておるとも。そのような事実はありえない。フリーディア嬢からも、何度も婚約解消の意思表示をされたが、王妃が解消させなかったのだ」

「何を仰るのですか、父上!」


第二王子が陛下の言葉に割り込んだ。

「婚約解消の意志など、私は耳にしたことがございません!」

「そんなはずはないだろう。プレ夜会のあとの申し入れは、私からも伝えたはずであろう。覚えがないとは言わさんぞ」


第二王子が黙る。

さすがに陛下が言ったという発言を、否定は出来ないはずだ。

「婚約を解消したいという話は、私の気を引くためでしょう」


あかん。否定というか、明後日に爆走しやがった。


「つまりは、殿下が婚約解消希望として受け止めていらっしゃらなかっただけで、申し入れはあったのですね」

私がまとめると、彼は口を引き結んでから、きつい声を向けてきた。

「今はそのような話ではない! こちらのミンティア嬢を、フリーディアが虐めていたという話だ!」

いや、その話だよ。

嫉妬のあまり虐めたって言ってたじゃねーかよ。




「第二王子殿下、婚約は解消されたのですから、もうフリーディア嬢を呼び捨てになさらないようにお願いします」

レオルド様が横から抗議をした。

いや、それ今言うことじゃないよね。

どんだけ主張してるの、レオルド様。ちょっと待ってってば。


上司として尊敬できると思ってたけど、もしかして溺愛ポンコツ面をお持ちなのでしょうか。

それ、もしかして女辺境伯になった場合、筆頭臣下として私もフォローしなければいけないのでしょうか。

普段のフォローは公爵領の側近だが、王城の公式会議なんかは辺境伯が筆頭臣下になるからね。

まあ、フリーディアちゃんのことでのフォローなら、仕方がないからやりますけれども。


「では、その話の前に陛下、第二王子殿下が何らかの影響を受けていらっしゃるということは、ございませんでしょうか」

「そうだな。精神汚染がないかどうか、魔術師長、確認を頼む」


そこで魔術師長が、精神支配などの魔法が第二王子にかけられていないかどうかを、確認してくださった。

これで明後日爆走の第二王子が、彼にとっての正気な状態だと、証明された。

よし、これで懸念のひとつがクリアになったぜ。


「では、その虐めていたというお話について、冤罪を今から証明いたしますわ」

さくっとレオルド様は放置して、私は話を進めた。

「そんな証拠はありえない!」

「ございますわ」


そして、例の池での冤罪映像を、スクリーンに映した。

学生たちは、ほとんどが見たことのある映像だ。

だが保護者や王城関係者は、初めてなのだろう。




記録水晶でのズーム機能にはしゃぐ、私たちの声。

池の周囲の景色や鳥、花。

第二王子うぜえという話なども、公開されてしまっている。

そういえば第二王子の悪口大会してたの、そのまま公開してしまっているな。

まあいい。


流れ出る音声に、第二王子の顔色が赤く染まる。


だがそこで映像の中、ピンクの頭がよぎった。

瞬間、カメラがピンク頭を追う。


ザブザブ水に入る姿。

私たちの、何やってんの? という声。

自分で水の中にしゃがみ、悲鳴を上げる様子。

そして集まってきた人たちに向けて、私たちに突き飛ばされたという印象を植え付ける行為。


思い切りのいい池への入りっぷりや、その後の冤罪騒動に、ざわめきが起きる。


さらに、ミンティア嬢のノート焼却、破壊、靴を泥に突っ込む、階段飛び降りなど、冤罪の各種映像も続けて公開した。


第二王子がポカンと口を開けていた。

隣でミンティア嬢が「殿下ぁ、信じないで下さい」と、女優になっている。

本当に根性あるなあ、彼女は。




「ま、待て。こんなに多くの記録水晶があるのは、おかしいだろう」

第二王子の側近が、そんな反論をしてきた。


「あら、記録水晶は一般に流通する魔道具ですわ」

「稀少な魔道具だぞ!」

「なぜ稀少か、ご存じでいらっしゃいますか?」


私の言葉に、会場のあちこちで、ざわめきが起きた。

貴族の多くは知らないらしい。


「記録水晶は、魔道具作成の基本すべてを使い、繊細な魔力操作を身につければ、技術としては初心者でも作成できます」

「では、素材が稀少で」

「メインの素材は、トーダオの遺跡ダンジョンに出る目玉の魔物です。冒険者ギルドに依頼すれば、大量に送ってもらえます」

「は?」

「見えざる糸は北部山岳地帯、記憶の水は東部湖沼地域。一角耳長ウサギはそこら中で初心者冒険者が捕獲できます。見えざる糸は少し値が張りますが、冒険者ギルドで依頼すれば、手に入るものばかりです」


そこで皆を見渡して告げた。

「記録水晶という魔道具が稀少なのは、ひとつ作るのにも、魔力が多く必要だからです」


ざわめきの中、なるほどと納得した空気が流れる。

「一般的な魔道具士には、魔力の面で作成が困難な魔道具です。つまり、高魔力を持つ貴族などが、魔道具作りの練習をするには、最適な魔道具です」

「は?」


第二王子とその側近たちが、間抜けな顔をした。

「私は魔道具作りをできるようになりたくて、入学前に領地で、大量に記録水晶を作りました」




ざわめきが止まらない。

わかっている。貴族令嬢ではなく職人を目指す人の行動だ。

変わり者のレッテルが貼られていくのがわかる。


ついでにゼネス様の視線が熱い。仲間を見る目だ。

そんな目で見ないでくれたまえよ。


「そんなもの……素材の採取場所を並べたが、依頼をしたところですぐに手に入るわけでもないだろう。自力の採取も、できるはずがない!」

「できますわよ。私がSランク冒険者に保護されていたことは、陛下から貴族の方々にお話があったでしょう」


そう。王妃の実家のやらかしで、戦争が長引いたときのトラブルだ。

第二王子の最大の後ろ盾でもあるバストール公爵家のやらかした案件だ。

覚えがないとか言うなよ。


「私が記録水晶を作りたいと、彼らに保護されていたときに、思いつきで口にしたら、大量に手に入りました」

ここでちょっと遠い目になる。

「大好きな人たちから、好意で大量に頂いた素材は、無駄にできませんよね。職人のように作る羽目になろうとも」


ざわめきの中、あーと納得するみたいな声が聞こえた。

わかってくれる人もいたようだ。

あー? みたいな声も聞こえるが、スルーしておこう。


「おかげ様で、記録水晶がたくさん完成いたしました」


「こんな証拠があって、なぜ今まで言わなかった!」

第二王子がいきなり逆ギレした。


そこにずいっと前に出る前学生会長のレオルド様。

「学生会として申し入れはいたしました。殿下が広めていらっしゃる噂が冤罪と聞いた、話をしたいと。聞く耳を持たれなかったのは、そちらです」


あ、レオルド様、そういうふうにも動いておられたのですね。

記憶にあるのだろう。第二王子は口を引き結んで黙り込む。




「婚約の解消は、謹んでお受けいたしますわ」

満面の笑みでフリーディアちゃんが、きれいな淑女の礼をご披露した。

公爵家の方々も、泣き終えて貴族の礼をとっている。


もう会場中に、この婚約が彼女にも公爵家にも大迷惑だったことが、ご披露されている。

この満面の笑みが、強がりではなく心からだと、皆様に伝わることだろう。

「ですが嫌がらせは、まったくしておりませんわ。冤罪でございますこと、ご承知おきくださいませ」


よっしゃ、第一段階の婚約破棄もとい解消からの、冤罪の立証、クリア!



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