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01 活動開始

※ちょっと汚い表現も入ります。すみません。


さて異世界二日目です。

と、言いたいところですが、実は何日目かよくわかりません。

なんせ体力回復のために、食べて飲んで寝て、また食べて飲んで寝て。


ちなみにちょっとここから小声。

そう、食べて飲んでたら、排泄があるわけですよ。

それがもう、本当に虐待としか言いようがない状況なのです。


この物置、扉は基本的に外から閉じられています。

つまり排泄も部屋の中! トイレなし窓もなし!


まあ窓がなく覗かれる心配がないので、開き直って隅っこでやればいいのだが。

貴族令嬢が開き直れるかってんだ!

それでも仕方なくまあ、アレだったわけですけどね。


そこで、空間を切り離して物質分解しちゃったり出来ないかなと思いました。

やってみたらね、出来たわけですよ。

色々と部屋の中で完結できる魔法が発明できちゃったわけですよ。


この世界の概念にはない考えを基にしているので、アリスティナちゃんにはできなかった魔法です。

おっさん入った日本人女性としては、もう開き直って体力回復に努めました。




そして再びの深夜です。

体力回復の合間に体操や筋トレ的な動きもしていたので、かなり動けるようになったアリスティナちゃんです。


さらに縫い目が雑ながらも、シーツからシャツとズボンを作成し、動きやすい服装になりました。

汚れ放題なドレスのなれの果てはポイ!


ドレスをポイしたあと、服を着る前にふと体の汚れが気になりました。

おっさん入ってても女性なので、乙女でもあるんだよ!

風呂入ってないの気になるんだよ!


汚れをすっきりさせる魔法とか出来ないかなと、色々試してみました。

うまくいったのか謎な感じですが、仕方なく服を着ました。


アリスティナちゃん、少し匂うかも知れません。

だが開き直る!

自由になったら、風呂に入ってきれいにすることを目標に!




で、今回の目的は、本です。

本は高価なので、屋敷の外ではそうそう手に入らないと思われる。


羊皮紙ではなく植物紙だけど、大量生産ではない。印刷技術もない。

複写魔道具は高級で、お城や貴族の領都などにあるが、一般的ではない。

なので基本、手書きで書き写したものになる。


そんな高価な本を手に入れたあと、いよいよ行動開始です。


以前のように鍵を開けて部屋を出たあと、施錠してしっかり扉を固定。

誰にも開けられないようにします。


たぶんこれで、何日もすれば中で死んでると判断されるんじゃないかな。

だって水も食料もなしで、怪我したまま部屋に入れて、その扉が開かなくなってるんだよ。

シュレーディンガーの猫のように、わからないからこそ生きていると判断されるかも知れないけどね。知らんがな。




図書室で目的の本と、その他役立ちそうな本を漁り、ポイポイ空間に放り込む。

外に出て、目指すは薬草園です。

ポーションは何度か作成しているので、薬草があれば、アリスティナちゃんはポーションが作れます。

初級ですが。


辺境伯家の別邸なので、使用人はポーション作成できる人もいます。

いや、いました。

今は義母の実家の使用人ばかりなので、いないかな。


薬草を採取し、水洗いして根を乾燥させて処理をして。

せっせとほとんどの薬草を収穫しました。


だって義母たちに利用させたくないんだもん!

おっさん入った女が「だもん」とか言うなって?

言うよ。だって九歳のアリスティナちゃんだもん。




さてさて、ここで前回沸騰直後に収納した鍋の出番です。

基本のポーションは、沸騰させたお湯を火から下ろし、処理した薬草を入れて魔力で混ぜて馴染ませて、濾過したら完成するのです。

濾過するための、目の粗い布もリネン室から失敬済みです。準備万端です。


鍋いっぱいのポーションを作りました。

アリスティナちゃんの魔力量だから出来るけど、魔力少なかったら失敗するやつ。

薬草はまだありますが、ひとまずこれで前準備完了です。


これにて、このお屋敷とはおさらばなのです!

たまに様子を見に来るかも知れませんが。

戦争終わるまで父はこちらに来ないだろうからね。

見に来るのは、戦争が終わったという話を聞いてからだね。




夜道をずんずん進みます。

いちおう周囲の気配を感じ取る魔法と、自分の気配を消す魔法を展開しています。

今いるのは貴族街。

商業地区や平民街を抜けて、王都の森に近い街門の側を目指します。


ちなみに靴がなかったので、布を厳重に巻いて紐でしばってみました。

シーツで色々と工夫し過ぎて、貧乏臭い造りと真新しい布で、たぶん違和感バリバリですが、まあヨシ。


色々と作業したあと、ひたすら歩くうちに、空が白んできました。

うん、いい時間になったと自分に頷く。


目的地は冒険者ギルドです。

九歳の子供で、自分で生活を成り立たせる方法としては、それがいいのです。

何よりRPG好きとしては、採取と魔獣討伐でランク上げって、ロマンじゃないですか!


アリスティナちゃんはポーションが作れる。

採取してポーション作りでの金策は、かなり現実的なプランなのだ。


本日ポイポイした本たちは、上級魔法薬や特殊魔法薬の作り方の本とか、図鑑とか、魔獣辞典とか、冒険者に役立つ本なのだ!


図鑑も色々と種類がありましたが、植物の採取方法も載っているやつを選びました。

胡蝶花という、百合より少し豪華な花の下に壺っぽいのがくっついてる形の、王都の森に咲く花の蜜が絶品らしい。

その特殊な採取方法やコツが、丁寧に書かれていました。

期待が膨らむわけですよ!





そんなこんなで冒険者ギルドです。

朝一出発の混み合う時間と、少しゆっくりめの混み合う時間のちょうど間だったのか、思ったよりも空いています。


窓口はいくつかあるが、少しふくよかで優しそうなお姉さんを狙ってみた。


「あの、冒険者登録をお願いいたします」

貴族言葉にならないよう、使用人同士が使っていた、崩した言葉を心がける。


お姉さんは、おっとりと頷いた。

「登録ですね。文字は自分で書けますか? お名前を言ってもらって、私が書いた方がいいですか?」

「自分で書けます」


まずは登録用紙の記入。といっても、名前や年齢、得意なこと程度。

お姉さんの後ろの事務机から、怖い顔の男がこっちをガン見しているのが気になるが、ひとまず見ないフリをする。

顔は怖いが、嫌な視線ではない気がしたので。




「あら、ポーションが作れるの?」

「はい。なので自分で採取して、ポーションを作って納品することを、基本の活動にしたいと思います」


ポーションは不足がちらしい。お姉さんは笑顔を深めた。

魔力量とポーション作成量は比例するが、高魔力者は国や貴族に取られがち。

民間で使うポーションは、どうしても不足するのだとか。


「登録料は小銅貨三枚です」

「現金を持っていないのですが、薬草でどうにかできますか?」

「薬草は十本ひと束で小銅貨一枚と鉄貨二枚になるけど、登録前は半額で鉄貨六枚の買い取りなの」


お姉さんは申し訳なさそうに言う。

「五束の薬草は持っているかしら?」

「あります」


斜めがけしていた麻袋に手を突っ込み、空間魔法で薬草を取り出す。

数えながら窓口に置き、五束を納品した。

「ではこちらに手を置いて、魔力を流して下さい」




冒険者証は小さなタグだった。

手首につけたり、ネックレスに通したりするらしい。


お姉さんは首から下げられる革紐をサービスしてくれた。

服の下に入れて、必要なときに出すよう注意してくれた。


タグはICカードのようになっているらしい。街の出入りはタグで認証する。

冒険者御用達の商店では、冒険者ギルドにお金を預けたまま、タグで買い物もできるそうだ。


あと他の人の獲物や採取物を横取りするトラブル防止のため、討伐や採取の魔力がタグと一致しているか、確認の上で買い取るらしい。

子供と侮られて、採取物の横取りトラブルがありそうだと心配をしていた私には、嬉しい情報だ。




登録が済んだら、鍋いっぱいのポーションを出した。

「買い取りお願いします」


たぶん、鍋でポーションを納品する人は珍しいのだろう。

おっとりお姉さんがうろたえた。

スマン。




そんなお姉さんの後ろから、ガン見していた男の人がぬっと顔を出した。

そして鍋を受け取る。

「ポーション瓶の詰め替えはオレがする。初心者冒険者レクチャーをしっかりしてやってくれ」


お姉さんは安心したように頷いた。

顔は怖いが、信用していいタイプの人みたいだ。同僚に信頼されている。


「お願いします」

私も頭を下げると、少し口角が上がった。

「こぼさないように気をつける。任せてくれ」


笑ったのだと思うけど、やっぱり顔が怖い。

でも、たぶんいい人。




冒険者としての心得や決まり事、王都の森などの王都周辺の情報を、お姉さんからレクチャーされる。

なんとなくイメージしていたことも、図鑑で予習したこともあるけれど、新情報も色々あった。


そしてポーションの魔力と、タグ情報の一致を確認の上で、ポーションは納品。

小銀貨二枚になった。

鍋一杯で大量とはいえ、薬草の納品よりも、かなり効率がいい。


お姉さんがタグに入金処理してくれている間に、男の人が窓口から出てきた。

「ポーション瓶は、納品時に同じ本数のポーション瓶を返却するから、一度買えば常に正規の瓶で納品できる」

今回は詰替手数料をとられているが、瓶を一度買えば手数料もなくなるから、お得だと言う。




言われて少し考える。

「あの、今回手に入ったお金で、服と靴と、出来ればナイフと、食料が欲しいのです。あと、宿代とか」


装備を調えて森へ採取に行き、もう一度ポーションを納品すれば、瓶とか他の物も買えると思う。

そう主張すれば、彼はしばし考えてから、窓口のお姉さんを向いた。

「マリア、オレは夜勤から上がるが、売店でこのお嬢ちゃんに装備を売ってくる」


上の階の売店はまだ開いていないが、この人の権限で私に必要な物を売ってくれるらしい。

装備の服や靴は、良い品質を安く冒険者に提供している。

なのでギルドの売店は、他の店より冒険者にとっては良いそうだ。


ここで装備をそろえて、残りのお金で、瓶など必要な物をそろえればいいと言う。

あと採取に必要な備品なども教えてくれるというから、にっこり笑顔でお願いした。


「オレはゴルダだ」

怖い顔の優しいおっさんの名前がわかった。

窓口のお姉さんはマリアさん。


「お願いします、ゴルダさん。マリアさん、ありがとうございました」

「こちらこそ、今後もよろしくお願いしますね」

にっこりマリアさんは、優しい笑顔で二階に向かう私たちを見送ってくれた。





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