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15 辺境へ


王立学園に入学する前に、一度は辺境に帰っておこうということになった。


王立学園は、十三歳で入学し、二年間通う。

卒業は十五歳で、貴族女性の適齢期少し前である。

そこから本格的に夜会などに参加して、お相手探しをするそうだ。


王都からラングレード辺境伯領は、かなりの距離がある。

なにせ辺境なので。国境なので。


戦争で王都に避難するときも、ひと月近くかかった。

義母の希望でゆったり馬車だった上、安全に宿に泊まる日程だったからだ。

騎獣で野営前提だと、かなり時間短縮ができる。

側近のおっちゃんたちによると、街道が遠回りな分、騎獣なら十日かからず行けるらしい。


入学後も長期休暇なら帰ることは出来るだろう。

だが休みならではの予定を、王城がぶっ込んでくる可能性もある。

そうなると帰れなくなるかも知れない。


なので辺境伯領の皆に、入学前にきちんと顔を見せておくことになったのだ。

なにしろ死亡説が流れていたからね。

側近の人たちは、入れ替わり立ち替わり来てくれて会えたけれど、領地でなければ会えない人もいるからね。

領城の家宰とか、侍女たちとか、あちらの使用人は来られないからね。






そして辺境伯領へ帰るのに、ゴルダさんたちも来てくれるそうだ。

この国の南部、マスクル公爵旗下の元戦闘民族の住む地域には、魔の森を始め魔獣の森が広がっている。

ちなみにマスクル内の森は、恵みの森としての呼び名が多い。

戦闘民族だからね。採取と狩りの森だからね!

魔の森とか、森を不吉みたいに呼ぶのは、マスクル以外の方々なのだよ。


そんな南部の森には、特殊魔獣と呼ばれる、とても強い魔獣たちがいる。

我が領のあたりでは、お父様の行方不明の原因となったヌエンなどがそうだ。

そういった特殊魔獣の素材や、いろんな森のそこにしかない素材を集めようということらしい。


「ティナちゃんの故郷も見たいし、今後も交流するならご挨拶しないとね!」

魔法士のデオールさんが笑って言う。

「オレたちの弟子だからな」

「うちの秘蔵っ子であるからな」

斥候のアダムスさん、剣士のジオさんも言う。

「いえ、ラングレード辺境伯家のアリスティナ様です。うちの秘蔵っ子です」

ダズさんが言い返していた。




今回私たちは、騎獣で移動して、野営もしてしまうルート。

私はまだひとりでは大型の騎獣に乗れないため、お父様と一緒に乗る。

お父様は私を抱え、ご機嫌で騎獣を走らせている。


三十代の女だった記憶があると、美丈夫な父とのスキンシップは恥ずかしいのだ。

なので、再会当初はともかく、以降はあまりスキンシップに応えていない。

お父様なりに寂しかったようだ。

堂々と私を抱っこできる騎獣上は、お気に入りになられたらしい。


野営で私はスープ作りを任される。

夜の見張りなどは出来ないが、そのくらいは役に立つのだ。

何より、私の手料理だとお父様やダズさん、その他側近のおっさんたちが喜ぶので。


スープと固パンを食べ、私とお父様は就寝。

野営では何があるかわからないので、就寝もお父様に抱っこされて寝る。

まあ、これも仕方がない。

これにもお父様はご機嫌で、食べ終わるなり早く寝ようと私を抱っこする。

いや、早えーよ!




そんなこんなで十二日。

さすがに子供の私に気遣って、騎獣の速さを抑えているので、側近のおっさんたちより日数が必要だった。


ラングレード辺境伯領に入って、さらに領都を目指す。

領内はお父様との視察でも、あちこちに付いて行ったことがある。

記憶にある景色が懐かしい。


ときどき破壊の跡に、戦争の爪痕を見る。

領都の外壁も、崩れていたり、焼け焦げがあった。


真新しい建物もある中、懐かしい領城へ入った。

そして懐かしい面々に迎えられ、あのときの再現。


もみくちゃにされた。


オイ、喜ぶのも大概にしとけよ!

身体強化して、怪我はしないように気をつけているが、か弱い少女をぶん回してんじゃねーよ!

さらに投げ渡してんじゃねーよ!

身体強化してても目は回るんだよ!




もみくちゃにされる中ふと、距離を置いて、お父様の側近であるジルドさんがいるのが見えた。

彼は脳筋が多いラングレード辺境伯領では、かなりの知性派だ。

ときに目の前のことに夢中になり、視野が狭くなることもある父の、知性部門での側近だ。

広い視点で領地管理などの補佐をしてくれており、お父様がいない間も復興中の辺境伯領にいて、復興を進めてくれていたと聞いている。


アリスティナちゃんは、彼が苦手だった。

いつもアリスティナちゃんには距離を置いて接していた人。

他の側近の人たちみたいに、私を可愛がってくれていたわけではない。


でも少し距離を置いている彼の手が、ときどきアワアワ動いている。

私が投げ渡されたときや、回されているとき、視界の端にその様子が映る。

なので気づいた。

彼は子供の扱いがわからなかっただけではないかと。


歓迎の騒動が落ち着いたのを見て、彼のもとへ行き、目の前で淑女の挨拶をする。

「お父様や私たちの留守を、守って下さって感謝いたしますわ、ジルド様」

そう挨拶をすると、目を見張ったあと、彼はゆるやかに笑ってくれた。

ほどけた笑顔は、優しげだった。

そして慣れない手つきで、頭をそっと撫でてくれた。

「ご無事のお帰り、心よりお待ちしておりましたよ」


そのやりとりで、ふと思い出した。

私の婿には知性派の人を迎えようという話になっていたことを。

その候補が、マスクル公爵家のロイド様だったことを。


母が亡くなる少し前に、体がそう丈夫ではなかった母が、もう子供を産まないかも知れないという話が出た。

そのときロイド様と婚約させようかと、マスクル公爵家との間で話し合われていたのだ。

隣国関係の騒動で流れたわけだが。


知性派というなら、殿下は条件に合致する。

でもそれは、殿下が婿入りするなら、という前提だ。

やはり私としては、辺境から嫁入りすることは考えられない。

こんなにも、跡取りの私を歓迎してくれているのに。


王家には王弟とその子息たちもいたはず。

第二王子の問題さえなんとかなれば、ライル殿下に婿入りしてもらう話もアリになるだろう。

そんなことを考えていたら。


ジルドさんとの挨拶が終わったのを見計らったように、駆けつけた別の人たちに、またもみくちゃにされた。

視界の端にアワアワ動くジルドさんの様子が見えて、少し笑ってしまった。




そんな歓迎を受けて、領城の私の部屋に落ち着いた。

領城の中までは荒らされていなかった。


私は空間魔法から、母の形見となった女主人の証一式を取り出し、部屋の魔力認証金庫に仕舞った。

義母の虐待のきっかけになったアクセサリーだ。

お父様とも話し、領城の部屋の金庫に納めておくことになった。


お父様は後妻を娶る予定はないと言う。

でも私は、そんな日が来てもいいと思っている。

もしお父様が恋に落ちるような相手がいたら、という前提だけどね。


前回は、私がこのアクセサリーを、母の形見として王都まで持ち運んだ。

領城のこの金庫に残していたなら、義母もあの要求はできなかっただろうと思う。

まだ実母が恋しくて、このアクセサリーに、実母の面影を求めていたアリスティナちゃん。

それに苛立ちを感じていたのも、あの虐待の理由のひとつかも知れない。


まあ、どんな理由があろうが、虐待はいかんわけだがな。








辺境伯領で、お父様やダズさんたちはジルドさんたち領地組から報告を受け、復興の視察をし、指示を出し、忙しく過ごした。

ゴルダさんたちも、目的だった森にいそいそと出かけ、帰ってきては土産話とお土産をくれた。

高級素材は勘弁してくれと言ったが、いずれ魔道具作りに役立つだろうと押しつけられた物もあった。


そう、私は念願の、魔道具作りを始めたのだ!


辺境は素材が豊富で、魔道具も豊富にある。

素材を求めてこの地に来る魔道具士もいて、そんなひとりであるベルヘム先生に教わった。


最初は何が出来るか確認され、付与の腕前を見てもらった。

ドワーフのゼンデズさん仕込みの腕前をご披露したよ。


これが出来るなら、あれもこれも教えようと、初歩の技術を色々と詰め込まれた。

素材同士の融合、形状変化、錬成、魔力回路構築。

繊細に魔力を広げ、混じり合わせ、形作り、組み立てて。


物作りは楽しいね!

すっかり夢中になり、あっという間に数日経過。


基礎の技術がそれなりに身につき、実際に魔道具を作ることになった。

「あの、記録水晶が作りたいのですが、今の私に挑戦できますか?」

「うーん、技術としては挑戦できる。魔力量も問題なさそうだし。けど、材料がすぐには揃わないよ」

「あ、大量に持ってます」


うん。大量にあるんだ。


思い返せば、半年の冒険者活動の旅。

トーダオのダンジョンで目玉の魔物が出たときのこと。


その素材をゴルダさんが『外れ素材』と呼んだことから始まった。

なぜ外れ素材か、何か作れるものはないのか聞くと、記録水晶の素材だという。


記録水晶は知っていた。

稀少魔道具で、滅多に市場に出回らないが、需要はある。

それがなぜ外れ素材か聞くと、作成するのにかなりの魔力が必要で、作れる魔道具士が少ないらしい。

だからこの素材は、売れないのだと。


記録水晶は、映像の記録。つまりビデオカメラだ。


欲しいなと思った。

魔道具の作り方を学んだら、作れるんじゃないかなと。

私の魔力量ならきっと出来ると。


さらに、デオールさんが「初歩の技術ばかりで作れるらしいよ」と言った。

じゃあ魔道具作りの先生さえ見つければ、作れるようになるんじゃないかなとね。

思ってしまったので、言ったわけよ。


この素材をもらいたい。

魔道具作りを学んで、記録水晶を作りたいのだと。




そこからだ。皆が張り切ってしまった。

大量にその素材を狩りまくってくれてしまった。


さらに記録水晶に必要な素材を知っていると連れ回された。


北部の山岳地帯では、奈落蜘蛛からとれる『見えざる糸』が、必要な素材だと教えられた。

奈落蜘蛛は魔蜘蛛絹になる糸が取れるが、稀少部位として『見えざる糸』がある。

そしてまた、Sランクの皆様が張り切ってしまった。

私も狩ったが、彼らはアホほど狩ってきていた。


私の収納魔法にある新鮮だったり、温かい食事で、調子がいいから狩りがいっぱいできると言われた。

デオールさんは、時間停止の収納魔法は使えないのだ。

収納魔法そのものは使えるけれど。




東の湖沼地域では、『記憶の水』と呼ばれる素材があった。

湖沼地域の沼のひとつが、不思議な魔力をたたえており、それが記録水晶の素材だと教わった。

せっせとそれも瓶詰めして、収納するよう促された。


一角耳長ウサギの耳下骨は、ギルドへの依頼ですぐに手に入る。

あれは初心者でも狩れる獲物だからね。


核になる魔石は、いろんな大きさの物が、それも大量にある。

魔石の大きさはイコール容量だ。

小さいのも大きいのも容量違いで作ればいい。

失敗前提の最初は、もちろん小さな魔石で作ることになる。



そんなわけで記録水晶を作るための素材は、私の空間収納に、大量にあるのだ。


いや、私もね、こんなに熱心に記録水晶をたくさん作りたいと思っていたわけじゃないのよ。

でも素材が集まってしまったの。


そんな話を先生にすれば、是非作りなさいと後押しされた。

記録水晶は魔力をバカ食いするが、技術は初歩の組み合わせばかり。

繊細な魔力操作が必要で、初歩とはいえ様々な技術を使う。

私のような高魔力があれば、魔道具作成の技術向上には、最適な魔道具だと言われた。




そして、ひたすら大量に記録水晶を作った。

繊細な魔力操作と、初歩の技術をひたすら反復。

先生の言ったとおり、魔力さえあれば、初心者の練習にぴったりなお品だった。


色々と苦戦をするたびに、先生の指示が飛ぶ。

つたないながらも、ひとつ目を完成し、さらにもうひとつ。


最初はたくさん途中で止められ、指示を出されたけど、その回数は減っていく。

何日も何日も、ひたすら記録水晶を作った。

技術が向上するのが、とても楽しかった。


なんということはない。

また、スムーズに作れるまでムキになり、大量作成してしまったのだ。

アホほど記録水晶の在庫ができた。

素材が潤沢だったことも理由のひとつだ。




しかしそもそも、私はそれほど根気強い性格ではなかった。

むしろズボラ系の女だった。

回復薬の作成は、アリスティナちゃんが前向きだったので、彼女の心のケアのためにも夢中になっていた。

むしろアリスティナちゃんに乗せられ、ムキになっていた面もある。

今回の魔道具作りは、私自身が夢中になっていた。


たぶん、私の中に溶けたアリスティナちゃんの性質なのだろう。

彼女はお父様の子供らしく、目の前のことに夢中で取り組む性質を持っていた。


こういうときに、溶け合っているんだなと思う。


たくさん出来た記録水晶は、ひとまず空間に収納しておいた。

最初にできたものを記念にお父様にあげたら、私を記録しようとするので、もうあげないことにしたのだ。






辺境での生活は、主に魔道具作成で過ごしたが、合間にお父様と視察にも行った。

側近の人たちに稽古もつけてもらった。

ドレス姿で、鉄扇で戦うスタイルを披露すれば、側近のおっさんたちは寄ってたかってアドバイスをくれた。

お父様のお祖母様、私の曾祖母がそんなだったと、泣いて喜ぶ人までいた。

うわあとは思ったが、引いてはならんだろうと、変な形になりそうな口元を引き締めた。


本当は私専用の騎獣を見繕って、慣らすこともしたかった。

そもそもこの国は、北部側では馬、魔獣の多い南部では騎獣がよく扱われる。

街道では共通して馬車が多いが、魔獣のいる森や山などを通る際、馬だと喰われてしまうからだ。

大型騎獣であれば、弱い魔獣なら蹴倒して駆け抜けることもする。


そして今の私にちょうど良さそうな、グリフというダチョウ型の小型騎獣がいる。

彼らは強さはないが、危機察知能力が高い。

危険を察知すると、すぐに逃げる。

乗っている人間がいない場合は、飼い主を置いて単独で逃げる。

逃げた彼らは、特殊な笛に魔力を込めて吹けば、戻ってくる。


魔獣に遭遇したとき、騎獣をかばいながら戦うのは、難しい。

グリフなら自分で逃げ去ってくれるので、私にちょうどいいのだ。


けれどお父様に反対された。

お父様は帰りも私を乗せて帰る気まんまんだった。

まあ、他にもやりたいことがあるから、今回はいいかと、騎獣はあきらめた。




ゴルダさんたちともお出かけをした。

私とゴルダさんたちだけのお出かけは、貴族令嬢だからと反対意見も出た。

でも、子供のうちはいいだろうと、お父様が許してくれた。


もちろん貴族令嬢として行動するときには、侍女が必ずついて来る。

今は、私の冒険者活動にもついて来ることができる侍女を、選定中らしい。

学園に入って卒業までには、私に専属侍女がついて、どこにでも一緒に行くことになるそうだ。



辺境伯領の森は、ゴルダさんたちも初めて見る魔獣がいた。

水棲魔獣ナギラを見て、ウーナみたいに食べられるだろうかと斥候のアダムスさんが言い出した。

東の湖沼地域でウーナを捕まえたとき、アダムスさんが故郷の料理を作ってくれたのだ。

なんと、ウナギの蒲焼きだった。


思わずポーションの材料、粉にしたサンシをかけてしまったら、さらにおいしくなったと絶賛された。

サンシは素材を処理していたとき、山椒に似ていると思い、舐めてみても山椒だったので。


どうやらアダムスさんの故郷は、和食文化に近いようだ。

非常食としてお持ちだった米を炊いて、うな丼にして食べた。

米はエルランデ公爵領で作られていたため、王都でも買うことができた。

買った米は、炊いた鍋ごと私の空間収納に入っている。




ナギラも蒲焼きにしておいしいなら、是非とも食べたい。

なんなら櫃まぶしにして、お茶漬けにもしたい。

そう考えて、大量に捕獲して、収納した。


そのときに、ゴルダさんたちに、私が贈り人だと話した。

食べ物関係で話すのもどうかとは思ったけれど。

良い機会だと思ったのですよ。




案の定、ゴルダさんたちは察していた。

会った当初から、年齢のわりに考えが大人びていること、突然現れたことなど、予感はあった。

そしてアリスティナとしての体験、冒険者になった経緯で、贈り人だと察した。

他の三人は、あの半年の旅の終わり頃、戦争が終わった話と私の状況を聞いたときに察したそうな。

なのであっさり受け入れられた。

むしろいつ言ってくれるのかと待ってくれていたらしい。


今のタイミングで話した理由を聞かれて、異世界の記憶にある料理の話をした。

アダムスさんの故郷の料理が、その記憶の料理と似ていること。

ウーナの蒲焼きやお米を炊いて食べること、煮物や焼き魚、お出汁で作る料理。

丼料理は色々あって、カレーライスなんかもある。


私の出した例は、アダムスさんにとっても、懐かしい故郷の料理だったらしい。

これはもう同郷と言っても過言ではないのではと言い出した。

いや、過言だよ。異世界だよ。


さらに料理を通して自分の弟子だと主張し出したので、自分の魔法の弟子だとデオールさんが対抗した。

いや、ゴルダさんの弟子だよ。


そして剣士のジオさんが、私と共通点がないことにこっそり拗ねていた。

だってジオさん基本的に寡黙だから、情報少ないんだよ。




持ち帰ったナギラを、領城の厨房で、料理長とアダムスさんと私で囲む。

血抜きをして捌いて小骨をとって、臭み消しやら調味料の配合を考えたり、試行錯誤した。

蒲焼きが完成し、辺境の皆にも好評だった。

だがそれで、料理長の料理人魂に火がついた。


そもそも辺境に戻ったとき、一緒に戻ってきた王都別邸の料理人から、新レシピの提供があった。

私レシピの唐揚げやフライドポテト、ホットドッグにハンバーガー、おかずパンケーキやクレープなど。

王都別邸の料理人は、元は領城の副料理長だ。

その人が新レシピをたくさん作れることに、領城の料理長は悔しそうだった。


そこに、このナギラの新料理だ。

今まで見向きもしなかった素材がおいしく食べられる。

でもたぶん、もっとおいしく出来る。

アダムスさんレシピになかった、櫃まぶしの提案までされた。

さらに丼料理のレシピも提供してしまった。


それらは辺境伯領のみんなの胃袋に、ジャストフィットした。

パンよりご飯の方が、腹持ちがいいと大流行になった。


どんどん私の食の趣味が、辺境を浸食していく。

アダムスさんのせいということに、しておこうかな。



魔道具作りにかなりの時間を割きながらも、合間にお出かけや料理をして。

そんなふうに辺境での日々を満喫した。




いよいよ王都に帰る日が来た。

準備を終えて騎獣のところに行くと、王都別邸に戻る料理人が交替していた。

領主と一緒に料理長はあるべきだと主張して、領城の料理長が王都別邸に一緒に行くことになったそうな。


今まで王都別邸の料理長だった副料理長は、そっと柱の陰から、私たちを見送っていた。



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