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第二王子と初めて会ったのは、王家の王子たちとその婚約者の、合同お茶会のことでした。
てゆーか、こんなのセッティングしやがったの誰だよ!
招待状を見た瞬間から、私はそう荒ぶっていました。
第一王子と、第二王子と、その婚約者たちの合同お茶会。
私とフリーディアちゃんはともかく、第一王子と第二王子を同席させるとか。
ないわー。
こういったお茶会は、殿下方がそれぞれの婚約者をエスコートして、お茶の席まで行く。
だが、まず第二王子が時間どおりに来てやがらねえ。
「私はランドルフ殿下をお待ちいたします」
フリーディアちゃんが気をつかって先に行くように言うが、そしたら彼女がぼっちになっちゃうじゃん。
なので、私もライル殿下も、フリーディアちゃんと一緒に庭園の入り口で待つことにした。
遅れてきた第二王子は、謝罪もせずに不機嫌そうな顔。
白々しくライル殿下に「本日はご機嫌麗しく」とか、いらんがな!
まあ、第二王子の顔はわかったし、どういう人物かもわかった。
最低野郎だということがな!
フリーディアちゃんへの態度がとにかく悪い。
貴族男子たるもの、婚約者と会ったなら、まずは服などを褒めろ!
ライル殿下だってやってるぞ!
そういう気遣いが一切なく、挨拶もぞんざい。
礼儀作法の教科書通りの再会の挨拶を、感情もなくなぞるだけ。
エスコートの手の差し出し方も、握り方もなっていない。
挙げ句、早歩きで引っ張られるようになっているフリーディアちゃん。
遅れてきたくせに、異母兄であるライル殿下に先んじて席に向かうとか。
何一つ、なっていない。
大変ムカついた気分で席につき、初対面の挨拶を交わす。
もちろん令嬢の仮面である微笑は標準装備だ。
相手の程度が低いからと、こちらも合わせるわけにはいかんからな。
するといきなり、こちらの顔を覗き込んで来やがった。
「君、可愛いね。こんな子なら、婚約者を替えてもいいかもね」
ふっざけんなっっ!
フリーディアちゃんの方がよっぽど可愛いわ!
私的に妹タイプ萌えキャラの最高峰だっちゅーねん!
しかも中身もいい子とか、最高かよ!
タヌキ顔だった前世の私に謝れ!
今の私も、なんか前世キャラ引きずってんのか、ぽやん顔なんだよ。
ちょっと垂れ目なのがいかんのか、戦闘能力ついたのに、迫力がない。
こないだ子供扱いに拗ねてダズさんを睨んだら、照れて頬染めてやがったんだよ!
「君の叔父たちのやらかしを知っていて、その言葉か?」
荒ぶる心で、咄嗟に出そうになったおっさんを飲み込んでいたら、ライル殿下が反撃してくれた。
私の義母と義姉の一件は、さすがに第二王子も知っていた。
ただし、そんな事件があったなくらいの感覚で。
そこにライル殿下が、辺境伯領への支援は三ヶ月ほどで出せたはずだったこと。
その時期には、虐待は発生していたかも知れないが、まだ深刻な時期ではなかったことを話した。
戦争が始まってから、王都への避難は急いだけど、二ヶ月ほどかかったからね。
おおむね、それで合っている。
ライル殿下よくご存じですね。
そしてバストール公爵家のせいで、辺境への大規模派兵が遅れた上で、大規模な派兵が出来なくなった経緯も語る。
そちらも第二王子は、知っていたらしい。
ただ、私の被害とそれとを、結びつけていなかった。
「辺境伯領が切羽詰まったという情報があったからこそ、彼女の義母が王都の別邸の家臣を辺境へ帰してしまった」
本当によくご存じで、とライル殿下の言葉に思う。
「そして辺境伯領から王都別邸に人をやる余裕もなくなった」
色々と調べて、義母と義姉のやらかしを暴露する段取りをつけてくれたのだろう。
森で会った冒険者だった私との約束を、守るために。
「王都別邸で、義母が辺境伯の後継者に何をしても許される状況が生まれた」
ライル殿下がそこまで語っても、ようやくアレとコレが関係あったとはわかったものの、だからどうしたという顔だ。
「彼女がどんな目に遭ったか…令嬢としての矜持や尊厳「お待ち下さい」」
さすがに遮った。
いや、話したよ。ライル殿下には話したけどさ。
この場で暴露する話じゃないでしょうが。
ライル殿下も、感情が昂ぶって暴露しかけたようで、黙ってくれた。
沈黙の中、第二王子がふんと鼻を鳴らす。
「私を責める口実を、どれだけ探しておられるのでしょうね、兄上は」
ふふんと嫌みな笑みを口元に浮かべて。
「婚約者を褒めただけで、余裕もなく弟に詰め寄るとは」
話聞いてねーな、コイツ。
というより理解する頭がねーな、コイツ。
そういう話じゃないだろうがよ。
「不愉快です。失礼いたします」
そうして立ち去っていった。
なんじゃありゃ。
そしてなぜか、フリーディアちゃんから謝罪をされた。
婚約者のやらかしなので、貴族令嬢としては、それを謝罪する必要があるらしい。
「フリーディア様に謝罪をされても困りますわ。私が不快なのは、ご婚約者のお身内に対して」
まだ結婚もしていないのに、そこまで謝罪の枠を広げなくていいのよ。
奴の背景になっている連中へ思うところがあるだけだ。
奴のやらかしというより、奴の背景になっている連中のことを、奴が理解していないからだ。
それは婚約者として謝罪するような話ではない。
親が謝罪するならともかくな。
ということを、令嬢言葉でフリーディアちゃんに伝えた。
「フリーディア様、学園入学に向けての勉強会をするお話があったでしょう」
そして話題を逸らす。
彼女は行儀がいいので、強い興味があるときを除き、流れ去った話題に食い下がることはない。
「私とても楽しみにしておりますわ。つきましては、料理人を伴って伺ってもよろしくて?」
「まあ、料理人、ですか」
「冒険者だったときに知ったお料理や、思いついたお料理をして頂ける我が家の料理人から、軽食を振る舞えたらと思いますの」
「是非お願いいたしますわ。以前お話されたモラン肉の料理は、我が家の料理人が知りたがっていたレシピでしたの」
「では当日、楽しみにしておりますわ」
「ええ、こちらこそ」
フリーディアちゃんとは、最後は笑顔で挨拶できた。
第二王子には腹立つが、フリーディアちゃんは奴の被害者だからね。
奴のやらかしで彼女に謝罪されるのは嫌なんだよ。
これで、奴のやらかしの話は終わったと思ったが、帰りにライル殿下の執務室に寄り、少し人を遠ざけた場で、言われた。
「可愛いと言われて、そのまま受けるのはどうかと思う」
私が自分で反論しなかったことに、内心腹立たしく思っておられたらしい。
知らんがな!
こちとら、おっさんが荒ぶって大変だったんだよ!
王城のお茶会でおっさん発現させちゃマズイだろうが、ああん?
なので、前世の萌えキャラという概念をまず語り倒し。
フリーディアちゃんが、私の今熱い萌えキャラ最高峰だ、妹として構ってウザがられてちょいデレされたいとまで語り。
私の中におっさんが潜んでいること、前世のひとり暮らしの生活態度を語り。
何かあったらおっさんが飛び出て暴れて、令嬢として終わるから飲み込むの必死なんだよと語り。
ライル殿下は黙り込み、後ろからアルトさんが殿下の肩を叩いて慰めていた。
知らんがな!
フリーディアちゃんたちとは、後日約束どおりに、学園入学に向けての勉強会をした。
実は王立学園には入学試験があり、その成績でクラス分けが行われる。
そしてメリル・ロナウ様は特待生のSクラスを目指されるそうな。
特待生は色々と優遇されるので、お家の経済事情が厳しいが、能力のある方々が枠の獲得を狙われる。
彼女も才媛なので、充分に特待生を狙えるそうだ。
そして私たちも、できれば同じクラスになりたいからと、頑張ることにした。
特待生扱いは辞退できるし、辞退すれば別の人にその優遇措置は行く。
でもクラス分けは、頑張ってSクラスになることは出来る。
なので皆で頑張ろうという話になっているのだ。
ミリアナ・タイグ様もナナリー・モルト様も、きちんと家庭教師に教わっており、学力はかなりある。
しかし暗記系が不得手で、歴史の年代が難しいそうだ。
そこで語呂合わせの話をしたら、興味津々になられた。
皆で遊びのように、語呂合わせを考える。
自分たちで作った方が忘れないだろうなと、盛り上がりながら思う。
何より勉強が楽しいし!
そうして、辺境伯家から連れて行くと約束した料理人。
彼は、私がゴルダさんのために作るお弁当に、興味津々だった。
なので唐揚げやハンバーグ、ハンバーガーやホットドッグなどの作り方を教えた。
すると、辺境伯家で、軽食ブームが起きた。
筋肉が服を着て歩いている系の人たちが多いので、がっつりおやつが大好評だったのだ。
それ系レシピを求められるまま、おかずクレープや、おかずパンケーキも教えた。
お父様は密かに甘党なので、おかずクレープやパンケーキが大好きです。
これらは女子も大好きなはずだと、おかずクレープと、おやつクレープを作ってもらうことにしたのだ。
加熱魔道具と鉄板を組み合わせた温熱プレートを、庭園に設置させてもらった。
そのプレートで、目の前でクレープ生地を焼いてもらい、見本を作ったあとは、トッピングを選んでもらうという流れだ。
思ったとおりに盛り上がりました。
みんなでキャッキャウフフしていたら、公爵家の皆様までいらして、一緒にお茶をした。
公爵家の料理人も来て、うちの料理人からクレープの作り方を教わっていた。
そのあとは、フリーディアちゃんのお兄さん、フレスリオ・エルランデ様も勉強を教えてくださって。
彼に教わったり、お互いに得意科目を教え合ったり。
一緒にSクラス目指して頑張ろうねと約束した。