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6.二話マリアベルの入学②

「マリアベル、私は殿下の婚約者なの。だから、せめて彼との二人の食事は遠慮してちょうだい。……そして、できればご学友と一緒であっても私がいないときはやめて欲しいの」


 マリアベルはうつむいて自分の金髪の髪に触れている。


 沈黙が落ちる中、マリアベルがどう答えるかと、どきどきした。


(反抗されたらどうしよう)


 そんな風に考えてしまう自分が情けないと思ったが、これは言わずにはいられなかった。 


 しばらくすると彼女は口を開いた。


「わかった。お姉さまは長女だものね。命令には従うわ」

「そんな、命令ではないわ。お願いしているの。殿下の婚約者としての立場を立てて欲しいから」

 するとマリアベルはにっこりと笑う。


「大丈夫。そんなに心配しないで、これからは殿下と二人で食べたりしないから、お義姉さまがいるときだけお邪魔させてもらうわね」


 思った以上に、マリアベルに言葉通じてほっとした。


 だいたいマリアベルは総じて男子生徒に人気があるので、ジョシュアにそれほど執着心はないのかもしれない。



 そして、週に一度ジョシュアと昼食をとる日になった。


 カフェテリアへ行くと、すでにマリアベルとジョシュアが席に着いていた。

 彼らが何か楽しそうに話しているところに、アリシアはどきどきしながら食事の乗ったトレーを持って入っていった。


(どうして私が緊張して、マリアベルはこれほどリラックスしているのだろう)


 席に着くと、ジョシュアとマリアベルが同時に立ったので、アリシアは驚いた。


「え?」


「悪いね。もう時間がないんだ」

 ジョシュアはアリシアにそう声をかける。


「お姉さま、私も友人と約束があるので失礼します」

 そう言って、二人並んでいってしまった。

 後にはアリシアが一人取り残された。

(私、……何を間違えたの?) 


 くすくすと女生徒たちの笑う声が聞こえてきた。

 リリーたちだ。



 マリアベルが入学する前は、彼女たちと再び友人同士になれたと思っていたのに、マリアベルが来てからすべてが変わってしまった。


 アリシアは、泣き出すことも出来ず。

 パンを一口かじった。


(味がしない……)




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