59.サミュエルの生い立ちとロスナー家の事情③
短めです
「ねえ、サミュエル。まさかこの後、国に戻るつもり」
「今は様子見かな。出頭しないで逃げ出したんだ。普通に処刑されるだろう。 それにロスナー家には踏ん切りがついた」
とても大変な目に合っているというのに、サミュエルの口調はたんたんとしていた。
サミュエルは楽観的な性格で行動力がある。そのため突然国に帰ると言い出すのではないかとアリシアは心配でどきどきしてしまう。
「なんか巻き込んでしまってごめんなさい」
「いや、君のせいじゃない。で、アリシアはどうする?」
「私は、サミュエルとずっと一緒にいたい!」
サミュエルに問われて、アリシアは勇気を出して主張した。
「えっと、それは……」
サミュエルが困惑したような表情を見せたので、アリシアの元来の内気な性格が顔を出す。
「あ、やっぱり、私、お荷物だし……一緒にいてもつまらない?」
俯いてもじもじ言うと、サミュエルが突然笑い出した。
「とんでもない。大歓迎だよ。それに君って今まで会った中で一番面白い!」
「ええ、じゃあなんで言葉につまったの?」
つい少し責めるような口調になってしまう。
アリシアはもう少しで泣きだすところだったのだから。
「ああ、いや、プロポーズされているのかと……いちおう君は今婚約者がいる状態だし」
サミュエルはきまり悪そうに答える。
「私、そこまで図々しくないわ。でも確かに誤解をうむわね、ごめんなさい。それで一緒に連れて行ってくれる?」
アリシアはどきどきして真っ赤になった。
「もちろん! じゃあ、ここから、アリシアはどこへ行きたい?」
「ええっとサミュエルは、しばらくは様子見するんでしょ? 私もそうする」
「ヴァルト伯爵のもとへはいかないのか?」
アリシアはかぶりを振る。
「しばらく身を隠したい。というか私は行方不明になりたいの」
「あはは、アリシアってやっぱり面白い! 俺はブライアンの実家まで行くから、一緒にのんびり旅をしようか?」
「うん!」
二人は顔を見合わせて笑いあった。
時おり内気さが顔出すことはあるけれど、アリシアはいつのまにかサミュエルの明るい性格に引きずられ、あまり悩まないようになっていた。
こんなふうに自分の思うままに行動したのは初めてだ。
「ああ、でも私まだ殿下の婚約者なのかな? もうマリアベルと婚約を結びなおしているといいんだけど」
「どうだろう? まあ誰かが困っているのは確かじゃないのか? 見物できないのが残念だけど」
そんな話をしながら、二人はその日、旅に出てから初めての宿に入った。
その後、駆け落ちしたカップルに間違われ、二人そろって赤面する羽目に陥った。