35.お土産①
ここ数週間ほど、アリシアは張り切ってアミュレット作りをしていた。
ルミエールの店に行くまでは、放課後はすぐに図書館にこもって勉強する生活を送っていたが、いまは週の半分以上のアミュレットの自主製作の時間に充てていた。
(質のいい物を作れば売れる。自分の自由になるお金が出来ただけで、こんなに心が自由になるとは思わなかったわ)
アリシアは学園から支給されたダイヤモンド製の硬いナイフに魔力を込める。
これで魔石を削るのだ。実習で使うものなので、魔石は質のいい物ではないが、店に買い取ってもらえるレベルのアミュレットは作り出せる。
すべて学園で揃えてくれるので、どう考えても普通科よりも魔法科や魔法騎士科の方が、学費が高くなりそうなものだが、魔物が出没するこの国で魔法科は優遇されていた。
真剣に削り出していると、ミランダがやって来た。
「アリシア、さっき食堂にいたら、サミュエル様がきたよ」
「そうなんだ。サミュエル様って暇なのかしら?」
アリシアはサミュエルにさして興味もなかった。
というより、あまり会いたくない。
ジョシュアに会いにカフェテリアに来いと言われたら面倒だ。
「すっごい機嫌よかったよ。それでアリシアに伝言『結果が知りたければ、魔法騎士科の掲示板を見ろ』だって」
そこでアリシアはサミュエルが魔物討伐に行くと言っていたのを思い出した。
「もしかして魔物討伐の実践から帰って来たの?」
「うん! 伝言のお礼ってサミュエル様に討伐のお土産貰っちゃった! 魔物が落とした魔石ですって!」
そう言ってミランダが手のひらを広げると小粒の青い魔石の原石があった。
透明感があり、一目で学園にある魔石より質の良いものだとわかる。
「え! いいなあ!」
「アリシアのもあるから、取りに来いって言ってた」
アリシアはため息をついた。うまい手だと思う。
(結局、昼休みを殿下に合わせて、カフェテリアに来いってことね)
ジョシュアのだいたいのカリキュラムはサミュエルから聞いていたので、魔石欲しさにいくしかない。
アリシアはその後ミランダに伝言の礼をいって、作業を切り上げ、とりあえず魔法騎士科の掲示板へ向かった。
(あそこは貴族の子女が多くていやなのよねえ)
それでも気になって、魔法騎士科の学舎の近くにある掲示板へと行く。
遠目から見てもわかる。たくさんの貴族子女が集まって騒いでいた。
どうやら魔物討伐数の順位が張ってあってあるようだ。
アリシアはすぐにそれにくぎ付けになる。
「え? サミュエル様がダントツ一位? なんで?」
一人だけ討伐数の桁が違って驚いた。
(これはどう考えても、アミュレットのお陰ってことはないわね。あのアミュレットは一回限りの守護の魔力しか込めていないから)
アリシアはしばし呆然と立ち尽くしていたが、そのうちチラチラと視線を送られていることに気づいた。
それに混じるクスクス笑い。
リリーたちがいた。
もはや彼女たちの嘲笑すら懐かしさを感じる。
アリシアは声をかけられるのも煩わしくて、早々に去ることにした。関わるだけ時間の無駄である。
さっさと踵を返し、魔法科の学舎へ向かう途中、サミュエルに声をかけられた。
「アリシア嬢! 見た? 俺一番だろ」
満面の笑みを浮かべている。
「サミュエル様、おめでとうございます。でもあれってアミュレットのお陰ではないですよね?」
「なんでそう思うの?」
「アミュレット一つで、あれほどの討伐数はおかしいと思います」
「それがそうでもないんだな」
サミュエルの話によると、同じ班の仲間の一人が魔物の巣に落ちたらしい。
サミュエルは彼を助けるために魔物の巣に入ったという。
「危ないですね。教官はどうしていたんですか?」
「あっという間の出来事だったから、到着が遅れてね。で、そこで魔物から一発食らいそうになった時、アミュレットが発動したんだ。びっくりしたよ。突然魔法陣が現れて、シールドを張ったんだ。まあ、一発でアミュレットは粉々だったけど。それで俺はけがもなく無事だったわけだ」
アリシアはサミュエルの話を聞いてどきどきした。
(よかった。私のアミュレットは持ち主を守ったんだ)
そのことに感動しつつも、サミュエルの無謀さが少し心配になる。
「そうだ。お土産」
そう言って彼は革袋をアリシアに手渡した。
ずっしりとくる重さでびっくりした。
「ありがとうございます。中をみてもいいですか?」
「どうぞ」
魔石の感触だ。革袋越しに魔力を感じる。
アリシアはあわてて袋を開けた。中身はすべて純度の高い魔石だったので、アリシアは息をのんだ。