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33.初めての下町①

すみません! ぬけです。誤字報告にておしらせくださったかた感謝です!!

 アリシアはそうそうにフランの家から辞去することにした。


 一時間もしないうちにフランの部屋から出てきたアリシアに、サミュエルは訝しそうな表情を向けたが、何も言わなかった。


 並んでエントランスを出ると、サミュエルが言った。

「学園までうちの馬車で送るよ」

「いえ、ここから学園まで近いので歩いて帰ります」

 アリシアが断るとサミュエルが首をふる。


「そんなわけには行かない。君は侯爵家のご令嬢で殿下の婚約者なのだから、一人で街歩きなんてさせられないよ」

 真剣な表情で諭された。


 実は、アリシアは今日自分の作った魔法道具を売るつもりで持ってきていた。

 フランの家の帰りに、魔法道具屋に持ち込もうと計画していたのだ。


「せっかく外出許可をとったから、いろいろと見てみたかったのに……」

 もごもごと言い訳をして項垂れるアリシアを見て、サミュエルが腕を組んで困ったよう唸り声をあげる。


「しょうがないあ。俺がついて行ってあげる。どこへ行きたいの?」

「はい? どうしてサミュエル様が着いてくるのです?」

 アリシアはぎょっとした。正直、着いてきてほしくない。 


「君は実家に帰るとき以外は、外出しないだろう? うちの馬車もあることだし、連れて行ってあげるよ」

 アリシアは祖父母の家に行くときも行き先を実家として、外出許可をとっていた。


(やっぱり外出許可書はチェックされているのね。それに実家に帰っていないときも帰っていることになっているし。外出許可書を捏造までされているなんて……)

 ひっつめ髪をして眼鏡をかけた中年女性の寮監の顔を思い出す。


「で、どこに行きたいの?」

 再度同じ質問が投げかけられたので、アリシアはしぶしぶ答えた。


「下町の東地区にある魔法道具屋に行きたいんです」

「実習かなにかで使うかい? 学園では売っていないものなのか?」

 アリシアはサミュエルに話すかどうか迷った。


「サミュエル様、とても恥ずかしい事なので今から話すことは秘密にしてもらえますか?」


「また秘密か? まったく今日のフランとの話も秘密で、君は本当に秘密が好きだな。とはいえ、内容による。君がほかの男と逢引すると言うなら俺は殿下に報告しなければならない。それが俺のいとこのブライアンであっても」


「まさか! ブライアンは全然関係ないです。魔法道具屋に行きたいと言っているではないですか」


「わざわざ下町の?」

「はい、ルミエールの店という場所に行きたいんです」


「ふうん、いいけど、下町の東地区の店なんてしけたものしかおいてないんじゃないか?」

 サミュエルの何気ない言葉にアリシアはカチンときた。


 彼女はこれから、その魔法道具屋に自作の魔法道具を売りに行こうとしているのだ。


 果たして買い取ってもらえるのかどうかと、どきどきしているというのに。


「しけたものって、そんな言い方ないじゃないですか。魔法科の生徒が魔法道具を売りに行って小遣いや、学費の足しにしてるというのに」


 サミュエルが驚いたように目を見開いた。

「君、もしかして金に困っているのか?」


「べ、別に学園に通えて、寮にも住めて食事もできて……とりたててお金に困っているということはありません」


 なぜかサミュエルには洗いざらい話してしまう。

 アリシアは根が臆病なので警戒心が強いはずなのに、彼の前ではうまくいかない。


 アリシアは魔法道具の入ったバッグをぎゅっと胸に抱く。

「では、どうして?」


「本当はすっごく話したくなかったんですけど。私の作った魔法道具が果たして売り物になるのかどうか、腕試しがしたかったんです。だから誰にも知られたくなかったんです」


 アリシアが、真っ赤になってうつむく。


「ああ、すまない。アリシア嬢、俺はどうやら君の向上心を踏みにじってしまったようだね。以後発言には気を付ける」


 サミュエルは神妙な面持ちで言った。


 その後、彼らは大通りで馬車をおり、入り組んだ下町でルミエールの店を探した。


 石畳の道に露店が並んでいるのを、アリシアは珍しそうに見学した。


 サミュエルの話によると、東地区はそれほど治安が悪くないらしい。


 しかし、路地裏にある小さな店を探すのは骨が折れて、サミュエルのお陰で無事にたどり着けた。


 意外にこぎれいな店で、店先にいろいろな魔法道具が置いてある。


 アリシアはそれを見るだけで心が躍った。魔法道具が発する魔力の波動が心地よい。


「俺は、店の外で待っているね」

 サミュエルがそんなことを言う。

 気を使っているのか、店に並んでいるものに興味がないのかはわからない。


「わかりました。では行ってきます」


 アリシアは魔法道具を突き返される覚悟で、緊張しながら店の奥に入っていた。

 カウンターに座っていた丸眼鏡をかけた初老の男性が顔を上げる。


 彼が店主のルミエールだろう。

「ごきげんよう。私は王立魔法学園の魔法科の生徒です。買い取っていただきたいアミュレットがあってきました」

 店主が不愛想に顔を上げる。


「どれ、見せてみな」

 アリシアはどきどきしながら、バッグから自分のアミュレットを取り出した。


「ふむ、百ゴールドでいいかい?」

「え? 百ゴールドですか!」

 びっくりした。生活の足しになるとは聞いていたが、安めの宿に泊まり、食事もできる金額だ。


 値段の高い魔導書や、魔法道具を作る材料もある程度厳選して買えそうだ。


「お嬢ちゃん、しっかりしているね。じゃあ、色を付けて百二十ゴールド」

「あ……、あの、その価格でよろしくお願いします」

「その代わりといっちゃなんだが、今後うちの店で売ってくれ」

「は、はい」

 アリシアはどきどきと恐縮しながら、初めての稼ぎを受けっとった。

(嘘みたい! 実習で作った二作目のアミュレットが売れるなんて)


 頬を紅潮させて店を出ると、サミュエルが立っていた。

「おっ、売れたんだ」

 そんなに顔に出ていたかと、アリシアは思わず頬をおさえる。


「じゃあ、今度は俺がちょっと店に入るけどいい?」

「え? ……サミュエル様がここで何かお買い物をするのですか?」


 公爵家の子息が下町の魔法道具屋で買い物をするとは思わなかった。


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