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31.再び――魔法の鏡③

 その日以降、サミュエルが魔法科の学舎にくることはなく、アリシアは充実した学園生活を満喫していた。


 寮では相変わらず話題といえばマリアベルで、彼女はかなり広く自分の派閥を作っているようだ。


 アリシアにその手腕はないので、純粋にすごいと思う。


 そのお陰か、アリシアは寮で空気のように扱われ、サロンのそばを通っても無視されているので、清々していた。


 周りからいない者のように扱われたら、少し前のアリシアなら気に病んでしまいそうだが、今は魔法科に自分の居場所があるので気にならなかったし、そもそも寮生活じたい実家に帰るよりずっとましだ。


 こんな平穏な生活で、アリシアがわざわざカフェテリアに昼食をとりにいくことはなかった。


 自分から傷つきに行く理由が見当たらない。

 いつの間にかアリシアの中で自尊心が芽生えてきていた。


 行っても行かなくても、ジョシュアの態度も王妃の態度も今後変わることはないだろう。


(私は、誰にも愛されなかったけれど。自分の居場所は作ったわ)


 魔法科が楽しいので、それで十分だった。


 そのうえ、アリシアのアミュレットは出来もよく教師に褒められた。


 魔法科の生徒の中にはアミュレットを売って小遣いにしたり、学費の足しにしたりしているものもいるときく。


 アリシアも自分だけの小遣いが欲しいので、実際に魔法道具屋に売ってみようか考え中で、魔法科の知人からどの店がいいのか情報を集めていた。


(もしも、私の作ったアミュレットを買い取ってもらえたら嬉しいな……)


 幸い、寮監はウェルストン家に言われるがままに、王太子に報告を上げているので、アリシアは次の休みに外出許可をとって思い切って、一人で町に出ることにした。


 ◇


 そんな楽しい計画を立てて、アリシアが学園の図書館に通じる小道を歩いているとサミュエルが待ち伏せていた。


「アリシア嬢」

 カフェテリアへのお誘いかと思うと、アリシアの顔は引きつってしまう。


「そんな、嫌そうな顔しないでくれよ」

 サミュエルが困ったような笑みを浮かべる。


「あの、ご用件は?」

「フランのことなんだけど」

 とりあえず、ジョシュアとマリアベル関連の用件ではなさそうなのでほっと息をつく。


「君、やっぱりジョシュアが嫌い?」

「やめてください!」

 アリシアの顔を覗き込むように聞いてくるサミュエルに、息が止まりそうになる。


「すまない。軽い冗談のつもりだった」

 サミュエルは、本当に油断ならない人だと思う。


「それで、フラン様がどうかなさったんですか? 具合が悪いとか? 何かあったのですか?」


「以前、フランが君と話したがっていると伝えただろう? また連絡が来て、念押しされた。どうしても君に会いたいらしい」


「今、フラン様はどちらに?」


「王都にいるよ。パトリック様とユベール伯爵家のタウンハウスにいる。定期的に医者にかかる必要があるからね。ダンスは無理だけれど、歩行ができるまでに回復したそうだ」


 それを聞いてアリシアは少しほっとした。

 あの若さで一生寝たきりなど気の毒だ。


 しかし、それにしても疑問は残る。

「どうしてフラン様は、サミュエル様に伝言を頼んだのでしょう?」

「事情は知らない。君が手紙を書いても読んでくれないと思ったのかもしれないね」


 フランに会うのは怖い気はするが、アリシアはそのような失礼な真似をする気はなかった。


 人を使っての催促、フランに直接会いに行くしかないようだ。


「わかりました。今度おうかがいします」

「それなら次の休みはあいてる?」

「急ですけれど、大丈夫です」

 フランは用意周到で、日程まできめているようだ。

 よほど話したいことがあるのだろう。

 (やっぱり怖い気もする)

 

「じゃあ、午後のお茶の時間に一緒にタウンハウスを訪ねよう」

「え? サミュエル様も来るんですか?」

「フランに君を連れて行くように言われたんだ。しかたがないだろ?」


 サミュエルが残念そうにため息をつく。


(そんな言い方しなくても……。サミュエル様はフラン様に弱みでもにぎられているのかしら?)


 





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