20.気まぐれな王妃の茶会②
マリアベルは頬を染めて申し訳なさそうな顔をする。
「私ったら、ですぎたことを……王妃陛下申し訳ありません」
彼女はぺこりと頭を下げた。びっくりするほど軽い謝罪である。
「驚いたわね。ウェルストン卿は自分の娘に礼儀も学ばせていないの?」
「そんな! お父様はとても寛大でお優しい方です」
「ところでマリアベル、あなたは何か国語話せるの?」
唐突な王妃の質問にマリアベルはアリシアに助けを求めるように視線を向ける。
しかし、アリシアは今、王妃に発言を許されていないので答えるわけにはいかない。
「学園で隣国の言葉を学んでいるところです。もちろん、留学生とも交流を持っております。彼らとも友情を育んでいます」
堂々と答えるマリアベルに、王妃は残念そうな目を向ける。
「あなたがアリシアにはっぱをかけてくると期待していたけれど、残念だわ」
王妃の言葉にマリアベルは戸惑っている。
「あの、どういう意味ですか? 私、何か間違えましたか? ねえ、お義姉様どうして黙っているの? なぜ助けてくれないの?」
アリシアは黙って王妃を見る。すると王妃は首を振った。
「やだ。お義姉様、なんで無視するの? お父様とお母様にこのことは報告するからね」
今にも泣きだしそうな様子でマリアベルが言う。
ジョシュアも沈黙を守ったままだ。
「アリシア、発言してもいいわよ」
「はい、王妃陛下」
ぎょっとしたようにマリアベルがアリシアを見た。
「マリアベル、王宮には王宮の作法があるの」
「お義姉様、ひどいわ。それならどうして教えてくださらなかったの?」
マリアベルが悲しげに大きな瞳を潤ませるが、アリシアは動じなかった。
「それは、あなたについていた家庭教師や、学園で習うものなのではないかしら」
「私は、勉強が不得手なんです。お義姉様が社交下手でお友達ができないのと一緒です」
マリアベルが子供のようなこと言う。彼女は年齢よりおさないのだろうかとアリシアは思う。
「そうね。誰にでも得手不得手はあるわね」
「だったら、助けてくれればよかったじゃないですか? なぜ、意地悪するのです」
「意地悪したつもりはないわ」
「お父様とお母様から、お義姉様が愛されていないのは私のせいではないのに」
マリアベルは同情を引くようにハンカチを握り涙声を出す。
「確かに、あなたのせいではないわ」
「でも、僻んで、私に意地悪したんでしょ?」
それについては、アリシアは首を傾げた。
「僻んで……、どうなのかしら? 羨ましいと思ったことはあるわ。でも不思議と私はあなたになりたいとは思わないの」
アリシアもその部分については不思議だ。マリアベルは明るく社交的なのに、彼女になりたいとは思わなかった。
だから、僻みと言われると違うと感じてしまう。
(私はありのままの自分を受け入れてもらいたい)
その瞬間パンと乾いた音がしてアリシアの頬が熱を持つ。
マリアベルに頬を張られたと気づいた。
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