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王女と、崩壊の兆し

 私はニーナエフ・フェアリーは、この二年、神子とされる存在が引き取られてからのことを思い起こす。神子、という存在がこの国に引き取られてから私の生活は大きく変わった。



 そしてフェアリートロフ王国自体もどうなっていくのか分からない。



 私は、隣国のヒックド・ミッガ様と婚約をした。つい先日、私はヒックド様にきつい言い方をしてしまった。ヒックド様は力はあるけれども、動く気はなかった。そのことに思わず声をあげてしまった。自分が言い切ってしまった後に、私は焦った。やらかしてしまったと思って、もうこのまま婚約は破棄かもしれない、などとも思った。けど、ヒックド様は私の言葉に怒ることもなく、ぽかんとした顔をして、笑ったのだ。



 ―――そして何を思ったのか、私に協力をしてくれるといってくれた。それからヒックド様は、少しだけ表情豊かになった。私に向かって、笑みを零してくれるようになった。……距離感が縮まって、そういう態度をしてくるヒックド様に少しだけドキドキしてしまう。



 もしかしたら私はヒックド様に、恋をしてしまっているのかもしれない。―――が、今はそのことについて考えている余裕はない。フェアリートロフ王国は崩壊するだろう。少なくとも、今まで通りではいられない。



 ヴェネ商会の者からの仕入れた情報によると、フェアリートロフ王国内では現状に対する不満が膨れあがっているようだ。神子という存在するだけで恵みを与えるとされている存在がいるにも関わらず不作が続き、悪いことが起こっている。



 お父様は、今まで有能な王と言われていた。でも、それは間違いなのだと私はこの二年で知った。おそらく二年前までこの国が上手く回っていたのは、おそらく本当の神子である少女がこの国に居たからという影響もあるのだろう。神子がいる状況で、本当にお父様がもっと有能だったならばこの国はもっと栄えたのだろう。お父様は賢王でも愚王でもないのだろう。ただ、今まで問題が起こらなかったというだけなのだ。



 ――――大神殿や王城では、おそらく保護されている神子は本物の神子ではないということがささやかれているそうだ。




「……暴動が起こる可能性もありか。そして、貴族のうちの何名かは、行動を起こそうとしているか……」



 私は思わずつぶやく。



「それに加えてミッガ王国の方では、奴隷たちによる動きがあり……か。両方とも同時に動いたらどうしましょうか」



 片方ずつ動くのならばまだしも、両方とも動くのならばどうなっていくのか分からない。



 ヴェネ商会からの情報で、本物の神子を探すために何名かが、旅に出ていったというのもある。そして、神子を探すための神託を受けた神官たちは、噂にもなっていない。一番最初に目が覚めた神官は、神子を探す旅に出たという話だが、他の神官たちが目が覚めたかも、目が覚めていないかも、どうなっているかも分からないのだという。

 ヴェネ商会と手を結んだからこそ、様々な情報が私の元へ入ってくる。



 情報を知れば知るほど、この国がいずれ今の形をなくしていくだろうことが見てとれる。そういえば、アリス様のことも少なからず聞いた。アリス様は前にもまして我儘に癇癪を起していると聞く。でも———、神子とされているアリス様の周りのものたちは前ほどアリス様に従順というわけでもないらしい。

 アリス様にあれだけ従順だったものたちがそういう態度をするということはやはり何か思うことがあったのだろう。



 このままではやはりあの神子とされている少女の身は危険だろう。まだ九歳の少女に全てを押し付けることは、やっぱり私は、違うと思う。ヴェネ商会の者達も「あの少女は自業自得では?」と言っていたが、それでもやっぱり私は違うと思うから。確かに、間違いを犯しているかもしれない。でも、だからって育った環境も含めて小さな少女に全てを押し付けずにいたいと私は思う。



 本物の神子かもしれない少女は、今どこで何をしているのだろうか。ヒックド様と遭遇したあと、何処に向かったのだろうか。―――それと、ヒックド様はミッガ王国の国王陛下の命令で獣人を捕まえる際に、神子かもしれない少女の親しくしていただろう獣人を殺してしまったともいっていた。



 国王陛下の命令に逆らう気のなかった、逆らえなかったヒックド様。思う事があっても動けなかったともいっていた。そんなヒックド様が私の言葉に動こうとしてくれている。



 これからどうなっていくのか分からない。

 だけれども、私は一人ではない。

 味方が少なからずいる。それだけでも私にとっては、勇気になる。



 たった一度の���生。これからどうなるか分からないけど、私は私の思う道を進もう。

 そんな決意をしていた私の耳に数日後入ってきたのは、―――フェアリートロフ王国の国王であるお父様が亡くなったという報せだった。




 ――――王女と、崩壊の兆し

 (その王女の元に、その報せが入る。国のトップの崩御の報せ。それが王国に何をもたらすのか)



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