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父親、反省せず。

 どうして、このようなことになってしまったのだろう。



 神子として大神殿に引き取られることになったアリスの父親であるはずの俺がどうしてこのような目に。それにどうして、妻が病に倒れなければならないのだろうか。



 俺は、大神殿のものたちにあの疫病神―――レルンダの存在を洗いざらい話させられた。どうして、あのような不気味な子供の存在を話させられるのか、意味が分からなかった。それに加えてそれからしばらくして俺は妻と離され、軟禁されてしまった。時々、大神殿側からの命令で、何もしゃべらずに笑った姿を民に見せるようにと言われ、それを嫌々実行している時だけが外に出れる時間だ。



 神子であるアリスの父親にこんな真似をしていいと思っているのか、と口にすれば返ってきたのは失笑だった。

 それと共に、おそらくアリスは神子なんていう存在ではなく、神子はあのレルンダだろうなどと言われる始末だ。



 あのレルンダが、神子?

 あの、不気味な子供が?



 俺は正直聞いた時に、何を馬鹿なと思った。



 あのいるだけでその場を暗くするような子供が、神子だというのが信じられなかった。しかし、アリスをその身に宿してから体調を回復させていた妻が、アリスが神子として幸せに暮らしている中で体調を崩しているというのは、確かにレルンダが神子であるのかもしれないとは思えることだった。



 レルンダが居たから、妻は幸せだった。俺達がレルンダを捨てたから、今のこの状況なのだろうか。

 そう考えると、あの時、レルンダを捨てなければよかった。捨てずに、神子の妹として神殿に引き取らせれば、レルンダは俺たちの側にいたわけで、そうすれば妻が体調を崩すこともなかっただろう。それにしても、レルンダも神子だというのならば、もっと神子とわかるような特徴があればよかったものの。そういう特徴もなく、不気味な子供でしかないのに神子であるとは……神様の好みが分からなくなる。

 そもそもどちらにせよ、俺達は神子の両親であるということは変わらないだろうに、俺達にこのような不当な扱いをする大神殿にも憤りを感じてしまう。



 それにレルンダも、レルンダだ。俺たちはレルンダのことを不気味だろうが、育ててやった。だというのにそのことを感謝もしないからこそ、妻が病気になったのだ。なんてひどい子供だろうか。



 妻の元へ顔を出す。

 そのことは監視の元許されている。病気に伏した妻の元へ顔を出すのにも大神殿の許可がいるとは、不満で仕方がない。ただ、妻は大神殿の手配したものの手によって順調に回復している。俺達が神子の両親であるから、と手配をしてもらえたそうだ。



「―――貴方」



 妻の声がする。ずっと寄り添ってきた妻の声。



 本当に、どうしてこんなことになったのだろうか。私たちは幸せになるはずだった。これから幸せな暮らしをするはずだった。アリスという愛おしい子供がいて、その子供が特別で、私たちは神子の両親として幸福な暮らしを送るはずだったのに。



 そもそも、どうしてあの不気味な子が神子などという存在だといわれているのだろうか。本当に神子なのだろうか。あの不気味な子が、本当はアリスが神子なのに何かをして神子の力を奪ったとかではないのだろうか。アリスが神子という尊き存在であるというのは納得が出来るが、あんな不気味な子供が神子であるというのはどうも納得がいかない。



 そもそもあの子供のせいで、妻がこのような辛い目にあっているのだと思うと許せない気持ちになってくる。



 大神殿側は、あの子供を必死に探しているようだ。見つかったら妻に詫びてもらわなければならない。なぜならあの子供が育ててやった恩も忘れているからこそ、妻がこのように大変な目になっているのだ。

 あの不気味な子供――レルンダのせいで、俺達はこんな目にあっているのだ。あの子が俺たちの事を不幸にするのだ。あの子のせいでこんな目にあっているのだ。



「――この男、反省が欠片もないな」

「……このようなものが神子様の父親とは」



 あの子のせいで、あの子さえちゃんとしていれば、そればかり考えていた俺の耳には、俺を監視する目的でついてきている大神殿の神官と騎士たちの言葉が耳に入ってきていなかった。どれだけ彼らが冷たい目を俺に向けているかも、俺がどういう風に彼らに思われているかも、何も俺は気にしていなかった。ただ俺はレルンダのせいでこんな目にあっているのだという思いと、病気で伏せている妻に元気になってほしいという思いでいっぱいだった。



 ――――父親、反省せず。

 (多分、神子な少女とその姉の父親は少女が神子かもしれないということを聞かされても、反省などはしていない。ただ、少女のせいでこんな目にあっているのだという思いを募らせていた。周りにどんな目で見られているかなど考えもせずに)



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