神官、国を出る。
私、イルームは神子様のいた村を後にした。神子様とアリス様のいた村はお通夜状態であった。虫害といったものがおき、神子様が居た土地は栄え、愛された土地は栄えるとされていた噂からは程遠い現状がそこにはあった。
それを見て、やはり、神子というのはアリス様の妹様であると思えた。だからこそ、私は森の中へと足を踏み入れたかったのだ。本当は。だけれど、それは反対されてしまった。侍女と女性神官と騎士が反対したというのもあって結局強行突破は出来なかった。それでです、森の中に神子様が入ったと仮定して、森の反対側を目指してみようと思いました。そうして、隙を見て森の中へ入りたいと私は思っていたのです。森の面積は広く、反対側といってもたどり着くことは難しいでしょう。しかし、目指すだけ目指してみようと思いました。
広大に広がる未開の森。
その中に神子様が足を踏み入れ、どのような生活をしていらっしゃるのか。大神殿やフェアリートロフ王国は、神子様のことを大神殿に迎え入れたいとお思いだろうけれども、私としてみればそうではない。神子様の意志が第一で、神子様という存在に私自身が寄り添っていけるのが一番なのだ。
神子様にやはり会いたい。神子様にお会いして、神子様の意志を聞きたい。そのために森の反対側に向かうことは、遠回りなのかもしれないが、ひとまず、それをメンバーに告げて、向かってみているのです。
……私は、一人で森に入りそうと、他のメンバーに思われているのでしょう。目を光らせて、皆が私の言動を見ています。正直そんな中で一人で森の中に飛び込むのは現状難しいのです。私は一人で森の中に神子様を追いかけに行く気はないということをきちんと示して、油断させた時に飛び込もうと思います。
そんなわけで、私たちは、フェアリートロフ王国の東側、川を隔ててその向こう側の、小国の連合国家を目指している。そこは、内紛が起きている状況で入るのは危険だろうが、森の反対側を目指す上でそちらの方が良いと思ったのだ。ミッガ王国側にフェアリートロフ王国の神子様が本物の神子様ではないかもしれないということが知られると厄介なことになりかねない。
それにしても…、こうして、旅をしていて私は不可解な侍女と女性神官の行動に眉を顰めてしまう。なんというか、私に接近してこようとしてくるのだ。年頃の女性であるというのにはしたない、そう思って眉を顰めてしまうが、際どい恰好をしていたりと、やめてもらいたいものだ。私が自制が利かないものであったのならば、大変な目にあってしまうというのに。
というのを、魔法剣士に告げたらなんとも言えない表情をされたが、どうしてなのだろうか。魔法剣士の女性だけ、なんというか、他のメンバーたちとは雰囲気も何もかも違う。神殿に所属しているというわけではなく、神殿に雇われているといった立場だからだろうか、私たち大神殿に所属している者とは違う思考を持っているというべきだろうか。
騎士、侍女、女性神官といった神殿に正式に所属するものたちは、神子様を大神殿に迎えなければという思いが強いようだ。……私とは、考え方が違うのでそのあたりもどのようにすべきか、と頭を悩ませている問題だ。まさか、と思うが神子様の考えを無視して神子様を連れ出そうなどと行動を起こしたりする可能性もあるのだろうか―――と最悪の場合の可能性を考えてしまう。
そんなことを考えながらも、私たちは馬車にのって、川にかかっている巨大な橋を渡った。
川の向こうまでいけば、もうフェアリートロフ王国の領土ではなくなってしまいます。女性神官は、神子様は連合国家にいるのではないか、などといっておりましたがもしそうであるのならば連合国家内の内紛になんらかの形で影響を与えると思うのです。
なので、おそらく連合国家には入っていないでしょう。どうにか、メンバーの意識を変えることが出来ないか。そして全員で森の中に入れないか。それが第一の目標ですが、難しいのならば反対側を目指しながらも、メンバーたちの目を掻い潜って森の中に一人でも飛び込みたいものです。おそらく、私が神託で見た神子様は、森の中にいるとそう思うので。
橋を渡りながら、もし私が神子様の意志を尊重するというのならば、もう大神殿には戻れないだろうと思いを馳せました。
それは、私の友人たちも家族も、全ておいていくということです。
でも———例え、この身が大神殿に戻れないということになっても、私は神子様という尊き存在のために行動を起こせる存在でありたい。神子様のために行動を起こしたい、神子様に出会えたら、神子様の側にお仕えしたいとそう私は思うのです。
―――そんな思いで、私は国を出た。
――――神官、国を出る。
(その神官は、たとえ大神殿に戻れなかったとしても神子という存在のためにその身を捧げたいと願ってる)