<< 前へ次へ >>  更新
85/347

王女と、商会

 私、ニーナエフ・フェアリーはヒックド・ミッガ様と婚約を結んだ。婚約を結んだだけという状況であるが、私はヒックド様と交流を深めていくように思えた。私とヒックド様は互いに辺境の街を行き来していた。



 神子かもしれない、少女に会った。

 そう、ヒックド様はいっていた。



 ヒックド様が嘘をついている可能性ももちろんあった。だけれど、私はヒックド様が嘘をついているようには決して見えなかった。



 神子かもしれない少女に何処で会ったのか、少しだけ聞くことが出来た。森の中で会ったといっていた。でもこういう込み入った話は、人が居る前ではできなかった。



 ――このことは、互いの国王に言うべき案件なのかもしれない。だけど、私はお父様に言うことが躊躇われるし、ヒックド様も自分の心にだけ留めているように見えた。神子であるかもしれない少女、その存在についてどうして私にだけヒックド様は告げたのだろうか。何か、期待しているのだろうか。何か、私は期待されているのだろうか。それとも、ただ誰かに告げたかっただけなのだろうか。

 神子。神子が本物ではないとして。



 その先で私たちの国はどうなるのだろうか。フェアリートロフ王国は、無事ではすまないだろう。国民たちが神子が神子ではないとしれば黙ってないだろうし、神子を詐称したとして大変なことになるだろう。ミッガ王国も、フェアリートロフ王国の影響でどのようになるのか、正直わからない。



 ……正直、現状、そのヒックド様が遭遇した少女が本物だとして、私にはその少女を探すすべはない。私にはそれが出来ない。ならば、どうするか。どのようにすべきか。




 まず、第一に私が考えていることは、神子として保護されているアリス様が、もし偽物と分かった時に何かしら動ける力をつけること。今、少しずつ辺境の地で味方を増やしていっているが、もしこの国に何か起こった時に動けるだけの力はない。

 できれば、大神殿に信頼の出来る伝手でもできれば別なのだけれども、今の所難しい話だ。



 そしてヒックド様との交流をもっと深めていくこと。ヒックド様の下には、騎士がつけられているとは聞いているし、ヒックド様の側仕えは心からヒックド様を慕っているように見えた。だけどヒックド様はそのものをあまり顧みてないように見えた。どうして、ヒックド様はあれだけ憂いを帯びた目を浮かべているのだろうか。本人も魔法が使え、才能があるというのに。



 どうして、全てをあきらめたような目をいつだって浮かべているのだろうか。ヒックド様と本当の意味で協力をすることが出来たら、もう少しフェアリートロフ王国が最悪の場合崩壊した時に動きやすくなるように思えるのだが。もっとヒックド様に踏み込むことが出来るようになれば、なぜそうなのか知ることが出来るのだろうか。





 ―――そのように、沢山のことを思考する中で、私のもとに一人の商人がやってきた。







 ヴェネ商会と呼ばれる国内外で強い力を持つ商会の手のものだった。どうしてそのようなものが、私の元に来るのか、最初はさっぱり分からなかった。



 その商人はにっこりと笑っていった。



「―――我が商会の主は、元々神子様の家庭教師をしていたランドーノ・ストッファー様と旧知の仲なのです。その女史が追放を言い渡された時点で、この国に見切りをつけております。しかし、このフェアリートロフ王国が完全に崩壊した場合の損害を考えると我が商会の方にも大きな影響が出てしまいます。ですので、そうならないためにこちらとしては動こうとしております」




 ランドーノ・ストッファー、その神子として保護されているアリス様の家庭教師をしていた女性。その女史は何処に行ったか、今は分からない。国から姿を消しているとは風の噂で聞いた。神子のお披露目は済んでいるものの、大々的に行動は起こしていない。この国はもう駄目かもしれないと思っているのは、私だけではない。その事実に少しだけ心が軽くなった。

 この国は、というよりも、人々は神子という存在を妄信している。神子さえいればこの国は安泰で、崩壊のような事態にはならないと、そう信じ切っている。



 だからこそ、神子という存在を保護出来ているというのにそんなことになるはずがないと思い込んでいる。




「それで、どうして、私の元へ来たのですか」

「情報収集をした結果、王女殿下の行動が気にかかったのです。王女殿下様は、現実をきちんと見えていらっしゃる。他の王族の方なら、私の発言に逆上することでしょう。それをしない時点で、王女殿下はこの国の現状を正しく理解しているのがわかります。貴方様は、継承権は低いとはいえ王族ですから。これからのことを考えると、貴方様と協力関係にありたいと我が主はお望みです」

「協力関係……?」

「はい。私たちは貴方様のことを利用します。ですから、貴方様も私たちを利用する。そういう関係をお望みなのです」

「―――利用する、ですか」

「ええ。利用し、利用される関係です」



 にっこりと笑ってそういったその女性の言葉に、私は口を開いた。



 ―――王女と、商会

 (王女は王子の言葉を聞いた。王子のことを知りたいという気持ち、そしてこれから自分がどう動くべきか考え続ける中でとある商会が接触をする)



<< 前へ次へ >>目次  更新