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少女、告げる。

「私は―――神子かも、しれない」



 私は震える声でそう発した。

 私は、神子かもしれない。そのことは感じていたこと。だけど、私は神子であるかどうか正確には分からない。どうやって証明できるかも分からない。



 だけど、私は――神子なのかもしれない。



 神子なのかもしれない、という言葉に息を呑む皆。中には、特に驚いていない人もいるけれど、そうかもしれないと思っていたということなのだろうか。



 ニルシさんたちは―――どう思っているのだろうか。ニルシさんたちの猫の獣人の村は、神子が現れたことが原因で、村が襲われたのだ。私が現れたからとも言えるのだ。



 だけど、ニルシさんは、「そうだろうとは……少し思ってた」と言ってた。



「そうなの?」

「ああ。グリフォン達やスカイフォースと契約を結んでいるのもそうだし、俺達が来る以前に回復魔法で大怪我を治したのも聞いてたし……何より先ほどの戦いの中で、明らかに普通の人間じゃないことしてるしな」

「……私、神子かもしれないなら……ニルシさんたちの村がああなったの、私のせいかも」

「……それはそうかもしれないが、レルンダのせいではないだろう。レルンダが神子かもしれないとしても、神子かもしれないレルンダのせいであるというより、それによって影響された人間のせいだしな。それに俺自身も、レルンダの事を仲間だと思ってる。仲間をそんな風には責めない」



 ニルシさんは、そういってくれた。



 私はずっと怖かった。私が神子かもしれない、というその事実を知られたらどうなってしまうのだろうかと。ずっと怖かった。ランさんは、私が神子だったとしても、皆受け入れてくれるっていってた。でも本当に大丈夫なのか。私が神子かもしれない事実で、何か変わってしまうのかもしれないって思ってた。

 でもニルシさんは笑みを零してくれている。その後ろにいる猫の獣人たちだって一人も私のことを嫌うような仕草は見せていない。




「レルンダが、神子かもしれないというのは……確かに伝え聞く神子という存在であるのならば精霊樹様に干渉が出来るのも納得できるが……」

「人間の国に、神子が保護されてる。それ、私の姉。私、その後捨てられた。でも、私不思議なこと昔からあったから。私は多分、危害を直接的に加えられること、ない。食べ物もらえなかった時も……不思議に死ななかった。人間達と、向き合った時も……魔法避けた」



 シレーバさんの言葉に私はいう。

 シレーバさんは、森の奥深くに住んでいたのもあってフェアリートロフ王国のことも、ミッガ王国のこともよくわかってないのだろう。エルフの村は人間たちとあまりかかわっていないように見えた。



「私、神子かもしれない。それ気づいてた。でも、黙ってた。ごめん、なさい。私、人間だし、神子かもだし……、でも、私皆大好き。皆とずっと、一緒がいい」




 謝罪をする。

 私は私が神子かもしれないこと、ずっと思ってた。もしかしたら神子なのかもしれないって。でもその事実を黙ってた。



「当然だろ」

「レルンダが神子かもしれないだろうと、大切な子だもの」




 そう、声が上がる。

 うつむいてた顔をあげれば、優しい表情が映る。私の大好きな、皆の優しい笑み。その笑みを見ていると嬉しくて、ほっとして、涙が零れる。



 いいんだ、私。神子かもしれなかったとしても私は皆と一緒にいれるんだ。皆そのままでいてくれるんだ。生まれ育った村で不気味だといわれていた私をこうして受け入れてくれるんだ。



「レルンダっ?」

「な、なかないで!!」



 慌てて皆が心配そうに近づいてきて、その態度にもまた嬉しくなった。皆、私のこと大切に思ってくれてる。その事実がどうしようもないほど嬉しかった。




「安心して、泣いた。ごめん。私、皆と一緒」



 そういって私は流れてしまった涙をぬぐう。

 ようやく言えたことにほっとした。



「レルンダ、神子かもしれないんだ。でもそうか、確かに精霊樹と相性がいいっていうのも神子っぽいね」

「……フレネ様は、精霊様であるが、神子という存在については詳しくないのか?」

「うん。私生まれたばかりの精霊だし、そういう存在が世の中にいるんだってことは知っているけど実際には知らないよ」



 フレネのつぶやきにエルフの人が問いかければ、そう答えた。



「もっと長生きしている者とかなら知ってるかもだけど……」




 そうもフレネはいっていた。





 それから私が神子であるかもしれない、ということを告げて驚きながら受け入れてくれた皆とこれからどうするか話し合った。







 精霊樹は別の場所に植える方が良いだろうという話だったし、別の場所に移動しなければならない。

 そして私が神子かもしれない、という事実がある限り人間の国には近づかない方がいいだろう。人間の国の近くだと皆が奴隷にされてしまう可能性もあるし。




 となると、どちらに向かうべきか。この広大な森の先には何があるのだろうか。まだ森が続いている? それとも他の人間の国でもあるのだろうか? 正直全然分からない。かろうじてランさんがこの先にいくともしかしたらあの国に繋がっているかもしれない、といった情報をいっていたぐらいで、その場ではすぐにどうするかといったことは何も決まらなかった。



 魔物を退治して、神子であるかもしれないことを告げて、そんな色々なことがあったのもあってひとまずその日はエルフの村に戻って休むことになった。また明日から、この後どうしていくかを皆で話し合いをしなければ、そう思いながら私はランさんとレマと一緒に眠りについた。



 ――――少女、告げる。

 (多分、神子な少女はようやく全員にもしかしたらの可能性を告げることが出来たのだった)




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