少女と、精霊樹 2
精霊樹の幹に手を触れる。何だか少しだけ温かい。上を見上げる。所々に感じる光、それが全て精霊なのだろうか。フレネは、私が魔力を込めることでこの子達を救うことが出来るといった。本当に出来るのだろうか、という不安はある。だけど、私は救いたい。
だから、私は魔力を込めた。
あの魔物との戦闘のあとで、魔力が回復しているとはいえないけれど、でも私にしか出来ないことだから。
魔力が、どっと私の体から抜けていく。
抜けた瞬間に、精霊樹が光った。大きな光を発したと同時に私が手で触れていた部分の感覚がなくなった。えっと思うと同時に、私は魔力がほぼなくなったからかおもわずそのまま倒れそうになってしまった。
「――レルンダ!」
そんな私のことを支えてくれたのは、ガイアスだった。
ガイアスに支えられながら、私は目の前を見る。目の前には、精霊樹がない。ただ、何かキラキラしたものがいくつか落ちてきていた。それに手を伸ばす。それは、小さな樹の苗木だった。いくつか葉っぱのついたもの。それは、よく見たらすごく光ってる。私が取りきれなかった残りの二つのものは、レイマーとリルハが回収してくれていた。巨大な精霊樹が、小さな苗木になった? 正直よくわからないままだ。力が入らないまま、私はフレネの方を見る。
フレネに私が声をかけようとした時、
「まさか、本当に……」
「精霊樹の宿り木が生まれる瞬間をこうして見れるとは……」
そんな風にエルフの人たちが感動したような声をあげているのが聞こえた。
この、手の中にある苗木が、精霊樹の宿り木と呼ばれるものなのだろうか。これがあればどうにかできるといっていたものが、三つも今ある。精霊や精霊樹に対する知識があまりにも少なくて、正直どういうことなのかよくわからない。
「フレネ、どういうこと」
「精霊樹は、自身を次につなげるために精霊樹の宿り木と呼ばれる状態になって受け継がれていく。精霊樹はずっとこの場にあったわけではないの。精霊樹がこの場にいたのは、このエルフたちの祖先がここに宿り木を植えたから。そして長い時を経てあれだけの大きさになった。この精霊樹にもっと力があったならば、あの魔物がいなければ、精霊樹の宿り木を生み出してエルフたちは移動するだけで良かった」
精霊樹は、受け継がれていく。その精霊樹が駄目になっても精霊樹の宿り木があれば移動が出来るということだろうか。この場に精霊樹の宿り木を植えたといっているのだからそういうことなのだろう。
「精霊樹に力があれば自分の力で宿り木を生み出すことが出来た。あの魔物がいなかったらこの精霊樹は宿り木を生み出すだけの力はきっとあったの。―――そしてエルフの村が宿り木を失っていたからこそ、これだけややこしくなっていたの。その宿り木があれば、この精霊樹に宿っている精霊たちは消滅することがないの。レルンダ、ありがとう。精霊たちを救ってくれて」
「……うん。あの、この宿り木、どうするの?」
「どこかに植えるの。この場は、やめた方がいいわ。あの魔物によってここの魔力はもうおかしくなっているもの。精霊樹とも相性が悪いし、もっと精霊樹が育ちやすい環境がいいと思うわ」
私とフレネがそんな会話を交わしている間にもエルフの近くで感じられた精霊たちが宿り木の中へとすーっと入って行ったのが分かった。
「あの、精霊たちは……」
「この中で休んでいるよ。今、精霊樹の宿り木に入って行った精霊たちはしばらく休んで出てこないはず。それ以外の精霊樹の中で育っていた精霊達もまだ成長しきってないからしばらくは出てこないと思うわ。でも、レルンダとの相性がいいから少しでも魔力を与えてあげるとそれが早まるかもね」
フレネは私に向かってそんな説明をする。宿り木に今宿っている精霊たちはしばらく出てこれないのだという。精霊たちがお休みをする時期だってシレーバさんもいっていた。ということは、全ての精霊が今休んでいるってこと? と思って聞いてみたら、フレネはこのエルフの村が契約している精霊が同じ時期に生まれた精霊達だったのだといっていた。だから同じ時期にお休みだったんだって。
「……そうなんだ。じゃあしばらくシレーバさんたち……契約精霊に会えないの」
そう思うと何だか、悲しくなった。折角魔物も倒せて、精霊樹も折角どうにかなったのに。契約している精霊としばらく会えないなんてと。だけど、私の顔を見てシレーバさんが言う。
「そのような顔をするな。我らは……精霊様と精霊樹様を救えたことだけでも十分だ。それどころか、レルンダに……感謝している。他の、獣人の者―――ドング達にも、この場に協力してくれたすべてに我らは感謝する」
シレーバさんがそう口にして、頭を下げる。深々と下げられている。そしてしばらくして顔を上げていう。
「―――我らはレルンダ達をあの魔物の生贄にするつもりだった。そして、我らは生き延びるつもりだった。精霊様たちを守るという名目で。でも、あの魔物は精霊樹の魔力を奪っていた。どちらにせよ、あのままレルンダ達を生贄にしたとしても我らにあったのは滅びだっただろう。それが滅びの道から逃れる事が出来たのは、紛れもなくレルンダのおかげだろう。レルンダの言葉があったから、我は考えた。そしてこういう場が整った。それにレルンダのおかげで精霊樹様をお助けすることが出来た」
私に対して、そんな言葉を投げかけられて嬉しかった。私は役に立てたんだ、それを思うと頑張ってよかったって思えた。
でもシレーバさんの次の言葉には、一瞬言葉が詰まった。
「―――ただ、レルンダ。貴方は……普通ではないだろう。風の精霊と契約をして、あれだけの神聖魔法を行使して……。貴方は、何者だ?」
シレーバさんがいった。
他の皆の目も私に向いている。
ガイアスと、ランさんと、ドングさん。私を神子かもしれない、存在だって知っている人はそれだけ。私は、魔物退治の中で益々自分が神子かもしれない、ということを思った。
それは本当かもしれないし、違うかもしれないこと。
「私は―――」
私は口を開いた。
―――――少女と、精霊樹 2
(多分、神子な少女は精霊樹に魔力を込める。そして宿り木を手にした)