少女と、獣人 1
「ただいまー」
「ぐるぅ(おかえり!)」
「ぐるぐるぅ?(誰、それ?)」
グリフォンの巣の中へ戻ってきた私を迎えたのは、レマとルマである。
私はシーフォから飛び降りて、ただいまのもふもふを二匹にする。グリフォンたちのもふもふがあまりにも気持ち良すぎて、私はよく撫でまわしている。だって気持ち良い。
「ぐるぐるぅ(帰ったのね)」
「うん、ただいま、ワノン」
子グリフォン二匹を抱きしめたり、なでまわしたり忙しい私はワノンに声をかけられて、そう答える。
子グリフォンたちの面倒は、大人グリフォンのうちの一匹が子守という形で残って、面倒を見ている。今日はワノンが担当なの。ちなみに残り二匹の子グリフォンは眠っている。
大きな体のワノンに抱きつく。茶色の毛はふさふさである。私がブラッシングを頑張った結果なのだ。
「ぐるぅ、ぐるぐるぅ?(ところで、そこで固まっているのは?)」
ワノンにそういわれて、ワノンの視線の先を見れば、まだシーフォの上から降りていないガイアスがそれはもうぽかんとした顔をしていた。
何だかそのぽかんとした顔は可愛い、と思ってしまった。
「……忘れてた」
ただいまと皆と戯れていたら、連れてきたことをすっかり忘れてしまっていた。
「ガイアス……、降りたら?」
「あ、ああ」
「どうしたの……?」
ガイアスはシーフォの上から降りる。
戸惑ったままの表情を浮かべている。
「……なんで、グリフォン様の巣にレルンダが?」
「私……ここ、家」
「家?」
「ん。捨てられたあと……、ここで暮らしている」
そういったらそれはもう驚いた顔をガイアスは浮かべた。
それにしても”グリフォン様”か、と思ってしまう。獣人たちに神様として慕われるなんて、皆すごいなぁ。
「……そう、なのか」
「そう。皆、私の家族」
私にとっての家族は、血のつながった家族ではない。
私にとっての家族は、短い間しかまだ一緒に居ないけどグリフォンたちやシーフォだと思う。
こんなに温かく、ただいまと言える場所を私はここに来るまで持っていなかった。両親や姉は物心ついた時には、私を家族としてなど見ていなかった。
ただいま、といっておかえりと迎えてくれる温かい場所が私にはなかった。
こんなにやさしくて、穏やかに過ごせる場所が私にはなかった。
ないのが、当たり前だった。
当たり前だったから、そういうものだと思っていたけど。
皆と出会って、そういう場所が出来て、皆が私の家族だと思えた。
「ぐる、ぐるぐるぐる!(レルンダは僕の妹みたいなもの!)」
「ぐる? ぐるぐる?(え? 姉じゃないの?)」
「ぐる、ぐるぐるぐる(妹、そうとしか思えないけど)」
「ぐるぐるぐるぅうぐる(私とレマのお姉ちゃんだと思う)」
「ぐる、ぐるぐるぐるぅう(まぁ、どっちでもいい)」
「ぐる! ぐるぐぅうう(うん! どっちにしろ家族だもんね)」
レマとルマの兄妹がとても可愛い会話をしていた。可愛い。私も姉でも妹でもどっちでもいいよ。どっちでも、家族なことには変わらないんだもの。
「……ガイアスのお父さんのこと、聞いてみるね」
笑みを零した私をぽかんとした目で見ているガイアスに私はそういって、ワノンに問いかける。
「ワノン、この子、ガイアス」
「ぐるぐるぐる(獣人の子ね)」
「うん。お父さんと、はぐれちゃったんだって」
「ぐるぐるる、ぐるぐるぐるぅ?(それは大変。親は届けにきている獣人?)」
「うん。そうみたい」
「ぐるぐるぐるる?(それなら祭壇にいるんじゃない?)」
「祭壇って?」
「ぐるぐるぐるるるる(なんか獣人が作った場所。色々くれる)」
ふむふむ。
獣人たちは、貢物を祭壇において、それをグリフォンたちが取りにいっている形なのかな。
それにしても祭壇とかあるんだ。全然知らなかった。
「ぐるぐるぐるぅ(物おいたあともうろうろしてる)」
「ガイアスを探しているってこと?」
「ぐるぐるぐる(多分そうじゃない?)」
「こっちに呼べたりする?」
「ぐるぐるぐるぐるぅぐるるるる(そんなに多くないしレイマーたちに連れてきてもらえばいい)」
ワノンはそういうと、甲高い声で鳴き声を上げる。この鳴き声は、皆を呼ぶ時の合図だ。
というか、こんな結構声だしているのにぐっすりなルミハとユインはどれだけ眠たいのだろうか。ちらっとぐっすり眠っている二匹を見ながら思った。
その後、「ぐるぅ?(どうした?)」とやってきた皆に説明をして、ガイアスの身内の人たちを連れてきてもらうことにした。
私がワノンと会話を交わしたりしている間に終始固まっていたガイアスに、「連れてきてくれる」と説明した。でもまだ固まったままだった。
その隙に耳と尻尾触っちゃ駄目かな。触っても気づかれないんじゃ……と獲物を狙うような目で私が見てしまっていたのだろう。シーフォに「ひひひひん(駄目だよ)」と注意されてしまった。
それからしばらくして皆がガイアスの身内たちを連れてきてくれた。ただし、爪でひっかけて連れてくるという乱暴な方法だった。私は皆に乗せてもらう時背中にちゃんと乗せてもらっていたからそういう風に連れてきてくれるかと思うけど、そんな方法で連れてきたのにびっくりした。
獣人たちは青ざめていた。青ざめた顔のまま、巣の中に落とされていた。
―――少女と、獣人1
(多分、神子な少女は皆に頼んで獣人たちを連れてきてもらう)