猫は、諦めない。
「きびきびと動け!」
声がする。人間の声。俺たちに向かって投げかけられる声。俺たちのことを”人”とは決して認めない態度。
俺たちは、獣人の村で日常を謳歌していた。森の中での、生活が俺にとっては楽しかった。だけど。そんな日々は、突然終わってしまった。人間の手によって終わらされてしまった。
人間は俺達の村を襲った。
逆らう仲間が死んだ。殺された。
俺はまだ猫の獣人の中では成人間近の子供で、目の前で誰かが殺されることを見た事がなかった。だからこそ、ショックだった。
そして残った俺たちは捕まった。
奴隷、という存在に落とされた。逆らえないように首輪をつけられ、今俺は肉体労働をさせられている。母さんや姉さんたち、女の獣人たちは別の場所に連れられていってしまった。
何処で、何されているのだろう。
この環境から逃れることを、周りの皆は期待していないようだ。このまま奴隷としての一生を終えるのだとつぶやいていた。
奴隷として捉えられているのは俺達猫の獣人だけではなかった。他の獣人もいたし、エルフなども少なからずいるようだった。俺たちはまとまって行動をしてよからぬことを企まぬようにと、少数で分断されている。
俺もここにきてからそんなに多くの同じ村の猫の獣人には会えていない。時々会う奴隷に落とされた獣人たち、皆未来に希望を持てていないような目をしている。あきらめている様子が見てとれる。そういう諦めている人を、俺よりもずっと年上の存在を見ると、他の皆がもうこの状況から抜け出せないのではないかと思うのも当然なのかもしれない。
だけど……、俺はこのまま終わりたくないと思う。
このまま、終わらせたくもないとも思う。
この環境から抜け出せる可能性は低いかもしれない、だけど、諦めたらそこで可能性は閉じてしまうと思うから。
奴隷から脱出する。
そして村の皆を助ける。
……そういえば、人間たちが逃がしたともいっていたから、村の住人のうち何人かは奴隷に落ちずに済んだのだろう。もしかしたら逃げられた面子の中で、俺達を助けにこようとする人もいるかもしれない。だけど、そうしないでほしいと思う。
逃げたいという思いは確かだし、助けてくれるなら助けてほしいと思うけれども、少数の獣人で俺達を連れ出そうとしても捕まって終わるだけだ。逃げたことが無駄になってしまうから、本当に助け出せる環境ではないのならば逃げて奴隷としてではなく、生きてほしいと思う。
それにしても、村に居た頃、人間に会ったことがなかった俺は周りから人間についての話を聞いてもあんまり実感が湧いてなかった。だけど、人間は確かに周りの大人がいっていたように俺たちのことを人として見てなくて、奴隷とすることを良しとしているのだ。
でも、全ての人間がそうであるとは思えない。だって俺は人間の奴隷だって見た。同じ種族を奴隷とする神経が正直わからないが、人間の中でも色々区別がつけられているように見えた。人間は他の種族よりも人数が多かったり、集落が大きかったりするという話だから、それも関係があるのだろうか。人数が多くなればそれだけ、様々な争いが起こるだろうから。
それにしても、この場から逃げ出すためにはどうするべきなのだろうか。この環境から抜け出す方法を考える。
正当な方法は、人間の中でも偉そうな奴―――お金とかいうのを沢山持っているという貴族とかに気に入られることなのだろう。ただ、この俺達を奴隷にした国は、人間以外の種族は奴隷にして当然という考え方がはびこっているとも俺よりずっと前から奴隷をしている人がいっていた。奴隷から解放されても、見つかればまた奴隷になる、ではどうしようもない。ただ貴族に気に入られ続けて、お金とかも稼げたら、他の皆も助けられるかもしれない。それか、何かが起こって奴隷から解放され、逃げ出すことが出来るか。後者はよっぽどの出来事が起こらなきゃ無理。
でも、正直俺がその人間の偉い奴に気に入られるぐらいの存在になれるかどうか、というと難しい。しかし、俺は諦めない。あきらめが悪いことだけが俺の取り柄だって母さんと姉さんに言われるぐらいなんだから、諦めない。
この環境から抜け出すために、ひたすら今は従順な態度を示そう。機会を見つけたら、その機会を逃さないように目を光らせよう。そして、何時かは、この奴隷から抜け出すのだ! その頃に、どれだけ、仲間を助け出せるかも分からないけど、でも、俺は諦めるなんてしたくはないのだから。
俺は、奴隷の生活の場で一人そんな決意をするのだった。周りにその思いを共有できるものはいない。だけど、一人でも、俺は諦めない。
――――猫は、諦めない。
(そのとらえられている猫の獣人は、奴隷という立場から抜け出すことを決意する。周りが幾ら無理だと告げても、その猫は諦めない)