少女と、魔物退治 1
いよいよ、魔物退治に向かう。
魔物、という存在と向き合うことに対して怖い気持ち、そしてやり遂げなければという気持ち……沢山の感情が、私の心の中を踊ってる。
私は、ガイアスやイルケサイたち、同じ子供たちと一緒に歩く。
私たちは、後方支援をすることを第一として考えている。直接的にその魔物と戦うには、私たちは力を持たないから。そのことを、魔物といざ、戦うということでより一層実感してしまう。
子グリフォンたちも、私たちと一緒に後方支援をすることになっている。
植物の魔物、恐ろしい魔物、エルフに生贄を求めている魔物。
その魔物と、これから対峙する。
怖い、と感じている。
ぎゅっと、思わず隣にいたガイアスの手を握ってしまった。ガイアスも、私の手をぎゅっと握った。ガイアスも、不安なんだと思う。
他の子供達の手も握る。だって、不安そうだったから。私も不安で、皆、不安で。不安だけど、ただ見ているだけなんて嫌だから。そんな思いで、私たちは一緒に戦いたいと、此処にいる。
ぎゅっと、握って、頑張ろうと、決意する。
エルフの集落から、歩くこと二時間ほどの場所。
まず、真っ先に視界に映ったのは、巨大な樹だ。少しだけ、光っているように見える。距離が離れているはずなのに、その樹の存在感は凄いものだった。幻想的な光景が広がっている。その光景に、私は息を呑んで、もっと、もっと近づいていきたいと思う。だけど、その足は止められる。
「それ以上、近づくのはやめよ」
シレーバさんが、私に言った。私は、足を止める。
そうだ、精霊樹の元には、魔物が居るんだった。近づきたい、と思っても近づいてはいけないんだった。
魔物は……、エルフの人たちのことを苦しめていて、生贄を要求している魔物は何処にいるのだろうか。不安になりながら、私はその場所からあたりを見渡す。どこに、その魔物が居るのか、正直わからない。
植物の魔物。
此処は森の中だから、植物は沢山存在している。
シレーバさんが言う。
「あそこにいるのが、例の魔物だ」
シレーバさんの、忌々しそうな声が聞こえる。シレーバさんが指さしたのは、精霊樹の、麓。まるで精霊樹と一体化しているのではないかというほどに、近い位置に存在している大きな茎。……精霊樹よりは小さい。だけど、一般的な植物と比べると太い。茎の先には、花が咲いている。大きな、大きな赤い花。それは下を向いている。地面に突っ伏すようにいる、それは―――――、まるで人が顔をあげるかのように上を向いた。
赤い花弁の中心部は、青い。その青い部分が開く。口、なのだろうか。その中心部の全てが。
ぱくぱくと開く、その口。
その口で、エルフの人たちを、食べたのだろうか。想像しただけで怖くなった。ぶるっと体が、少しだけ震える。
「――――まだ、こちらには気づいていないようだな」
シレーバさんは、ほっとしたように息を吐いた。
巨大な植物。離れた場所から見ても、これだけ大きいのだ。どれだけ、実際大きいんだろうか。
「……我らは精霊樹の名のもとに、あの魔物を倒す。失敗は許されない。失敗をしたら、死すだけだ」
シレーバさんは、エルフの人たちを見渡しながら言った。
「―――我らは、このまま生贄とされ続けるわけにはいかない。我らの力では勝てない。そのことは不本意だが、我らは彼らの力を借りて、アレを倒す。アレを倒さなければ、我らの未来は開かない。……レルンダよ」
エルフの人たちに向かっていったかと思えば、私の方をシレーバさんは向いた。
「……レルンダ、貴様は我らのきっかけとなった。そのことは、感謝する。我らは勝てないと、諦めて戦うことさえもしていなかった。貴様は、出来るといった。その言葉を、我も信じる。精霊様も、貴様の意見に賛同していたようだしな」
シレーバさんはそういって、そっぽを向いた。
「では、行くぞ。準備はいいか、獣人よ」
「……構わない。いい加減名前で呼んでほしいのだが」
「……これで勝てたら、呼んでやろう」
それが、合図。
それが、始まりの声。
視界に映る魔物に一番ダメージを与えることが出来るタイミングを見計らっている。魔物は、また、突っ伏した。顔をあげない。
その魔物に、皆が向かっていく。
グリフォンたちや、シーフォたち。
エルフの人たち。
獣人の皆。
皆が―――向かっていく。
私の側には、ワノン、子グリフォンたちとガイアス含む子供たち―――、それに、数人の後方支援のために残ったエルフや獣人たち。
私は、私が出来ることを、何でもやろう。
何が出来るのかも分からないけど、だけど―――、私は出来ることは何でもやる。何でもやって、皆のために、頑張るんだ。
そう願った、私の前で、その魔物は―――現実をたたきつけた。
―――――少女と、魔物退治 1
(多分、神子な少女は魔物退治に向かった。少女の目の前に映るのは、巨大な魔物。その魔物は、少女の視界に現実をたたきつけていく)