少女と、魔物退治に向けてのこと 5
魔物退治は、準備を念入りにして、準備が完了してから行われることになった。その間に、できうる限りの準備をしていかなければならない。―――負けることは、皆を失うことに繋がってしまうかもしれない。ううん、おそらく、そうなってしまう。
……私が、神子であるかもしれない、というのをドングさんに告げても、ドングさんは驚きはしていたけれど、ドングさんは納得したような仕草をしていた。私が神子であるかもしれない、のならば色々と納得が出来るのだと。
神子、というのは、全てが上手くいくというように言われているけれど人の生であるのならば本当にそんな風には進まないと。
そして、アトスさんが亡くなったことに関しても、「……一人だけの犠牲で済んだのはある意味奇跡だ。正直もっと、犠牲が出るのではないかと考えていた。それが、他の者は無事でいられたのだ。それを考えれば、レルンダのせいなどと思うわけはない」って言っていた。……そんな考え方、出来るんだって思った。もしかしたら、皆が———、全員が……。そう考えると、ぶるっと体が震えそうになった。
ドングさんは、私が神子かもしれない、と聞いても態度を変えなかった。魔物退治で危険な位置に行くようにとかも言わなかった。私は、皆のためになれるなら、そういう場所に居たってかまわないのに。でもそういったら、そんなことはしなくていいんだって言われてしまった。
―――まだ、子供なんだから。
そう、言われた。
私は子供で。大事な皆に、任されるような強さを私は持っていない。そんな強さがあったならば、私は今度行われる魔物退治でも、もっと役に立てたのではないかと思った。
とりあえず、魔物退治までの間に、魔法がもっと使えるようになりたいからってエルフの人たちに魔法を習った。シレーバさんたちが得意とする土の魔法は私は習ったけど上手くできなかった。もっと魔法を使えるようになりたいな。―――魔物退治、何とかできたら、ううん、皆でなんとかする。なんとかしたら、次のためにも魔法を学ばなければならない。もっと戦える力をつけたい。そうしたら、皆のために私が頑張れるはずだから。
ひとまず、魔物退治までに魔法をもっと上達させるのは難しい。私は中途半端だ。神子だったとしても、それがどういう力を持っているかわかってもいないのだ。
子供だからって、言う。ランさんも焦らなくていいって、少しずつ知っていけばいいのだっていうけど、私は――やっぱり、もっと、もっとって思ってしまう。焦ったら駄目だってわかっていても、そう思うのは私自身が無力な気分にいつだってなるからだろうか。
「……ガイアス、頑張ろう」
「ああ」
「死ぬ、とかならないようにしたい」
誰ひとり、死なないでほしい。誰ひとり、失いたくない。アトスさんを失ってしまった痛みが、私たちの胸にずっと残っている。大切な人を失うことを、二度としたくない。
そう、思ったから――私とガイアスは誓った。
皆が笑える場所を作りたい。その夢物語のような理想を叶えるためにも、叶えたいからこそ、誰も失いたくない。
私とガイアスが、一緒に誓った時、まだエルフの人たちにもであってなかったけれど、私は、”皆”の中に、エルフの人たちだって入れたい、というより入れて考えている。
私だけとか、私とガイアスだけとか、そうじゃないんだ。皆で、笑える場所を作りたいんだ。だから、その中の皆が、誰ひとりかけてほしくない。それは、難しいかもしれないし、理想でしかないかもしれない。そしてその誰ひとりかけたくないという目標を叶えたいけれど、私もガイアスも、まだそんな力を手にしていない。
「……誰かが死ぬの、嫌だよな」
「うん……。だから、誰も死ななきゃいいな」
死なせない、って言える強さを手に入れるのが一番なんだと思う。だけど、そんな強さを私は持っていないから、死なせない、なんて言えない。ぎゅっと拳を握る。
魔物と戦う事。
それを考えるだけで、体が震えそうになる。
私は、グリフォンたちやシーフォと一緒に過ごしていて、魔物という存在自体には慣れている。でも、敵対している魔物とは会ったことがないから。
「ガイアスは……狩りはしてるもんね」
「ああ。でも、知能のある魔物とかと戦うことは初めてだし、エルフの人たちが勝てない魔物って怖いけど……」
「うん……」
「でも、勝たなきゃいけない。勝たなかったら、夢をかなえるどころではなくなるから」
「うん……」
叶えたいから。皆で、笑いあえる場所を作りたいから。そのためには、皆が居なきゃいけないから。
力が足りないから、後ろからお手伝いしか出来ないけれど、それでも一緒に戦えるから。戦って、負けるでは意味がない。勝たなきゃ、いけない。
二人で並んで話しながら、勝とうという気持ちを奮い立たせた。
――――そして魔物退治の日を、迎える。
―――――少女と、魔物退治に向けてのこと 5
(多分、神子な少女は自分の無力さを嘆く。そして、誓いの”皆”は獣人も、エルフも含めたものだと考える。そして魔物退治の日は、もう、そこにある)