神官、旅が始まる。
私イルームは、本物の神子様を探すための旅に出ることになった。私は神託の中で、神子様の姿を見ることが出来た。とはいえ、私はそれ以外のことを特別知っているわけではない。神子様であろう、アリス様の妹様である少女にどうにか会わなければならない。そのために私はどのようにまず動くべきだろうか。
神に愛されている子供、とされている方が簡単に亡くなったりはしない。そうは、思っている。そうであるはずだと。だが———……神子様が無事だからと安心しきっていいわけではない。神子様に早く会わなければ。私は神子様のために、行動を起こしたい。他でもない誰のためでもなく、神子様のために。
―――神子様を探すための旅に出ることになった私だが、一人で、というわけではない。神子様を探すために、とはいえ、本物の神子様が実は大神殿にいないというのを公にするわけにもいかない。それもあって大々的に神子様を探しにいく部隊を編制するわけにもいかないため、少数で、である。
私を含めて、神子様を探すために編成されたメンバーは、五人ほどである。これだけの少ない数で大丈夫なのかという不安があるが、それでもなしとげなければならない。神子様には、会わなければならない。いえ、私は神子様にお会いしたい。
神殿の騎士、女性神官、侍女、そして神殿が雇っているという魔法剣士だった。
……女性の数が三人。そして私と騎士だけが、男性である。どうして危険かもしれない旅に、何が起こるか分からない、どこにいくかも分からない旅に連れて行くのか、それに対しての疑問は尽きない。危険な旅には女性よりも、男性を連れていくほうがまだ安全な気がするのだが……、しかし、ジント様や大神殿はこのメンバーで問題がないといっていた。
真に、神子様という存在のことを思うのならば、神子様の意志を第一に考えることが一番なのだが、この共に神子様を探しに出かけるメンバーに関してはどういう意思が働いているか分からない。神子様とされる少女に私が一番先に接触し、一番先にその意思を確認できるようにしたいと思った。先に私が接触さえできれば、神子様の意志が大神殿に来ることでなければ、そのまま見ないふりをすることだって出来る。……神子様に会うまでに考えなければならない。
私が、神子様の意志を尊重したい、としても、この者たちが神子様の意志を無視して大神殿に連れていこうとする可能性だってあるのだから。
「まずは、どうなさいますか。イルーム様」
侍女として付き従うことになったまだ若い女性が私のことを見上げて問いかけてきた。連れていくことになった女性陣は、驚くことに年若く、見目が麗しいものばかりだ。それを基準に選んだのではないかと思ってしまうぐらいだ。流石にそんなことはないと思っているが……しかし、そうではないかと疑ってしまいそうなほどだ。
……隣国であるミッガ王国に神子様が行かれたという可能性もあるのだが、その可能性は少ないだろうとジント様はいっていた。私も、そう思っている。もし、神子様がミッガ王国に入ったのならば、ミッガ王国はフェアリートロフ王国の大神殿に対して、偽りの神子を掲げるとはと批判したことだろう。
それが、ないということは———……、ミッガ王国には神子様は訪れていない。もしかしたら、神子様がミッガ王国にいながら気づかないということがあるかもしれないが……。その可能性は低いと思っている。
もしミッガ王国で神子様が暮らしていれば、ミッガ王国には何かしらの影響が起こるし、神託も受けることが出来るだろう。そういう変化が見られないということは、神子様がミッガ王国に訪れていないということ。なら、何処に行ったのか。―――フェアリートロフ王国でも、ミッガ王国でもない場所と考えるのが良いだろう。あの神子様が育った村の位置を考えると、フェアリートロフ王国とミッガ王国の国境の南に広がる森が一番神子様が向かった場所ではないかと私は思っている。
とはいえ、これは私が考えているだけのことだ。本当にそうであるかは分からない。
「私は、神子様は森の中に入っていったのではないかと思っています」
「森の中へ?」
訝しそうな目を向けられてしまった。
女性神官は、私に対して言葉を発する。
「神子様は、アリス様と同じ年の少女なのでしょう? でしたら危険な森の中へなど入ることはないと思います。幼い少女が森の中で生きていけるはずもありませんし、森の中に入っていたならば神子様はとっくに死んでいるということになりませんか。貴方は神官でありながらそのことを望むのですか? 神子様が死んでいる可能性よりも生きてお目にかかれる可能性を考えるのが神殿に仕える身として当然です」
女性神官はそんなことを言っているが、正直神子様のことを思ってというより、自分自身が森の中に入りたくないという思いが透けて見えている気がした。
「……そうでしょうか。では、まずは神子様が居た村に向かいましょう」
女性神官は、意地でも森に入りたくないという思いがあるように見えた。ならば……私だけでも神子様の元へたどり着くために、森の中へ入れるようにしたいと思った。……いえ、それは最悪の場合だ。女性神官を大神殿に帰して、他のメンバーで神子様を追って森の中へと入っていけるようでもいい。そういう風にするために、他のメンバーへの説得をしなければ。まずは、神子様のいる村までいく。そこまでの間で、メンバーの説得を試みよう。
神子様が森へ入っていったという確証はないけれど、私はそう思えてならないから。
――――神官、旅が始まる。
(神官は、旅を始める。森の中へ入りたい神官と、入りたくないメンバー。しかし、神官は、神子が森へ入ったのではないかという気持ちが強くなっている)
少女と、魔物退治を、少女と、魔物退治に向けてのことに変更しました。