少女と、エルフ 8
おじいさんエルフは、私の言葉に驚いたような顔をしている。私がこんなことを言い出すとは思ってなかった、そんな顔をしている。
「おじいさんエルフ、私は、エルフの人たちとも仲良くなれたらって思う。皆のこと生贄にしようとしているのは……、魔物がいるから。だから……魔物を倒せたら、全て、問題、解決する」
嫌い合うよりも、仲良くできた方が断然良いに決まっている。本当にどうしようもない人は敵対してしまうけれども、まだ、エルフたちは皆を生贄にはしていないだろう。生贄にする、と口にはしているけど、まだ間に合うはずだ。
「何を、根拠に……出来るなんて言う」
「根拠、なんてない。でも、私は出来るんだって、信じてる。それにやってみなければ、出来るか出来ないか、なんて分からないよ」
絶対に、魔物を倒せるなんていう根拠はない。だけど、私は信じている。皆で力を合わせればきっと、何だって出来るって、そう思っている。それに、出来ない、であきらめてしまったら私が生きながらえたとしても私が一緒に生きたいと思っている人が居ないのは嫌だから。
だから、絶対におじいさんエルフを説得してみせる。しなければならない。精霊を感じ取れる私の言葉だからこそ、おじいさんエルフは聞いてくれるんだから。
私の言葉におじいさんエルフが黙る。次の瞬間、私は、おじいさんエルフの横で何かが揺らいだのを見た。
あれは、精霊だろうか。はっきりは見えない。だけど、感じられる。確かに、そこに存在しているとわかる。
「貴様は……」
精霊が、何か動きを見せたと思えば、おじいさんエルフは私に向かって言葉を発した。そして首を振って、いう。
「何故だかわからない。だが、わしの精霊様が貴様の味方をするようにいった。もうわしに語りかけるだけの力もないだろうに。貴様の味方をしろと、貴様の言うとおりに共に戦えと」
悔しそうな声だった。
「……貴様には何かあるのかもしれぬな。……たかが人間風情が精霊様にこれほど気にかけられるとは、まぁ、良い。精霊様の言うことをわしは無視など出来ぬ。不本意だが、貴様の案をのむことにしよう」
おじいさんエルフは、私のことを”たかが人間”っていう。獣人たちのことも”野蛮な獣人”だって。その評価は頑張れば覆せるだろうか。私たちのこと、エルフたちは認めてくれるように、いつか、なるだろうか。
分からないけど、とりあえず精霊が私と共に戦ってって言葉をかけてくれたからこそ皆が生贄になるということが回避されたことを喜ぼう。ああ、よかった。ちゃんと私の言葉が通じてよかった。ほっとして、力が抜けて、座り込んだまま立てなくなった。
私を連れて皆の元へ行こうとしていたおじいさんエルフは、私が立てなくなったのを見て溜息を吐いて、だけど私のことを連れて行ってくれた。
抱えて、とかではなく魔法でだ。風の魔法だろうか、詠唱を紡いだおじいさんエルフは私を浮かせた。魔力の流れが感じられた。おじいさんエルフから流れてきた魔力は優しくて、心地よかった。
私とおじいさんエルフが一緒にやってきたことに、エルフたちも、ドングさんたちも驚いていた。そしてランさんもエルフの人たちと一緒に何が何だか分からない様子でやってきて、私の顔を見るなり、「無事で良かった」って抱きつかれた。ランさんも、無事で良かったって思った。
そんな私とランさんの様子にドングさんがおじいさんエルフに説明を求めた。
おじいさんエルフは、私にしたような説明をドングさんたちにした。獣人たちやランさんの顔は自分たちを生贄にしようとしていたというエルフたちの恐ろしい計画に青ざめていった。だけど、ドングさんは、冷静だった。
「それを、我らに話したということはその計画を取りやめたということか?」
「ああ、その通りだ。我らは……自分たちが生贄にされないためにも貴様らを生贄にするつもりだった。だからこそ、貴様らをこの場に受け入れた。だが、予想外のことが起きた。この娘が、精霊様を感じられた。そしてこの娘と話した。この娘は言った。共にその魔物を倒さないかと」
この娘、この娘と、おじいさんエルフは私の名前など呼ばずにいう。名前で呼んでほしいと、私はおじいさんエルフの後ろで思った。
おじいさんエルフは、戸惑うまわりに続けた。
「わしはそれを突っぱねることも出来た。あの魔物相手に戦って、負けないとは言えなかった。だが、わしの精霊様が……この娘と共に戦うべきだと、久方ぶりにささやいた。精霊様のいうことを突っぱねるわけにはいかぬ。だから、わしは、共闘することを決めた。貴様らも、生贄になるよりは、共に戦う方がよかろう?」
おじいさんエルフはそういいながら、ドングさんを見た。ドングさんは、私の方を見ている。私は頷いた。ドングさんは小さく溜息を吐いて、
「いいだろう。……我らを生贄にしようとしたことは許せない。だが、まだ事が起きる前だ。我らだってエルフと敵対したいわけではない」
そういった。
そして、ドングさんは続けた。
「………その代り、もしその魔物を倒すことが出来たら我らのことを”人間”や”獣人”というくくりではなく個人として、認めてくれ。そしてこの場所で正式に仲間として過ごすことを認めてほしい」
ドングさんが言った言葉に、おじいさんエルフは、
「………よかろう、本当にあの魔物を倒せるというのならな」
と、そういったのだった。
――――少女と、エルフ 8
(多分、神子な少女と仲間たちは、そうしてエルフたちと共に魔物退治に挑むことになるのだった)