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少女と、エルフ 7

最後の文、少し書き換えました。

 魔物。


 私は、その存在について詳しくない。

 私はグリフォンやスカイホースとは仲良くしている。だけれども、それ以外の魔物というのは、よく分からない。私が仲良しの魔物以外と、会ったことがなかったからというのもある。私は、グリフォンたちやシーフォのことが大好きだ。彼らは魔物だけど、分かり合えていると思っている。だけど、世の中には、恐ろしい魔物も、沢山いるのだ。



 それを知識としてはわかっていた私だけど、事実としては理解できていなかったのだと私は理解する。私は、グリフォンたちやシーフォのような魔物が、エルフたちに生贄を求めているという事実が思ったよりもショックだった。



「その魔物さん……どうにか、すること出来ないの?」




 エルフが生贄になっている、とおじいさんエルフはいった。それはおじいさんエルフにとっても望んでいることではないだろう。ならば、その魔物をどうにかすることは出来ないのだろうか。



「そんなもの、出来たらとっくにやっている」

「―――怖い魔物から、逃げることは?」



 自分たちを生贄にする存在を、どうにかすることが出来ないというのならば、その恐ろしいものが存在する場所から逃げることは出来ないのだろうか。獣人の皆と私たちが人間の国から逃げたように。逃げればいいのではないか、そう考えてしまう。でも、そういった私におじいさんエルフは激昂したようにいった。



「―――そのようなこと、出来るはずがない!!!」




 叫んだ。叫んでいた。



 おじいさんエルフにとって、ここから離れられない理由があるのだろう。その魔物さんをどうにも出来なければ、おじいさんエルフは皆を生贄っていう怖いことを行うのだろうか。ならば、私は何が出来るだろうか。私は、どうしたらいいだろうか。それを必死に考える。ひとまず、私は聞きださなければならない。どうして、生贄を与えなければならない状況に陥ったのか。





「どうして?」

「………精霊樹がある」

「精霊、樹? それって、精霊を生むって言われている場所?」

「―――いわれている場所ではない、実際に、精霊様がその尊い命を灯す場所だ。その場所の麓に、魔物が居座っている。精霊樹をいつでも奴はどうにでもすることが出来るのだ。精霊樹を放って別の場所へ向かうことなど出来ない」




 おじいさんエルフが私に、沢山の話をしてくれているのは私が精霊を見ることが出来るからだろうか。



 精霊樹というものは実在する。その場所で精霊は生まれる。精霊が生まれる樹というのが実在する。私が感じ取った存在が、生まれる場所。そこに居座っている。………精霊樹というものが、エルフたちにとってどうでもいいものだったのならば、きっと、エルフたちはこの場から逃げ出して終わりだっただろう。それが出来ないのは、精霊樹というエルフたちにとっての大切なものがあるから。




「精霊樹に精霊様の命は灯る。長い時間をかけて精霊様は精霊樹で育つ。そして育って……、世界に羽ばたいていく。精霊樹の手入れをしている我らエルフと契約を結んでくださる。それ以外の精霊様は世界でそれぞれ好きなように生きている。……中には、貴様のように視えるものがいる。そのものたちと、契約を結ぶ精霊様もいるが」

「……私が、感じ取ったの、おじいさんエルフの側にいる精霊様だけ」




 エルフの多くが契約を果たすという精霊。しかし、私が感じ取れたのはおじいさんエルフの側にある魔力だけだった。それはどういうことなのだろうか。




「……精霊様は、ある時期になると精霊樹にとどまる。そして精霊樹で休まれるのだ。あの魔物のせいで、精霊様は満足に精霊樹で休めていない。長い時を生きる精霊様の帰還の時期によりにもよってあの魔物は精霊樹に居座るようになった。我の精霊様はそれなりに力を持っていた精霊様だったから貴様でも感じられるのだろう。感じられないほど弱ってしまっている精霊様が多い。加えて、あの魔物は、精霊様さえも食らう」

「……精霊を、食らう?」

「……エルフである我らが生贄を拒否すれば、精霊樹に灯されたばかりの命を食らい、我らの契約している精霊様を食らい、それに耐えきれずに我らエルフが生贄となれば、そのエルフと契約していた精霊様が暴走を果たしたり、あの魔物に食われる」




 おじいさんエルフは、そんなことを言った。自分の大切にしているものが、魔物に食われる。……それを考えたら、ぞっとする。私にとって大切な獣人の皆やランさんを、おじいさんエルフが生贄なんてものにしようとしているのは、そういうことを何度も何度も、目撃をして、そして心をすり減らしていった結果の答えなのではないか。



 仲間が食われ、敬愛する精霊という存在が食われ、それがどれだけ長い時間続いてきたか分からないが、私たち人間や、獣人たちを嫌っているだろうエルフたちがわざわざ村の中に私たちを住まわせることを妥協するほどの長い時間が経過してきたのは確かだと思う。




「………おじいさんエルフは、代わりに皆を、その魔物に食わせようとするの?」

「ああ、食わせるさ。そうすることで精霊樹と精霊様、そして我らエルフが生きていけるというのならな」




 エルフたちが私に名前を教えないのは、私たちのことをどうでもいいと思っているから。きっと、私たちをすぐに生贄にする存在だと思っているから。……話を聞いてそう思う。

 私がこのまま、何もしなければ、何も動かなければ、その恐ろしい魔物のことも、エルフの事情も、皆が知らないままに皆死んでいってしまうのだろうか。――――そんなの、嫌だ。嫌だからこそ、私は口を開く。




「その魔物を、どうにかできたら生贄にとかしない?」

「……何をいっている」

「私は、皆を生贄されるの、嫌。獣人の皆もランさんも、私は、大好き。嫌だから、魔物をどうにかしたいって思う」

「……我らエルフがどうにもできなかった相手だぞ? それを、人間や獣人風情がどうにかできると?」





 おじいさんエルフは、苛立ったように私を見下ろしていう。

 私は、そんなおじいさんエルフに言った。




「私、エルフたちと出会った時、仲良くなれたら素敵だって、思った」



 なんて素敵だろうとと思った。




「身体能力が高い獣人と、魔法が得意なエルフ………得意なことが違う種族が、手を取り合えたらって」

「……何が言いたい?」



 おじいさんエルフは、私が何を言おうとしているのか分からないといったように言う。




「………身体能力が高い獣人と、魔法が得意なエルフ、そして力になれるか分からないけど、私と契約しているグリフォンやシーフォ、それだけ揃ったら私、何だって出来ると思うんだ」



 私の言った言葉に、おじいさんエルフは、何も言わない。返事もしないおじいさんエルフに、私はいう。




「エルフだけで倒せなかった魔物も、皆で力を合わせれば倒せるって私は思う。やりもしないで、出来ない、なんて言いたくない。一つの種族で出来なかったことだって、皆で力を合わせれば出来るって思う」




 エルフの人たちは、勝てなかったということに諦めているのかもしれない。でも———、それはエルフたちだけで戦ったからだ。




「力を合わせて、魔物、倒そうよ。生贄をどんどん与え続けたって、何も変わらないよ。ずっと、悪いことが続いていく、それ、だけだよ。それよりも、倒す方が、絶対にいいよ」




 私は、そういって、おじいさんエルフを見るのだった。




 ―――――少女と、エルフ 7

 (多分、神子な少女はそのエルフの話を聞いて、そう提案した。このまま何もせずにいられなかったから)




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