王女と、報せ。
1/21 二話目
――――貴殿の国の神子様は、本当に神子様であるのか?
その文字の意味を、私、ニーナエフ・フェアリーはずっと考えていた。
本来ならば、なんて無礼な、なんて不敬なというべき言葉だ。なぜなら、神官が神託を受けて、見つかった正式な神子。それが本当は神子ではないのではないか、などというのは、神を敵に回すだけではないかとも考えられるもの。だけど、だけど、私は————、本当にアリス様が、神子ではないのだとしたら? というその可能性に気づいてしまった。
なぜなら、神子であるアリス様がフェアリートロフ王国に保護されているというのに、フェアリートロフ王国では天災と呼ばれるものが、少なからず起きている。その原因を、国は神子であるアリス様を不快な気持ちにさせているからではないか、という考えだった。でも、その前提が、違ったのならば———アリス様が、神子ではないのだとしたら。
――――神託は本物だろう。あえて、嘘で固めた神子様を生み出す理由はないのだから。ならば、どうして、神子がアリス様ではない可能性があるのだろうか。連れてこようとして間違って連れてきた? その可能性はある気がする。なぜなら神託を受けた者たちは皆、神託を受けた反動で倒れていたのだから。
そもそも、何故、ヒックド様はアリス様のことを神子でないのかもしれない、などと考えたのだろうか。私は何故そう思ったのか、ヒックド様に聞きたいと思った。
このフェアリートロフ王国の王女としても、個人としても知りたいと思った。
―――知ったところで、第五王女などという立場の私が何を出来るかは分からないけれど、私は真実を知りたいと思ったから。
でもわざわざヒックド様が、他のものにばれないように私に告げたのは、ヒックド様以外が神子についてのことをミッガ王国側も本物ではないのかもしれないという可能性を考えていないのかもしれない。実際、この件は公にするには、影響力が多すぎる。
でも、ミッガ王国からしてみれば、隣国であるフェアリートロフ王国が神子を保護している事実は歯がゆいだろう。ミッガ王国だって神子を保護したいと考えていたはずだ。―――ならばフェアリートロフ王国の神子が神子ではないことの方が都合が良いのだ。
偽物の神子を保護しているといって、糾弾したりできることだ。もし、ミッガ王国の国王が知っているのならば、そういう行動を少なからずすると思う。なら、何故、ヒックド様はそれを国王にいっていないのか。それでいて私に伝えることにしたのか。
気になった。知りたかった。
だから私は、お父様に、ヒックド様と会ったこと、そしてヒックド様と仲良くなりたいことを手紙にしたためて送った。ミッガ王国との戦争を望んでいないお父様ならば、私の手紙を見て、私とヒックド様を近づけようとするだろう。私もヒックド様も、発言力が低いとはいえ、王族なのだから。
お父様に、私は、ヒックド様から言われたことは何も言わなかった。アリス様が神子でないかもしれないという情報は、言わなかった。本当にそうであるのか分からなかった。本当にアリス様が神子ではないという確信が持てたらいうかもしれないけれど、今はいうべきタイミングであるか分からなかった。駄目になっている国に、そんなことを告げてどうなっていくかも分からない不安もあった。もし、あれだけ、アリス様が神子だからと何でも言うことをきいて、神子のためにと行動していて、神子としてのアリス様しか見ていない方々が知ったらどうなってしまうのだろう、そんな思いもあった。
―――私は、アリス様が我儘だとは思うし、アリス様の性格に好感は持てない。だけど、彼女はまだ子供だ。先日のアリス様の誕生日の時に、アリス様は顔を見えないような服装でお披露目がされたそうだ。神聖な神子の顔をさらすわけにはいかないなどといって。お披露目までされた神子が、神子ではなかったら———と考えてはっとなる。見た目についての噂は広まっているとはいえ、それはまだ王都周辺にしか広まっていない。この辺境の地では神子が現れたぐらいしか噂は出回っていない。もしかしたら、神殿は神子が神子ではないかもしれないとでも分かっているのかもしれない。その可能性に気づいた。もしかしたら——の話だけど、そういう可能性だってあるのだ。
でもそうだったとしたら、アリス様を神子として保護してから、アリス様が神子ではないと気付いたということだろうか。だったら、本物の神子はどこにいるのだろうか。
色々な思惑が絡んできている。複雑に絡まり合っている。私は頭の中で混乱してきている。事実確認をして、その場合、どうしたいかとか考えなきゃいけない。最悪の場合、アリス様は罪がないのに断罪され��可能性がある。神子を騙ったなどと言われて。
そんなことを考えながら、真っ先にすべきことはヒックド様と話すことだろうと思った。そのきっかけをお父様からの返事で作れたらいい。
そんな思いで、私は、お父様からの返事の手紙を待っていた。
しばらくして返ってきた返事には、ヒックド様と私の婚約の話を進めるということと、――――アリス様の母親が病気に伏せているという報せが綴られていた。
――――王女と、報せ。
(その王女は王子の言葉に思考し続け、国王に働きかけた。そしてその報せをうける。神子の母という最も幸せになれる存在が病気になった事実は、何をもたらすのか)