王女と、出会い
フェアリートロフ王国の王女である私、ニーナエフ・フェアリーは辺境の地アナナロで、味方を作ることに精を出していた。
私は、味方を少しずつ増やしていけているのではないかと自分では思っているけど本当にそんな風に出来ているのか、正直わからない。自分ではそういうつもりでもそんな風に出来るかわからないのだ。
だって、私の味方だと今はいってくれている人がいつまで味方でいてくれるかもさっぱり分からないのだから。王女という地位のために、近寄ってきているものも多くいるだろう。でも、王女という地位以外の価値は、私にはそうないだろう。
もっと力があったら、どうにでも動けるのだろうか。あの神子様を諌めることだって出来たのだろうか。相変わらず国内では、災害が起こっていたりと騒がしい。正直諌める人間がおらず、神子が楽しく生活が出来ているのならば、このように災害が起きたり不吉な出来事が起こることはないと思うのだけど、起こっているということは、神子様を諌めてくれる方が現れてくれたのかしら。
でもそれにしては王都でそういう事件が起きているという噂を聞かないからよくわからないわ。神子様があれだけ我儘ではなくて、もう少し聞き分けが良い方だったら……良かったのにと私は思ってならない。
これからこの国は本当に何処に向かっていくのだろうか。
ミッガ王国との関係は、悪化していると私は思う。それなりにミッガ王国の兵の姿が見られると、領主の方々が話をしていたのもきいた。
何でも、フェアリートロフ王国の兵士も徘徊しているような位置の森で、ミッガ王国の兵を見かけたということで住民たちの不安もそれなりに大きいらしい。私もこれからどうなるのだろうという不安は大きい。
そんな中で、お父様から、手紙が届いた。
その手紙に書いてあったことは、国境に隣接している街にミッガ王国の王子が滞在しているという噂があるから、そのものに出来れば接触をするようにということだった。
国の上層部の中では、ミッガ王国との戦争をすることを望む声があることが、お父様はミッガ王国との戦争を望んではいないのだろう。神子様のことを重要な存在であると認識しているだろうし、神子様に何かがあったら大変なことになるからということもあって神子様の機嫌を害さないようにしているが、神子様がいるからといって他国に戦争を吹っかけようという思想にお父様はならないだろう。
王子と交流を持てれば、少なからずミッガ王国との戦争の回避につながるかもしれない……というのは希望でしかないけれども、そうかもしれないと思って。
そもそも、手紙を出したところでその王子が私に会ってくれるかもわからないが、まぁ、その王子も辺境の地に追いやられていることを考えるとそこまでの重きを置かれていない王子なのかもしれないけれど。
手紙を出したら、予想以上にすぐ返事が来た。
王子も何か気になることがあったのか、国境のぎりぎりの場所にある村で、互いの護衛を引き連れてになるが会うことになった。危険だという意見も勿論あったけれども、それでも私は今後のためにもミッガ王国との伝手は少なからず作っておいた方がいいと思っていた。
王子もよく、会えませんかという私からの言葉に承諾したものね、と正直思ってしまった。
村の村長宅にお邪魔させていただいて、そこでの会合になった。
第七王子のヒックド・ミッガ様と会った。ヒックド様と会ったのは初めてだった。というより、私は第五王女という立場で、ヒックド様も第七王子という立場で互いに国にとってさして何かあったとしても問題がない存在だからというのもあるのだろう。
第一王女とか、第一王子とか、そういう生まれが早い存在同士は交流があるし、私もミッガ王国の王太子のことはわかる。似顔絵でこちらに回っても来ているのもあるし、ミッガ王国とは国交が結ばれているのもあって王太子がフェアリートロフ王国の王城に訪れたことがあるもの。フェアリートロフ王国の王太子であるお兄様や、第一王女であるお姉様は他国に知られているだろうけど、私が他国に知られていないのと同様にヒックド様も知られていないのだろう。そう考えれば、年は、二歳違うけど、私とヒックド様は立場が似ている気がするわ。
初めて会ったヒックド様は、十二歳という年にしては憂いを帯びた瞳を持っているという印象を受けた。王族であるのならば、市井の子供とは違う育ち方をする。市井の子供たちよりも良い生活をするだろうが、王族としての義務が生じているから色んな経験をすると、私は思っている。だからこそ、ヒックド様はこれだけ冷たい目を浮かべているのかもしれないとも思った。
美しい銀色の髪を持つ人形のようだとも思った。その、冷たく憂いを帯びた表情が益々、彼を人形のようだと思わせるのかもしれない。
ヒックド様はまず、森で騒がしくして済まないとこちらに謝罪をしてきた。そして我が国と戦争をするつもりはミッガ王国の国王にもない旨を伝えてきた。我が国が、神子様を保護したという事実があるからこそ、わざわざそれが伝えられたのだろうと思う。普通に考えて、神子様を敵に回そうとする者はまずいない。神子様は神様に愛されている存在で、神子様のことを不愉快な目に合わせるわけにはいかないのだから。
とはいえ、ヒックド様は私に何か言いたそうな顔を時折していた。やはり、何か気になることがあるのだろうか。それを口に出さないのは、護衛がいる中で口に出しにくいということだろうか。私はヒックド様が何を気にしているのか、そのことが気になった。
村長宅を去る際、ヒックド様は、「またお会いできることを祈っております」というお世辞を口にし、それと同時に手を出してきた。握手を求められていると理解した私は、手を出す。そして握手をしたあと、私は自分の手に一枚の紙が手に残ったのに気づいた。それを護衛たちにばれないように平然とした表情を保って、紙を隠す。
それで、私とヒックド様の邂逅は終わった。
部屋に戻って、私は先ほど手におさめられていた紙を見る。折りたたまれていたその紙を開いて、その文字を目でなぞる。
そこにかかれていたのは、たった一言だ。
だけど、その一言の言葉は、私を驚愕させるのには十分なものだった。
そこには『貴殿の国の神子様は、本当に神子様であるのか?』というその一言だった。
―――――王女と、出会い
(その王女は、多分、神子な少女と邂逅を果たしていた隣国の王子と出会った。そしてその疑問を、ぶつけられる)