少女と、少年の誓い 2
朝からの更新の三話目です。
――――もう、こんなこと起きないようにしたいって。獣人だからとか、人間だからとか関係なしに、大切な人がこんな目に合わなくてすむようにしたいんだって。
―――皆が笑える場所を、人間が襲ってくるとか、そういうのなくて暮らせる場所を、作りたいってそう思ったんだ……。
ガイアスの、言った言葉を頭の中で繰り返す。
ガイアスの目指したいものを、理解して、なんて、なんて素敵だろうって思った。本当にそういう、皆が笑えて、皆が暮らせる場所を作れたら、どれだけ幸福なことだろうって。
獣人だからとか、人間だからとか、そんなこと関係なしに、大切な人たちが笑える場所を作り出せたらって。
私はアトスさんのことがあって、アトスさんがあんな風に亡くなって。それで守りたいとかしか思いつかなかった。皆のこと守れたらって、守れるように強くなりたいって、もう二度と失わないために力をつけたいって。それしか考えられなかった。
でも、ガイアスは、そうじゃないんだ。皆を守っていきたいっていうのはガイアスも感じている気持ちだろうけれど、それだけじゃなくて、その先まで考えてる。ガイアスって、凄い、そう思った。
「……大口たたいている自信あるし、馬鹿みたいな夢物語、だろうけどな」
「そんなことない!」
「レルンダ……?」
私が思わず叫んで立ち上がったからガイアスが驚いた顔をしている。私はガイアスの目の前に立つ。そして、言った。
「私は……すごく、すごく……素敵なことだって思う!」
本当に、素敵な考えだって思ったんだ。そんな場所を、本当につくれたら。なんて素敵で、素晴らしいことなんだろうって。
アトスさんのように、”獣人だから”って理由で酷い事される人がいないような場所がつくれたら。皆を守って、笑って暮らせる場所を作れたら————、なんて、なんて良い事なんだろうって。
確かに難しいかもしれない。いや、絶対に難しいことだろう。獣人たちより、人間の方が勢力が強い。だからこそ、アトスさんがあんな死に方をしなければならなかったのだ。人間は、獣人に何をしてもいいなんてひどい考えがあるからこそ、あんなことになってしまったのだ。
だからこそ叶えるために、どれだけ頑張らなければならないかもわからない。けど———私は。
「私も……」
「レルンダ?」
「私も! そんな場所、作りたい」
私も、作りたいんだって。なんて素敵なんだろうって思ったら声が出た。そんな場所を、私も……私も作りたいって思ったら、声が大きくなった。
「皆が、笑って! そして……、幸せに、くらせる場所! 作ろうよ!!」
私が思わず声を出してそういってしまったら、ガイアスは、笑った。
「ははっ」
「ガイアス?」
「……レルンダ、出来ないとか、思わないんだ?」
「うん、だって。作りたいの、本当でしょ? 私も、作りたいって、思う」
「うん……そうだな」
私の言葉に、ガイアスは相変わらず笑って、そして立ち上る。
そして、私の真正面に立つ。
「なぁ、レルンダ、手を出して」
「うん?」
なんでそんなことを言われるのか分からないけど、右手を出した。そしたら拳を握るように言われる。分からないままに、拳を握る。ガイアスは私の手に、握った拳をあてる。
「獣人族の間で、対等な相手と誓いを立てる時にこうするんだって、父さんに聞いたんだ」
「誓い……?」
「そう、絶対に叶えたい、大事なことを誓う時にするんだって聞いた」
ガイアスはそういって笑った。そして、ガイアスは続けた。
「レルンダ、俺は……」
「うん」
「さっき言ったような場所を作りたい。いや……作ってみせる」
「うん! 私も、作るの、一緒にやる」
「……そのために、もっと、もっと強くなる」
「うん……。私も、守るために、強くなる」
「そういう場所、作るためにどうすればいいか具体的には分からないけどな……」
「ランさん、たち、相談する。ガイアスは、一人、違うから」
「ああ、そうだな」
二人で向かい合いながら、そんな会話を交わす。
そしてガイアスは、息を吸って、大きな声でいった。
「俺は、絶対に、何が何でももう父さんのように殺される人を作りたくない。だから、皆が笑える場所を絶対に作る!!」
ガイアスが、私の方を見る。私も、それにこたえるように声を上げた。
「うん。私は、それを手伝う。私も、作りたいから! そして、大切な人たちを、皆守れるぐらい、強くなる!!」
拳を突き合わせて、二人でそんな誓いをした。
難しいかもしれない、もしかしたらかなわないかもしれない。でも、それを叶えたいって、そういう場所を作りたいって、そう思った気持ちは確かな気持ちだから。そんな素敵な場所を一緒に作っていきたいって、心の底から思ったんだ。
私と、ガイアスの、そんな二人だけの誓いを聞いていたのはこちらを窺っているシーフォと空に輝く星だけだった。
――――少女と、少年の誓い 2
(多分、神子な少女は少年の夢を、なんて素敵なんだろうと思った。だからこそ、彼らは誓った。幼いながらにそんな場所を作ってみせると)