少女と、少年の誓い 1
朝からの更新で二話目の投稿になります。
行先は決まっていない。―――そんな風に、アトスさんの代わりに皆をまとめようと必死なシノルンさん、オーシャシオさん、ドングさんは言った。
皆が安心できる場所を目指すんだって。グリフォンたちやシーフォも流石にこれだけの大人数を運ぶことは出来ないから、皆歩いている。グリフォンたちやシーフォは私たちの周りに危険が迫らないように目を光らせてくれている。それだけでも助かっているといわれた。グリフォンたちやシーフォが居なかったら、こうやって南下していくことも大変だったと。
アトスさんを探しに出かけた人たちは、人間たちにつけられそうになっていたという話も、足を進める中で聞いた。私はそれまでアトスさんを探しに向かっていた面々が、どうして帰ってこなかったのか、バタバタしていて聞けていなかった。村に戻ろうにも、戻ったら村の場所が知られてしまうとどうにか人間達をまこうとしていたそうだ。それでグリフォンたちが見つけてくれてつけてこようとした人間達をどうにかしてくれたっていうことだった。
何処に向かえばいいのか、それさえもわかっていない。だけど、森の南部は人の手が入っていなはずだからって言ってた。少なくとも、フェアリートロフ王国とミッガ王国の手は入っていないって。だから、とりあえず逃げなければならないんだって。
やれることを、私はやる。
出来ることを、精一杯やる。
そして、守りたい。もう大切な人を失わないために。悲しいことが、起きないように。そのために私は何をしなければならないのだろうか。何をすれば、いいのだろうか。
そのことばかり、ずっと考えていた。
夜になった。村から逃げ出して二回目の夜。昨日はランさんが私の手を握ってくれて、おやすみといってくれた。子グリフォンたちも傍にいてくれた。レイマーたち大人のグリフォンたちと、大人の獣人の皆が夜の見張りを交代でしていた。私も、手伝いたいっていったけど子供は寝ていていいって言われてしまった。私が契約している皆が夜の見張りを手伝ってくれているだけでもありがたいから、なんていって。
夜に、ガイアスが、どこかに行こうとしているのを見てしまった。私はアトスさんが居なくなった時のようにガイアスがどこかにいってしまうのではないかって思って、追いかけた。
「ガイアス!!」
ちゃんと、ガイアスを呼ばなきゃって思って、声を上げる。
ガイアスが、驚いた顔をしてこちらを見る。
ガイアスとは、あの日以来ちゃんと話せていなかった。私もガイアスも、アトスさんが亡くなったことに動揺して、それから村の皆で村を捨てるってことでばたばたしていた。
「レルンダ……、あの時も思ったけど、そんな風に大きな声出せるようになったんだな」
「うん……。声、出さなきゃ、思ったから……」
声を出さなきゃって思った。ガイアスのこと、探さなきゃって。言葉を話すのが苦手だとか、そんなの言ってられないんだって思ったから。
「そっか……」
「うん……」
ガイアスが、地面に座った。私も、隣に座った。気づいたら、シーフォがこちらを覗いていた。ガイアスは気づいていないみたい。何事もないように見ててくれているらしい。
ちょっと、会話が途切れた。
「父さん……死んじゃったんだよな」
「うん……」
アトスさんは死んだ。もう、会えない。ガイアスは顔を、悲しそうにゆがめている。
「なんで……父さんが、あんな死に方しなければならなかったんだろう……。俺たちが、獣人だから? 人間ではなかったから? だからって、何であんなひどいこと、出来るんだろう」
「うん……」
私も、ガイアスと同じことを思っている。人間ではないからってあんな死に方をしなければならなかった意味が、分からない。どうして、そんなひどいことが出来るかわからない。
ガイアスが悲しんでいる。ガイアスが辛そうな顔をしている。私はガイアスに手を伸ばして、ガイアスの体をぎゅってした。
「レルンダ……?」
「ガイアス、辛そう。辛い時、ぎゅってされる、安心する、から」
ガイアス、そういったら泣いている。声を押し殺して、泣いている。アトスさんが、居ないこと、酷い殺され方してしまったこと悲しんでいる。私も、一緒に泣いてしまった。悲しいって、何でって、そう、思って。
二人で思いっきり泣いた後、私は「レルンダ、離れて……」と言われて、またガイアスの隣に座った。
「……ガイアス、私、出来ること、いっぱいやる」
「出来ること?」
「うん。……何かあった時、声、出せるよう。練習する。私、皆が優しいから、喋るの、苦手、そのまま、してた。でも……それじゃ、駄目、思ったから」
苦手だけど、何かあった時に喋るの苦手だからなんて言ってられない。声を出して、守っていかなきゃいけないのだ。守りたいものは。
「いいんじゃないか? レルンダらしい喋り方じゃなくなるのはちょっと最初は違和感あるかもだけど」
「うん……。それに、もっと、もっと出来ること、私には、あるから」
「……なんでそう思うんだ?」
「……うん。ガイアス、私のこと、嫌うかもだけど、もしかしたらの話、していい?」
私はそういって恐る恐る、横に座るガイアスのことを見た。ガイアスは何をいっているんだって顔をして、だけど「嫌わないから、いってみて」と言われた。安心した。
「……ニルシさんがした、神子の話、覚え、てる?」
「神に愛された子……とか、父さんがいってたやつ? それが現れたからミッガ王国がニルシさんたちを襲ったっていってたよな、確か」
「うん。私……神子、かもしれない」
「え?」
ガイアスが、驚いた声あげた。私は怖かった。怖くて下を向きながら、話す。
「保護、されてる、神子。双子の、姉。姉が、連れていかれたけど………私、昔から不思議なことあるから」
「不思議なことって……」
「ガイアス探した時、私に、あの人たち、触れられなかった」
「ああ、そういえば、そう、だった」
「お母さん、お父さん……あと、村の、人たち。私、たたこうとか、してもたたけなかった」
そもそも私がそんな風な不思議な現象が起こること、ガイアスは知らない。私は獣人の村で幸せで、そんなこと言う必要もないって思ってた。
「たたこうとか、私に、皆、出来ない。だから私、ガイアスのこと、守れた。それ、神子だからじゃないか、って。ランさんが言ってる」
声が震える。怖いなぁと思う。ガイアスに嫌われたら、どうしよう。
「私いたから、色々、起こってるのかも。だから、ごめん、なさい。アトスさん、死んだの、私も、原因かもだから……」
ランさんは、貴方のせいじゃないっていってくれた。でも、神子が、現れたからなんじゃないかって、そう思ってしまう。ガイアスは、どう思うんだろう。私が、神子かもしれないって、知って。
怖かった。
怖かったけど、私に触れたのは優しい手だった。
頭を撫でられているって気づいて、顔を上げて、ガイアスを見た。
「俺は、子供だし、神子とか正直よく分からない。起こっているきっかけかもしれない。でも———その神子かもしれないって、思える力で俺を守ってくれたんだろう。―――レルンダが駆けつけてくれなきゃ、俺は多分よくて人間に捕まって、悪ければ死んでいただろうから」
「うん……」
「だから、嫌いになんて、ならない」
そういわれて、ほっとした。怖かった。知られたら嫌われるんじゃないか。皆が大好きだから。ガイアスのことも、大好きだから。
「神子、特別だって。ランさんが、言ってた。神子、じゃないかもしれない。けど……神子なら、私、頑張れば、皆、守れるって思う。だから、頑張って、もう失わないように、したいの」
神子が特別で。私が、本当に神子なら。頑張れば皆を守れると思うから。失わないようにしたいんだって。そう思っている。
私の言葉を聞いて、ガイアスは、真剣な顔をしていた。
「俺も……」
ガイアスがこちらを見てる。
「……俺も、もうこんなこと起きないようにしたい」
「うん」
「……父さんが殺されて、色々考えて思ったんだ」
「……うん」
「もう、こんなこと起きないようにしたいって。獣人だからとか、人間だからとか関係なしに、大切な人がこんな目に合わなくてすむようにしたいんだって」
「……うん」
「無理、かもしれない。でも俺は———皆が笑える場所を、人間が襲ってくるとか、そういうのなくて暮らせる場所を、作りたいってそう思ったんだ……」
ガイアスは、絞り出すような声でそういった。
――――少女と、少年の誓い 1
(多分、神子な少女は獣人の少年に秘密を告げ、少年は考えたことを口にする)